本物ほんものか？国宝こくほうの金きん印しるし「漢かん委い奴やっこ国王こくおう」で研究けんきゅう者しゃが激論げきろん

今いまからおよそ２に０ぜろ０ぜろ０ぜろ年ねん前まえの弥生やよい時代じだいに、中国ちゅうごくの皇帝こうていから与あたえられ、江戸えど時代じだいに見みつかったとされている国宝こくほうの金きん印しるしは、はたして本物ほんものなのか。金きむ印しるしを所蔵しょぞうする福岡ふくおか市し博物館はくぶつかんは、本物ほんものだとしながらも真まがんをめぐるシンポジウムを初はじめて開ひらき、本物ほんものと偽物にせものそれぞれの立場たちばをとる研究けんきゅう者しゃが激論げきろんを交かわしました。

この金きん印しるしは、福岡ふくおか市しの志賀しか島とうで江戸えど時代じだいに見みつかったとされ、「漢かん委い奴やっこ国王こくおう」という５いつつの文字もじが記しるされています。今いまからおよそ２に０ぜろ０ぜろ０ぜろ年ねん前まえの弥生やよい時代じだいに、中国ちゅうごくの後のち漢かんの皇帝こうていから九州きゅうしゅう北部ほくぶにあった「奴やっこ国こく」の王おうに与あたえられたとする見解けんかいが定着ていちゃくし、国宝こくほうに指定していされていますが、後世こうせいの偽物にせものではないかとする説せつが一部いちぶの研究けんきゅう者しゃから出でています。

シンポジウムは、金きむ印しるしを所蔵しょぞうする福岡ふくおか市し博物館はくぶつかんが、本物ほんものと偽物にせものそれぞれの立場たちばをとる研究けんきゅう者しゃを招まねいて初はじめて開ひらき、まず３さん人にんの研究けんきゅう者しゃが基調きちょう講演こうえんで自説じせつを展開てんかいしました。

このあと討論とうろんが行おこなわれ、この中なかでＮＰＯえぬぴ-お-・工芸こうげい文化ぶんか研究所けんきゅうじょの鈴木すずき勉つとむ理事りじ長ちょうは、文字もじを彫ほった痕あとなどが江戸えど時代じだいに一般いっぱん的てきだった印しるしの特徴とくちょうを備そなえていると指摘してきし、「のちに製作せいさくされた偽物にせものの可能かのう性せいが非常ひじょうに高たかい」と主張しゅちょうしました。

一方いっぽう、明治めいじ大学だいがく文学ぶんがく部ぶの石川いしかわ日出にっしゅつ志こころざし教授きょうじゅは、中国ちゅうごく各地かくちで見みつかっている古代こだいの印しるしの形かたちや金きんの純度じゅんどを比較ひかくした結果けっか、「後こう漢かん時代じだいの本物ほんものに間違まちがいない」と訴うったえ、偽物にせもの説せつに反論はんろんしました。
シンポジウムでは、文字もじやつまみの形かたちなどをめぐって激はげしい議論ぎろんが交かわされましたが、双方そうほうとも最後さいごまでそれぞれの主張しゅちょうを譲ゆずりませんでした。

福岡ふくおか市し博物館はくぶつかんは、金きむ印しるしは本物ほんものだとする立場たちばを変かえていませんが、今回こんかいのシンポジウムについて、有馬ありま学まなぶ館長かんちょうは「歴史れきし的てきな価値かちが確定かくていしたかのように思おもわれている資料しりょうでさえ、さまざまな見方みかたができ、学問がくもん的てきな根拠こんきょがぶつかっている。こうした議論ぎろんがあることを多おおくの方ほうに知しってもらうことで、文化ぶんか遺産いさんについての理解りかいが一層いっそう深ふかまると思おもいます」と話はなしていました。

志賀島しかしま金きん印しるしとは

歴史れきしの教科書きょうかしょなどでおなじみのこの金きん印しるしは、江戸えど時代じだいの中なかごろ、現在げんざいの福岡ふくおか市しの志賀しか島とうで水田すいでんの溝みぞを修理しゅうりしていた農民のうみんが土どの中なかから見みつけたとされています。

正方形せいほうけいの印面いんめんは１いち辺へんが２に．３さんセンチ、重おもさ１いち０ぜろ８はちグラムの純金じゅんきん製せいで、とぐろを巻まいたような蛇へびの形かたちをした「つまみ」があり、印面いんめんには漢かん、委い、奴やつ、国くに、王おうの５いつつの文字もじが３さん行こうにわたって彫り込ほりこまれています。

福岡ふくおか市し博物館はくぶつかんによりますと、読み方よみかたは諸説しょせつありますが「漢かんの委いの奴やつの国王こくおう」と読よみ、「漢かんに朝貢ちょうこうする倭やまとの中なかの奴やっこ国こくの王おう」という意味いみだとする考かんがえが通説つうせつとなっています。

中国ちゅうごくの古代こだい王朝おうちょうは周辺しゅうへんの国くにに対にたいして主従しゅうじゅう関係かんけいの証あかしとして印しるしを与あたえていて、中国ちゅうごくの歴史れきし書しょ「後ご漢書かんしょ」には西暦せいれき５ご７なな年ねんに、「後こう漢かんに貢みつぎ物ぶつを持もってあいさつに来きた倭やまとの奴やっこ国こくに対にたいして、皇帝こうていが印しるしを与あたえた」という記述きじゅつがあります。

