News
Show Furigana

はりとおようなむずかしい選択せんたく” ウクライナ人道じんどう危機きき

2022-04-19 06:59:16

avatar
「ヒロシマ・ナガサキのあやま繰り返くりかえしてはいけない」“地獄じごく”ともわれる原爆げんばくによる想像そうぞうぜっするような被害ひがい被爆ひばくしゃたちは、77ねんにわたって世界せかいうったえてきました。
いま、ロシアによるウクライナへの軍事ぐんじ侵攻しんこうつづき、プーチン大統領だいとうりょう核兵器かくへいき使用しよう可能かのうせいをちらつかせて威嚇いかくしています。国連こくれんのグテーレス事務じむ総長そうちょうは「かつてはかんがえられなかった核兵器かくへいき使つかった紛争ふんそうがいまやこりうる状況じょうきょうだ」とつよ危機ききかんしめしました。
唯一ゆいいつ戦争せんそう被爆ひばくこく日本にっぽんだからこそつたえられるメッセージ紹介しょうかいします。
今回こんかい国際こくさい政治せいじ学者がくしゃ藤原ふじわら帰一きいちさんです。
科学かがく文化ぶんか富田とみたりょう

国際こくさい政治せいじ学者がくしゃ 藤原ふじわら帰一きいちさん

藤原ふじわら帰一きいちさんは長年ながねん平和へいわ構築こうちくについて研究けんきゅうしてきた国際こくさい政治せいじ学者がくしゃで、国内外こくないがい有識者ゆうしきしゃ核兵器かくへいき廃絶はいぜつけた道筋みちすじさぐために広島ひろしまけんなどが2013ねんからひらいている「ひろしまラウンドテーブル」の議長ぎちょうつとめるなど、かくなき世界せかい実現じつげんけた取り組とりくにも長年ながねんたずさわってきました。このはる東京とうきょう大学だいがく大学院だいがくいん定年ていねん退職たいしょくしたあと、4つきからは客員きゃくいん教授きょうじゅつとめています。

国際こくさい社会しゃかいいま人道じんどう危機きき状況じょうきょう打開だかいできるのか、そして核兵器かくへいきをなくしていく道筋みちすじについて、藤原ふじわらさんきました。

古典こてんてきだい規模きぼ侵略しんりゃく戦争せんそう

Q:今回こんかいのロシアによるウクライナへの軍事ぐんじ侵攻しんこうについて、どのようにとらえていますか。

古典こてんてきだい規模きぼ侵略しんりゃく戦争せんそうというほかありません。戦争せんそうはじまるまえに、プーチン大統領だいとうりょう軍事ぐんじ行動こうどうこした場合ばあい制裁せいさいくわえる国際こくさい社会しゃかいから明確めいかくつたえられていて、抑止よくしはあったんだけれどよわかった。短時間たんじかん戦闘せんとうおおきな成果せいかおさめることをかんがえている相手あいて行動こうどう抑止よくしすることができず、今回こんかいは『抑止よくし破綻はたん』とばざるをないとおもいます」

3つの可能かのうせい戦争せんそう継続けいぞく」「エスカレート」「撤収てっしゅう

Q:停戦ていせんのめどが依然いぜんとしてえません。

「キーウの攻略こうりゃくだい失敗しっぱいわったことで、目的もくてきてんじて自分じぶんたちのちから比較的ひかくてきある東部とうぶ地域ちいき集中しゅうちゅうする戦略せんりゃくわっていますが、プーチン政権せいけんが『ただしい戦争せんそうであり、たたか』という意思いしずっとらいでいない。そこからかんがえられる今後こんご可能かのうせいは3つあるおもっています。
1つ東部とうぶ地域ちいきこう着こうちゃくつづいておお犠牲ぎせい一方いっぽう自分じぶんたちの立場たちばつよめようと戦争せんそう継続けいぞくするシナリオで、可能かのうせいとしてはきわめてたかそして、2つ大量たいりょう破壊はかい兵器へいき使用しようふくめた戦争せんそうのエスカレート、3つには『この戦争せんそうった、おおきな成果せいかおさめた』と主張しゅちょうして、ウクライナの東部とうぶ地域ちいきクリミア半島くりみあはんとう撤収てっしゅうするというシナリオです」

化学かがく兵器へいき ロシアにとっての敷居しきい比較的ひかくてきひく

Q:ロシアぐん化学かがく兵器へいき使用しようしたという情報じょうほうていますが、今後こんご生物せいぶつ化学かがく兵器へいき核兵器かくへいきといった大量たいりょう破壊はかい兵器へいき使つか可能かのうせいはあるのでしょうか。

