【詳くわしく】「ロシア軍ぐんは機能きのう不全ふぜんに」元もとCIA長官ちょうかんが分析ぶんせき

「驚おどろくほど動うごきが悪わるい」
「基本きほんがなっていない」
「指示しじ待まち」

アメリカのデイビッド・ペトレアス元もとCIA長官ちょうかんの、ロシア軍ぐんに対にたいする評価ひょうかです。
イラクとアフガニスタンという、21世紀せいきのアメリカの2つの戦争せんそうの現地げんち司令しれい官かんの口くちから出でてきたのは、辛辣しんらつな言葉ことばばかり。
ロシア軍ぐんはウクライナで機能きのう不全ふぜんに陥おちいりつつあるのでしょうか？
その先さきには、何なにが待まっているのでしょうか？

ロシア軍ぐんの動うごきをどう見みているか？

《以下いか、ペトレアス元もとCIA長官ちょうかん》
プーチン大統領だいとうりょうが10年ねん以上いじょうにわたり投資とうししてきたというので高たかいレベルの部隊ぶたいを想像そうぞうしていたが、驚おどろくほど動うごきが悪わるい。装備そうび、兵員へいいん、作戦さくせん、補給ほきゅう、どれをとってもひどい状況じょうきょうだ。末端まったんレベルで自発じはつ的てきな動うごきがない。

このため将軍しょうぐんクラスの指揮しき官かんが、部隊ぶたいの先端せんたんで何なにが起おきているのか自みずから確認かくにんに行いかざるを得えなくなり、そこをウクライナ軍ぐんに狙ねらい撃うたれて死しんでいる。

なぜ前進ぜんしんできないのか？それは、歩兵ほへい部隊ぶたいと戦車せんしゃや大砲たいほう、工兵こうへい、攻撃こうげきヘリコプターなどが統合とうごう的てきに運用うんようされておらず、ばらばらに動うごいているからだ。

ロシア軍ぐんは固定こていした周波しゅうは数すうで無線むせんを使つかっており、ウクライナ軍ぐんの妨害ぼうがい電波でんぱにさらされている。民間みんかん人じんが持もつ簡易かんいな装置そうちでも特定とくていされてしまう。このため、兵士へいしはロシアから持ち込もちこんだ携帯けいたい電話でんわに頼たよらざるを得えない。

ウクライナ側がわがその通信つうしんを遮断しゃだんすると、今度こんどはウクライナの市民しみんが持もつ携帯けいたい電話でんわを盗ぬすんで使つかわざるを得えないという始末しまつだ。結果けっか的てきに、ほとんど身動みうごきがとれない状況じょうきょうになり、当初とうしょからもくろむ首都しゅとキエフの包囲ほういもできていない。

なぜ動うごけなくなっている？

今回こんかいの軍事ぐんじ侵攻しんこうが始はじまる前まえにロシアやベラルーシ国内こくないで何なんか月かげつも大だい演習えんしゅうを実施じっししてきたはずだが、私わたしからすれば、ロシア軍ぐんがいったい何なにの訓練くんれんをしていたのか不明ふめいだ。

彼かれらの動うごきは基本きほんがなっておらず、危険きけんにさらされたときに部隊ぶたいをいったん散ちらばらせたり、防御ぼうぎょの態勢たいせいをとらせたりすることもできていない。

結果けっか的てきに部隊ぶたいは身動みうごきがとれなくなって、多おおくは精密せいみつに誘導ゆうどうできない爆弾ばくだんや大砲たいほうといった武器ぶきを使つかい、軍事ぐんじ施設しせつだけでなく民間みんかんの施設しせつに無む差別さべつ的てきな攻撃こうげきをするしかなくなっている。

ロシアは目標もくひょうを達成たっせいできるか？

達成たっせいできるとは思おもえない。

政治せいじ的てきな目標もくひょうはゼレンスキー大統領だいとうりょうを打倒だとうし、親しんロシア派はの政権せいけんを打うちたてることだろうが、その見込みこみはなさそうだ。仮かりにゼレンスキー大統領だいとうりょうを首都しゅとキエフから追い出おいだし、西部せいぶのリビウや中部ちゅうぶの都市としへの移動いどうを余儀よぎなくさせたとしても、親しんロシア派はの政権せいけんに置き換おきかえられる可能かのう性せいはないだろう。

ニューヨークよりも広ひろいキエフには、今いまも200万まん人にんほどの人々ひとびとが残のこっている。キエフを制圧せいあつできる可能かのう性せいは、ロシア軍ぐんがウクライナの東ひがし半分はんぶんを制圧せいあつできる可能かのう性せいよりも低ひくい。

むしろロシア軍ぐん自身じしんが、すでに戦死せんしした7000人にん近ちかくの兵士へいしの補充ほじゅうができないことに気きづくことになるだろう。

この数字すうじは、アメリカ軍ぐんが20年間ねんかんにわたったイラク戦争せんそうで失うしなった兵力へいりょくよりもすでに2500人にん以上いじょう多おおい。さらに負傷ふしょう者しゃの数かずは通常つうじょう、戦死せんし者しゃの3倍ばいから4倍ばいに上のぼる。失うしなった装甲そうこう車両しゃりょうや兵員へいいん輸送ゆそう車しゃ、ヘリコプター、固定こてい翼つばさ機きも相当そうとうな数かずに上のぼる。

ロシア軍ぐんが、これを練ねり度どが高たかく装備そうびの良よい部隊ぶたいに交代こうたいさせることができるだろうか。

さらにロシア軍ぐんには、アメリカ軍ぐんなどのような熟練じゅくれんした下士官かしかんがいない。指導しどう力りょくを発揮はっきできる若わかい指揮しき官かんもおらず、指示しじを待まつばかりだ。

