【詳くわしく】北欧ほくおう目指めざすロシア人じんに聞きく オフレコで出でた本音ほんねとは

ロシアへの経済けいざい制裁せいさいを受うけ、北欧ほくおうフィンランドとロシアとを結むすぶ国際こくさい長距離ちょうきょり列車れっしゃは3月つき28日にちに運行うんこうが停止ていしされました。
ロシアがウクライナに軍事ぐんじ侵攻しんこうしてからおよそ1か月かげつ、ロシアとEUとを結むすぶ事実じじつ上じょうただひとつの鉄道てつどう路線ろせんを利用りようしていたのは、多おおくのロシア人じんたちです。

重おもい口くちを開ひらいて出でてきた本音ほんねとは。

スーツケース抱かかえて“脱出だっしゅつ”

朝あさ9時じ過すぎ。

私わたしたちが待まっていたのは、ロシアのサンクトペテルブルクから来くるアレグロ号ごうです。約やく350席せきは満席まんせきが続つづいていると聞きき、その理由りゆうを確たしかめに来きました。

400キロを3時間じかん半はんで結むすぶ特急とっきゅうから降おりてくる人ひとたちの中なかには、大おおきなスーツケースをいくつも持もった家族かぞく連づれも目立めだちます。新型しんがたコロナ対策たいさくで、列車れっしゃにはロシア人じんとフィンランド人じんしか乗のれません。

利用りよう客きゃくが急増きゅうぞうした3月つき初旬しょじゅんは、ロシアによるウクライナへの軍事ぐんじ侵攻しんこうを受うけて欧米おうべい諸国しょこくからの経済けいざい制裁せいさいが強つよまった直後ちょくご。欧米おうべい各国かっこくがロシアからの航空こうくう便びんの受け入うけいれを拒否きょひし、ロシアから出国しゅっこくする手段しゅだんも限かぎられるようになったときでした。

ロシア人じんがフィンランドに入国にゅうこくするには、ビザに加くわえ、EUで認みとめられているワクチンの接種せっしゅ証明しょうめいも必要ひつようで、思い立おもいたったらすぐ出発しゅっぱつというわけにはいかないのです。

ロシアを出でられなくなるかも

なぜ今いま、祖国そこくロシアを離はなれたのか。多おおくの人ひとが口くちにしたのは、やはり経済けいざい制裁せいさいの影響えいきょうです。

「もしかしたら今後こんご、国境こっきょうが封鎖ふうさされて国外こくがいに出でられなくなってしまうかもしれない」
そんな不安ふあんもよぎったといいます。

IT関連かんれんの仕事しごとで、ふだんは海外かいがいで暮くらす32歳さいの男性だんせいは、去年きょねん12月つきからロシアに里帰さとがえりしていました。経済けいざい制裁せいさいが次々つぎつぎと強化きょうかされ、いつも使つかっている銀行ぎんこうのカードが使つかえなくなりました。

仕事しごとに欠かかせないインターネットも、外部がいぶから組織そしき内ないのサーバーにアクセスするためのVPNがロシア国内こくないで遮断しゃだんされる可能かのう性せいもあると考かんがえ、予定よていを早はやめてロシアを離はなれました。

エネルギー関連かんれんのビジネスに携たずさわっている32歳さいの女性じょせいも、ビジネス環境かんきょうの悪化あっかを理由りゆうに挙あげました。

金融きんゆう機関きかんでの送金そうきんができなくなり、国際線こくさいせんがほとんどなくなって出張しゅっちょうはできません。ヨーロッパ各国かっこくの取引とりひき先さきとやりとりも難むずかしくなり、ロシアに留とまって働はたらくことはできません。ヘルシンキからトルコのイスタンブールに向むかい、そこでビジネスを立て直たてなおそうと考かんがえています。

ただ、多おおくの人ひとたちは、カメラを持もった私わたしたちを、避さけるようにして足早あしばやに通り過とおりすぎて行いきます。ロシア国内こくないで言論げんろん統制とうせいが強つよまるなか、自分じぶんや家族かぞくの身みに危険きけんが及およぶことをおそれているようです。

“両親りょうしんは親しんプーチン、子こは反はんプーチン”

