変異へんいウイルス拡大かくだいのインド「母ははを襲おそったコロナは全然ぜんぜん違ちがう」

インド・ニューデリー。

86歳さいの母はははもうすぐ来くる私わたしの誕生たんじょう日びを一緒いっしょに祝いわうのを楽たのしみにしていました。

しかし新型しんがたコロナウイルスに感染かんせんして亡なくなりました。

私わたしたちきょうだい8人にんを養子ようしとして迎むかえ、力強ちからづよく生いきてきた母はは。

ほとんど外出がいしゅつすることもなく消毒しょうどく対策たいさくも徹底てっていしていたのに…。

変異へんいウイルスが猛威もういをふるったインドで母ははを亡なくした、40代だいの女性じょせいの証言しょうげんです。

取材しゅざいに応おうじてくれたのはインド・ニューデリーに住すむ伊東いとう恵めぐみ真しんさん（45）です。

ことし5月つき、母ははの陪江こう（ますえ）さん（86）を新型しんがたコロナウイルスで亡なくしました。

8人にんの養子ようしの母ははとして

母ははは東京とうきょう出身しゅっしん。

途上とじょう国こくで農業のうぎょう指導しどうを行おこなっていた父ちち（二三夫ふみおさん・86）と一緒いっしょにラオス、バングラデシュを経へて、1970年代ねんだいにインドへ渡わたりました。

父ちちと母ははは子こどもを授さずかりませんでした。

8人にんの子こどもを養子ようしとして迎え入むかえいれ、育て上そだてあげました。

私わたしは生後せいご3か月かげつのときに、最初さいしょの子こどもとしてバングラデシュの孤児こじ院いんから迎え入むかえいれられました。

伊東いとう恵めぐみ真しんさん
「子こども思おもいで、1年ねんに10回かいある家族かぞくの誕生たんじょう日びは毎回まいかい、お母おかあさんがおいしく、大おおきくきれいにケーキを焼やくんです。みんな朝あさから楽たのしみにしていました」

変異へんいウイルス急きゅう拡大かくだい 連日れんじつ40万まん人にん以上いじょうの感染かんせん確認かくにん

家族かぞくの穏おだやかな暮くらしに影かげを落おとしたのが新型しんがたコロナウイルスです。

インドではこの春はるから感染かんせん力りょくが強つよい変異へんいウイルスが急きゅう拡大かくだいしたのです。

5月つき上旬じょうじゅんには連日れんじつ40万まん人にん以上いじょうの感染かんせんが確認かくにんされ、事態じたいは深刻しんこく化かしました。

自宅じたくにこもっていたのに…

父ちちと母ははは感染かんせんを防ふせぐため、自宅じたくにこもりました。

日課にっかだった散歩さんぽはやめる。

買い物かいものにも行いかない。

デリバリーで届とどいたものは消毒しょうどくしてから手てに取とるなど、細心さいしんの注意ちゅういを払はらっていました。

しかし、母ははが4月末げつまつからせきが出で始はじめたため検査けんさしたところ、5月つき4日にちに両親りょうしんともに感染かんせんが判明はんめいしました。

当時とうじ、ニューデリーは感染かんせん拡大かくだいがピークとなっていました。

空あいている病床びょうしょうは、なかなか見みつかりませんでした。

それでも2日にち後ごに、100キロ以上いじょう離はなれた病院びょういんにようやく入院にゅういんできました。

伊東いとう恵めぐみ真しんさん
「最初さいしょは病院びょういんに行いく方ほうが危あぶないんじゃないか、元気げんきなときでも時々ときどきせきは出でていたからすぐ治なおるんじゃないかと思おもって自宅じたくで休やすんでいたんです。でもどんどんひどくなって、せきこむばかりになってきて」

「本人ほんにんも苦くるしくて『胸むねが痛いたい』って言いうし、ニューデリー中ちゅうの病院びょういんを自分じぶんたちで当あたったけど全部ぜんぶダメ。普段ふだんはすぐに病院びょういんにかかれるのに『なんで？』って」

病院びょういんから突然とつぜん “医療いりょう用ようの酸素さんそがなくなる”