また、ロシア軍ぐん部隊ぶたいの少すくなくとも5分ぶんの1は徴集ちょうしゅう兵へいであることがわかった。かれらの任期にんきは1年ねん限かぎりで、かろうじて基礎きそ訓練くんれんを受うけているに過すぎない。今後こんご、プレッシャーからロシア軍ぐん部隊ぶたいは瓦解がかいし始はじめる可能かのう性せいがある。投降とうこうしたり逃亡とうぼうしたりする小規模しょうきぼな部隊ぶたいも出でてくるだろう。

ただ、これがロシア軍ぐんが全土ぜんどで敗北はいぼくすることにつながるかは現時点げんじてんではわからない。

化学かがく兵器へいきや戦術せんじゅつ核兵器かくへいきを使用しようする可能かのう性せいは？

何なんらかの大量たいりょう破壊はかい兵器へいきを使用しようする可能かのう性せいは明あきらかにある。プーチン大統領だいとうりょう自身じしんがそうした兵器へいきに言及げんきゅうしている。

彼かれは過去かこに、反はん体制たいせい派は指導しどう者しゃのナワリヌイ氏しへの化学かがく兵器へいきの使用しようを承認しょうにんしているし、イギリスでロシアの元もとスパイ、スクリパル氏しを殺害さつがいしようともした。

われわれが知しり得えないのは、生物せいぶつ兵器へいきを含ふくめて、彼かれらがこうした兵器へいきを大量たいりょうかつ効果こうか的てきに使用しようするすべを持もっているのかということだ。

一方いっぽうでロシアは、あらゆるタイプの核兵器かくへいきを大量たいりょうに保有ほゆうし、そこには戦術せんじゅつ核かくも含ふくまれる。想像そうぞうを絶ぜっする被害ひがいをもたらす兵器へいきだ。アメリカとNATOは、ロシアに対にたいし、大量たいりょう破壊はかい兵器へいきを使用しようすれば厳きびしい結果けっかが待ち受まちうけることを強調きょうちょうし、強つよく警告けいこくしてきた。

ウクライナ軍ぐんへの軍事ぐんじ支援しえんの効果こうかは？

軍事ぐんじ支援しえんは非常ひじょうに効果こうか的てきだ。

米べい英えいなど主要しゅようなNATO加盟かめい国こくは、1万まん7000の対たい戦車せんしゃミサイル「ジャベリン」、3000の携帯けいたい型がた地ち対空たいくうミサイル「スティンガー」を提供ていきょうした。クリミア併合へいごうを受うけて2014年ねんからはNATOがウクライナ軍ぐんを訓練くんれんしてきた。

ただ、何なににもまさるのは、ウクライナ軍ぐん兵士へいしの士気しきだ。士気しきは訓練くんれんで教おしえ込こむことはできない。今いまは国くに全体ぜんたいが高たかい士気しきに包つつまれている。

皮肉ひにくなのは、プーチン大統領だいとうりょうがウクライナを否定ひていしロシアの一部いちぶにしようとしたことで、かえって、ウクライナのナショナリズムを過去かこ数すう百ひゃく年ねんなかったレベルにまで引き上ひきあげたことだ。

さらに、ロシアを再ふたたび偉大いだいにしようとして、NATOを再ふたたび偉大いだいにする結果けっかになった。冷戦れいせん以降いこう、NATOがこれほど結束けっそくしたことはない。

プーチン大統領だいとうりょう“戦略せんりゃく的てきなミス”の背景はいけいは？

プーチン大統領だいとうりょうの側近そっきんたちがそろって、誤あやまった見立みたてを互たがいに補強ほきょうし合あったのだろう。

プーチン氏しは明あきらかに、孤立こりつした環境かんきょうのなかに身みを置おいているが、新型しんがたコロナウイルスへの感染かんせんを病的びょうてきなまでに警戒けいかいしたことが、さらなる孤立こりつ化かを招まねいたのではないか。

感染かんせんが拡大かくだいしたとき、側近そっきんはプーチン氏しと会あうだけのために2週間しゅうかんの隔離かくりを強しいられた。側近そっきんたちは、真実しんじつを伝つたえることがはばかられるようになり、本来ほんらい、プーチン大統領だいとうりょうに伝つたえるべき耳みみの痛いたい話はなしではなく、耳みみに心地ここちよい話はなししかしなくなったのだろう。

最終さいしゅう的てきにプーチン氏しは自分じぶんに都合つごうのよい考かんがえと、自分じぶんの歴史れきし観かんを実行じっこうに移うつした。明あきらかに間違まちがった決断けつだんだったことが、現実げんじつによって証明しょうめいされたのだ。

事態じたいのエスカレートを防ふせぐための鍵かぎは？

「停戦ていせん」「ロシア軍ぐんの撤退てったい」「無む差別さべつ殺さつりくの停止ていし」という結果けっかを交渉こうしょうによって導き出みちびきだすことだ。それにはプーチン大統領だいとうりょうと彼かれの主要しゅような側近そっきん、軍ぐん幹部かんぶに対にたいして金融きんゆうや経済けいざい面めんなどで最大限さいだいげんの圧力あつりょくをかける必要ひつようがある。

ただし、認識にんしきしておかなければならないのは、プーチン大統領だいとうりょうを『逃げ場にげばがない』と感かんじるところまでは追い詰おいつめないことだ。われわれは常つねに、彼かれに「勝利しょうりを授さづけないレベルでの出口でぐち」を提供ていきょうすることを考かんがえなければならない。

大量たいりょう破壊はかい兵器へいきが使用しようされるおそれがある以上いじょう、私わたしたちはこうした危険きけんな状態じょうたいを一刻いっこくも早はやく、終おわらせなければならない。

ソース：NHK ニュース