志賀しか島とうの金きん印しるしはこの記述きじゅつに相当そうとうするという見解けんかいが定着ていちゃくし、九州きゅうしゅう北部ほくぶの「奴やっこ国こく」が中国ちゅうごくの王朝おうちょうと交流こうりゅうしていたことを物語ものがたる歴史れきし的てき価値かちの高たかい資料しりょうとして、昭和しょうわ６ろく年ねんに国宝こくほうに指定していされ、現在げんざいは福岡ふくおか市し博物館はくぶつかんで実物じつぶつが常設じょうせつ展示てんじされています。

一方いっぽう、この金きん印しるしをめぐっては、後世こうせいに作つくられたのではないかとする疑問ぎもんの声こえもあり、千葉ちば大学だいがくの三浦みうら佑たすく之の名誉めいよ教授きょうじゅが１いち０ぜろ年ねん余あまり前まえに「江戸えど時代じだいに作つくられた偽物にせものだ」とする説せつを発表はっぴょうするなど、真まがんをめぐる論争ろんそうが続つづいています。

「本物ほんもの」の根拠こんきょは

金きむ印しるしは「本物ほんもの」だと主張しゅちょうしている明治めいじ大学だいがく文学ぶんがく部ぶの石川いしかわ日出にっしゅつ志こころざし教授きょうじゅは、その根拠こんきょとして彫ほられた文字もじの特徴とくちょうや飾かざりの形かたち、それに金きんの純度じゅんどなどを挙あげています。

石川いしかわ教授きょうじゅは弥生やよい時代じだいの考古こうこ学がくが専門せんもんで、これまでに中国ちゅうごくで見みつかっている古ふるい時代じだいの印しるしの外見がいけんや、刻きざまれた文字もじの特徴とくちょうとの比較ひかくなどを基もとに研究けんきゅうを進すすめてきました。

それによりますと、古代こだい中国ちゅうごくの印しるしは彫ほられた文字もじの形かたちが時代じだいごとに変化へんかするため、製作せいさく年代ねんだいを判定はんていしやすく、志賀しか島とうの金きん印しるしは「漢かん」の字じの「偏へん」の上うえ半分はんぶんがわずかに曲まがっている点てんや、「王おう」の真ん中まんなかの横線おうせんがやや上うえに寄よっている点てんが、中国ちゅうごくの後のち漢かん初期しょきの文字もじの特徴とくちょうをよく表あらわしているということです。

また、蛇へびの形かたちをしたつまみについて、中国ちゅうごくや周辺しゅうへんの各地かくちで発見はっけんされた同おなじような形かたちの印しるしと比較ひかくすると、後こう漢かん初はじめごろに製作せいさくされたものが最もっとも特徴とくちょうが近ちかいとしています。

さらに、志賀しか島とうの金きん印しるしに含ふくまれる金きんの純度じゅんどは９きゅう０ぜろ％以上いじょうと、古代こだい中国ちゅうごくの印しるしとほぼ同おなじだとして、石川いしかわ教授きょうじゅは「江戸えど時代じだいにこのような印しるしを作つくることはできず、後こう漢かんのものだとして何なんら問題もんだいがない。金きむ印しるしは本物ほんものに間違まちがいない」と主張しゅちょうしています。

「偽物にせもの」の根拠こんきょは

金きむ印しるしは江戸えど時代じだいに偽造ぎぞうされた可能かのう性せいが高たかいと主張しゅちょうするＮＰＯえぬぴ-お-・工芸こうげい文化ぶんか研究所けんきゅうじょの鈴木すずき勉つとむ理事りじ長ちょうは、金きむ印しるしに残のこる彫ほりあとの特徴とくちょうが古代こだい中国ちゅうごくで作つくられたとされる印しるしと大おおきく異ことなっていると指摘してきしています。

鈴木すずき理事りじ長ちょうは金属きんぞく製品せいひんなど古代こだいの工芸こうげい技術ぎじゅつに詳くわしく、金きむ印しるしの製作せいさく技法ぎほうに着目ちゃくもくした研究けんきゅうを進すすめてきました。

それによりますと、志賀しか島とうの金きん印しるしとほぼ同おなじ時期じきのもので、特徴とくちょうもよく似にているとして「本物ほんもの説せつ」の根拠こんきょの１ひとつとなっている中国ちゅうごくで見みつかった「広陵こうりょう王おう璽」という印しるしは、たがねで文字もじを一気いっきに彫ほり進すすめる「線せん彫ほり」と呼よばれる高度こうどな技法ぎほうで製作せいさくされています。

これに対にたいして、志賀しか島とうの金きん印しるしは文字もじの中心ちゅうしん線せんを彫ほったあと、別べつの角度かくどからもたがねを打ち込うちこんで輪郭りんかくを整ととのえる「さらい彫ほり」という技法ぎほうが使つかわれていると鈴木すずき理事りじ長ちょうは指摘してきします。

さらに前漢ぜんかんから後こう漢かんの印しるしの多おおくは、１ひとつの線せんがほぼ均一きんいつの太ふとさで彫ほられているのに対にたいし、志賀しか島とうの金きん印しるしは中央ちゅうおうから端はじに向むかって太ふとくなる特徴とくちょうがあるうえ、印面いんめんに対にたいする文字もじの部分ぶぶんの面積めんせきが、ほかの印しるしと比くらべて突出とっしゅつして大おおきいということです。

鈴木すずき理事りじ長ちょうは「さらい彫ほり」やこうした文字もじの特徴とくちょうは、江戸えど時代じだいの印しるしによく見みられるとして、「金きむ印しるしは江戸えど時代じだいに作つくられた偽物にせものの可能かのう性せいが非常ひじょうに高たかい」と指摘してきしています。

ソース：NHK ニュース