通常つうじょう兵器へいき戦闘せんとうかならずしも有利ゆうりたたかえておらず、さらに長期ちょうきかん戦闘せんとうでロシアぐん兵士へいし士気しきがっています。相手あいて打撃だげきあたえられる大量たいりょう破壊はかい兵器へいき使用しようする可能かのうせいは、残念ざんねんながらあります。とく化学かがく兵器へいき使つかってはならないけれども、実戦じっせんでずいぶん使つかわれてきた兵器へいきでシリア戦争せんそうでも使つかわれ、ロシアにとっての敷居しきい比較的ひかくてきひくだろうとおもいます」

今回こんかい戦闘せんとうもうひとポイントは、ロシアぐん安全あんぜんについてロシアぐんなにかんがえていないことです。ロシアぐん兵士へいし安全あんぜんに対にたいする関心かんしんうすさ、またロシアぐんのウクライナの人々ひとびとに対にたいする人権じんけん意識いしきうすさは極端きょくたんなものです。自分じぶん軍隊ぐんたいどれだけんでもかまわないんだと覚悟かくごして、化学かがく兵器へいき十分じゅうぶん使用しようされる可能かのうせいがあります」

核兵器かくへいき 可能かのうせいひく無視むしできない

Q:核兵器かくへいき使用しようする可能かのうせいひくいとかんがえていいのでしょうか。

「NATO(=北大ほくだい西洋せいよう条約じょうやく機構きこう)との核兵器かくへいきお互おたがおどしあっている均衡きんこう状態じょうたいがあり、かく使つかった場合ばあいのリスクがたかことはかっているとおもいますが、懸念けねんされるのは相手あいてかく戦争せんそうにしないことを期待きたいして核兵器かくへいき使用しようする可能かのうせいです。たとえばウクライナでロシアが核兵器かくへいき使用しようした場合ばあいこの状況じょうきょう見過みすごせないといってNATOが核兵器かくへいきをウクライナに使つかあるいは核ミサイルかくみさいるをロシアに発射はっしゃするとおもいますか?わたしその可能かのうせいひくおもいます。
だとすれば、大量たいりょう破壊はかい兵器へいき使つかったほう有利ゆうり状況じょうきょうつづというわずかな可能かのうせいがあるんです。このわずかな可能かのうせいは、もちろんかく戦争せんそう引き金ひきがねにもなるわけで、これかんがえたくないことだ可能かのうせいはかなりひくおもいます。
ただプーチン大統領だいとうりょう人道じんどうはんする行動こうどうであってリスクもおおきいキーウ攻略こうりゃく作戦さくせん実行じっこうしたように、うまくいくんじゃないかという期待きたいからリスクがきわめてたか不合理ふごうり行動こうどうをとった指導しどうしゃだということをわすれてはいけない。ですから核兵器かくへいき使用しようする可能かのうせいひくおもいますけど、無視むしできないでしょう」

NATOがわ エスカレートできないジレンマ

Q:ロシアの行動こうどうに対にたいしてアメリカをはじめとするNATOの国々くにぐにどのような対応たいおう今後こんごとるべきだとかんがでしょうか。

今回こんかい軍事ぐんじ侵攻しんこう世界せかい戦争せんそうにエスカレートする可能かのうせいがある戦争せんそうです。戦争せんそうのエスカレート、そしてロシアと直接ちょくせつ戦争せんそうおそれ、ウクライナに対にたいする支援しえん全面ぜんめんてき展開てんかいできないというジレンマがあります。ただ今後こんごおお市民しみん殺害さつがいされたブチャ以上いじょう事態じたい確認かくにんされた場合ばあい直接ちょくせつ介入かいにゅう以外いがい選択せんたくをNATO諸国しょこくえらことができない可能かのうせいがあり、それわたし心配しんぱいしています」

核兵器かくへいき使用しようふくめて、この戦争せんそうのエスカレーションがこったときには、ウクライナのひとたちだけではなく、ひろ範囲はんいひとたちの安全あんぜん自由じゆううばわれることになってしまうそしてそれ問題もんだい解決かいけつするかといえば、わたしそうおもわないです。むしろ戦争せんそう規模きぼ拡大かくだいすることになりかねない」

本当ほんとうはりとおようなむずかしい選択せんたくですけれども、ウクライナでころされているひとたちを見殺みごろにはせず、侵略しんりゃくに対にたいする自衛じえい正当せいとうですから、ウクライナに対にたいする支援しえん強化きょうかする。しかし大量たいりょう破壊はかい兵器へいき相手あいて使つかった場合ばあい、NATOがわがエスカレートすることは絶対ぜったいしてはいけない。一見いっけんするとウクライナをすくために正当せいとうだとかんがえるかもしれませんけれども、それ戦争せんそう規模きぼ拡大かくだいするだけで、悲劇ひげきをさらに拡大かくだいするだけです。それはしてはならない。とてもきびしいジレンマです」