入院にゅういんから2日にち後ご。

病院びょういんから突然とつぜん、医療いりょう用ようの酸素さんそがなくなると告つげられました。

しかたなく私わたしたちで急きゅうきょ探さがした115キロ離はなれた別べつの病院びょういんに転院てんいんすることになりました。

このとき思おもいも寄よらぬ事態じたいに巻き込まきこまれます。

転院てんいん先さきの病院びょういんに向むかう道中どうちゅう、母ははを乗のせた救急きゅうきゅう車しゃとトラックが衝突しょうとつしたのです。

事故じこの処理しょりに時間じかんがかかり、救急きゅうきゅう車しゃの中なかで、医療いりょう用ようの酸素さんそが一時いちじ足たりなくなってしまいました。

伊東いとう恵めぐみ真しんさん
「救急きゅうきゅう車しゃの中なかでお母おかあさんは、付き添つきそっていた弟おとうとにしがみついて暴あばれて『助たすけて』って言いったらしいんです。お母おかあさんは人ひとにしがみつくような人ひとではない、そのときはよっぽど苦くるしかったんだと思おもいます」

自宅じたくから持もってきていた予備よびの酸素さんそを使つかって吸入きゅうにゅうを続つづけました。

でも転院てんいん先さきの病院びょういんに到着とうちゃくしたときには、母はははすでに意識いしきを失うしなっていました。

感染かんせんから9日にち後ごに死亡しぼう 火葬かそうをテレビ電話でんわ越ごしに

「回復かいふくしたら我が家わがやに戻もどりたい」
そう語かたっていた母はは。

感染かんせんがわかってから9日にち後ご、亡なくなりました。

ケーキを焼やいてみんなで祝いわおう。

そう言いって楽たのしみにしていた、私わたしの誕生たんじょう日びの2日にち前まえでした。

母ははは病院びょういんの近ちかくで静しずかに火葬かそうされました。

感染かんせん対策たいさくで火葬かそうに立ち会たちあえたのは弟おとうとだけでした。

父ちちと私わたしも弟おとうとが撮影さつえいしたテレビ電話でんわ越ごしに見送みおくることしか出来できませんでした。

伊東いとう恵めぐみ真しんさん
「弟おとうとだけが立ち会たちあったんで、わたしはテレビ電話でんわ越ごしに灰はいになるまで何なん時間じかんもじっと見みていました。母ははに持病じびょうはなく、あれだけルールを守まもって生活せいかつしていたにもかかわらず、なぜコロナに襲おそわれたのか。なぜコロナに勝かてなかったのかその気持きもちを乗り越のりこえることはできません」

「去年きょねんかかったコロナとはまるで違ちがう」

実じつは私わたしも去年きょねんの夏なつに新型しんがたコロナに感染かんせんしていました。

でも亡なくなった母ははが苦くるしむ様子ようすを見みて、変異へんいウイルスが拡大かくだいしている今いまは、そのときの自分じぶんとは明あきらかな違ちがいを感かんじました。

伊東いとう恵めぐみ真しんさん
「私わたしの時ときは、1回かいだけ熱ねつが37度ど5分ふんまであがったけどすぐ下さがって、からだの痛いたみも一いち日にちで消きえました。『コロナって、この程度ていどならたやすいじゃないか』と思おもったんです。でも今回こんかい、母ははを襲おそったコロナは全然ぜんぜん違ちがっていて、まったく別べつの病気びょうきなんじゃないか、病名びょうめいを変かえた方ほうがいいんじゃないかと思おもいました」

一方いっぽう、母ははとともに感染かんせんが確認かくにんされた父ちちも後ごに入院にゅういんしました。

2週間しゅうかんほどでなんとか回復かいふくしましたが、治療ちりょうが続つづいていたため母ははを見送みおくることはできませんでした。

伊東いとう恵めぐみ真しんさん
「お母おかあさんが入院にゅういんしようとした時ときは、病院びょういんはまったく空あきがなくて人ひとであふれていました。でも『当時とうじの患者かんじゃはみんな死しんでいなくなった』と言いって、その空あいたところにお父おとうさんは入院にゅういんできたんです。なんとも言いえない気持きもちです」

2週間しゅうかんで家族かぞくと親戚しんせき11人にんに広ひろがり、母ははの命いのちを奪うばった新型しんがたコロナ。

母ははの感染かんせん経路けいろは見当けんとうがつかず、その怖こわさを感かんじています。

伊東いとう恵めぐみ真しんさん
「目めに見みえない、姿すがたもにおいもない、かげもない。だけどなにかの隙間すきまから入り込はいりこんで襲おそってくるような感かんじ。まるで毒ガスどくがすのように感かんじました」

「私わたしたちは自分じぶんたちでできることは全部ぜんぶやったと思おもう。コロナに感染かんせんしてしまったらしょうがない。とにかく早はやく手てを打うつことが大事だいじとしか言いいようがないです」


（取材しゅざい:千葉ちば局きょく 記者きしゃ 金子かねこひとみ）

ソース：NHK ニュース