少すこしほっとした表情ひょうじょうの女性じょせいが目めに入はいりました。

留学りゅうがく先さきのドイツの大学だいがくに戻もどるという30歳さいの女性じょせいは、匿名とくめいを条件じょうけんに、取材しゅざいに応おうじてくれました。

経済けいざい制裁せいさいを受うけて「ZARAやH＆Mが閉店へいてんする前まえに買かわなくちゃ」と買い物かいものに走はしる人ひともいたそうですが、この女性じょせいの周まわりの若わかい世代せだいの多おおくはVPNを使つかってロシア国外こくがいのメディアから情報じょうほうを集あつめようとしているといいます。

プーチン大統領だいとうりょうが「特別とくべつな軍事ぐんじ作戦さくせん」と呼よぶ今回こんかいのウクライナ侵攻しんこうに疑問ぎもんを感かんじている人ひとたちは、彼女かのじょの家族かぞくが住すむサンクトペテルブルクでも行おこなわれている抗議こうぎデモに参加さんかしています。ただ、一緒いっしょに声こえをあげたくても、女性じょせいのように参加さんかをためらう人ひとは少すくなくありません。警察けいさつに拘束こうそくされれば職しょくを失うしなうなど大おおきな代償だいしょうを払はらうことになりかねないからです。

彼女かのじょはたまたま留学りゅうがくビザを持もっていましたが、どこかの国くにのビザを取得しゅとくできる算段さんだんもないまま、出国しゅっこくできずにいる友人ゆうじんも少すくなくないそうです。ドイツに向むかう前まえに友人ゆうじんたちと集あつまったときには、これから自由じゆうにものが言いえなくなると絶望ぜつぼうしている人ひともいたそうです。

一方いっぽうで彼女かのじょ曰いわく「親おやの世代せだいはまた別べつ」です。

「私わたしの両親りょうしんはプーチン大統領だいとうりょうを支持しじしています。でも兄あにと私わたしは反対はんたいの立場たちばなので、家族かぞくのなかで、政治せいじの話はなしは絶対ぜったいにしません。家族かぞくだからといって何なにでも話はなせるわけではありません」

この光景こうけい、この世代せだい間かんギャップは、彼女かのじょのまわりでは、ごく普通ふつうのことだといいます。

最後さいごに、留学りゅうがくが終おわればロシアに帰かえるのか尋たずねると、女性じょせいは言葉ことばに詰つまりました。

しばらく考かんがえて彼女かのじょが絞しぼり出だしたのは「ロシアは私わたしのふるさとで家族かぞくも友人ゆうじんもいます。戻もどりたい。でも戻もどれるかどうかわかりません」という答こたえでした。

「私わたしたちロシア人じんは世界せかいから嫌きらわれていくんだろう」

カメラを回まわさないことを条件じょうけんに、聞きくことができたロシアの人ひとたちの本音ほんねです。

「もう友達ともだちもできないかもしれない。ロシア人じんというだけで、これから差別さべつされ続つづけていくんだろうか」
「ウクライナの人ひとにつぐなうためになんでもしたいと思おもうが、私わたしひとりの力ちからは限かぎられている。何なにができるのかわからない」
「私わたしたちロシア人じんは世界せかいから嫌きらわれていくんだろう」

ほとんどの乗客じょうきゃくがホームを去さり、私わたしたちも取材しゅざいを終おえて歩あるいていたときです。若わかい女性じょせいが後うしろから走はしって追おいかけてきました。

「自分じぶんはロシアを離はなれ、安全あんぜんな場所ばしょにいるけれど、ロシアに残のこらざるを得えない人ひとたちに対にたいし罪悪ざいあく感かんがある。少すこしでも自分じぶんにできることをしたい。何なにか手伝てつだえることはないか」。ロシア国内こくないで政権せいけんに不満ふまんを持もつ人ひとたちが声こえを上あげられない分ぶん、自分じぶんには世界せかいに現実げんじつを知しらせる責務せきむがあると思い詰おもいつめているようでした。

ロシアが引き裂ひきさいたのは、決けっしてウクライナの人ひとたちの人生じんせいだけではありません。


ロンドン支局しきょく・向井むかい麻里まり（フィンランド・ヘルシンキ）

ソース：NHK ニュース