平和へいわ」をつくのもこわのも軍事ぐんじりょく

Q:戦闘せんとうのさらなる長期ちょうき懸念けねんされますが、出口でぐちあるのでしょうか。

容易ようい出口でぐちはないとおもいます。ただ侵略しんりゃくによってさらにおお犠牲ぎせいまれることはあってはならず、犠牲ぎせいしゃおも観点かんてんから各国かっこく連帯れんたいし、このような侵略しんりゃくおこな政府せいふに対にたいするつよ抑制よくせい必要ひつようです。制裁せいさいには戦争せんそうのエスカレートの危険きけんともないます。平和へいわつくのもこわのも軍事ぐんじりょくだというめんせいがありますが、それしめされているなかで、われわれは模索もさくつづけることになるただわたしそこまで悲観ひかんしていません。現在げんざいプーチン政権せいけん支持しじしている国民こくみん戦争せんそう実態じったいったときに見方みかたわり、それきっかけあたらしい政府せいふまれる可能かのうせいはゼロではない。一方いっぽうきびしい言い方いいかたをすれば、そうしたあら政府せいふまれるまで残酷ざんこく暴力ぼうりょくつづことになるのだろうとおもいます」

日本にっぽんにいるわたしたち どのような視点してんべき

Q:今回こんかい侵攻しんこうについてかんがえるとき日本にっぽんにいるわたしたちはどのような視点してんつべきなのでしょうか。

「ロシアによるウクライナに対にたいする軍事ぐんじ侵攻しんこうは、市民しみん安全あんぜん自由じゆううばって民主みんしゅ主義しゅぎ破壊はかいする工作こうさく行為こういだったわけです。軍事ぐんじてき安全あんぜん保障ほしょうだけでかたられてしまうことはおおきな問題もんだいだとおもいました。おな民主みんしゅ主義しゅぎある日本にっぽんは、今回こんかい軍事ぐんじ侵攻しんこうがデモクラシーに対にたいする破壊はかいであるという視点してんっているべきだろうとおもいますそこからなにてくるかというと、犠牲ぎせいしゃに対にたいする共感きょうかんなんです。
安全あんぜん自由じゆううばわれたウクライナのひとたちに対にたいするこんなことがあっていいのか』という共感きょうかんベースにしないかぎ外交がいこう交渉こうしょう模索もさく抑止よくしりょく強化きょうかもないとおもいます。安全あんぜん保障ほしょう基本きほん人々ひとびと安全あんぜんそのものの問題もんだいですからね。報道ほうどうなか犠牲ぎせいしゃつたえられているときには、『こんなことがあっていいのか』って犠牲ぎせいしゃに対にたいする共感きょうかんっているとおもいます。それこの戦争せんそうかんがえるときの出発しゅっぱつてんだとおもいます」

核兵器かくへいき削減さくげん緊張きんちょう緩和かんわ組み込くみこことができる

Q:核兵器かくへいき使用しよう現実げんじつてき問題もんだいとして危惧きぐされています。そのなかで、唯一ゆいいつ戦争せんそう被爆ひばくこくである日本にっぽんとして核兵器かくへいき廃絶はいぜつもとめていくことについてどうかんがでしょうか。

核兵器かくへいき削減さくげん緊張きんちょう緩和かんわ手段しゅだん使つかというポイントあるんですね。冷戦れいせんわったときには、当時とうじソ連それんアメリカかく削減さくげんけた議論ぎろんをしていて、それ自体じたい緊張きんちょう緩和かんわ役割やくわりたしてたんです。
われわれが『ひろしまラウンドテーブル』で核兵器かくへいき廃絶はいぜつけてってきた議論ぎろんというのはまさにそういうことで、中国ちゅうごく巻き込まきこんで核兵器かくへいき削減さくげん緊張きんちょう緩和かんわ手段しゅだんとして使つかっていくということだったんです。
そのなかでも一番いちばんむずかしかったのがじつロシアだった。ロシアは核兵器かくへいきへの依存いぞん非常ひじょうたかくになんです。中国ちゅうごくじつすこブレていて、軍事ぐんじてきちからみとめさせたいんだけど、なにより安定あんていした環境かんきょうもとめている。
国内こくない政治せいじに対にたいする干渉かんしょうはしてもらいたくないけれど核兵器かくへいきへの依存いぞんかならずしもたかくなかったんです。こわシナリオ中国ちゅうごく核兵器かくへいきたくさんってロシアとの連携れんけいつよめて、それであら冷戦れいせん構造こうぞうかっていくということだったので、中国ちゅうごく核兵器かくへいきへの依存いぞんひくくするとともに、自分じぶんたちの安全あんぜんたかまるような状況じょうきょう各国かっこくつくっていくことが目的もくてきだったんですね。

いま状況じょうきょうはよくないです。ただそれ核兵器かくへいき廃絶はいぜつ夢物語ゆめものがたりだというはなしではなくて、核兵器かくへいき削減さくげん緊張きんちょう緩和かんわのプロセスに組み込くみこことができるどうか、それが一番いちばんポイントです」
ソース:NHK ニュース