全国的に医薬品の供給不足が続く中、てんかんの主な治療薬について現場の医師の多くが別の薬を処方する対応を取るなど影響が続いていることが学会が行ったアンケート調査でわかりました。
中には薬を切り替えたあとに、「患者の病状が不安定になった」とする報告もあり、学会では一刻も早い供給の回復を求めています。
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医薬品の供給をめぐっては、去年、価格の安いジェネリック医薬品のメーカーなどで相次いで製造上の問題が発覚し業務停止命令が出された影響で3000品目以上の医薬品の出荷に影響が出て、一部の医薬品が手に入りにくい状態が続いています。
このうち、てんかんの発作を抑える治療薬の「カルバマゼピン」と「バルプロ酸ナトリウム」の患者への影響について「日本てんかん学会」が会員の医師を対象にアンケートを行い、先月3日までに全国から576件の回答が寄せられました。
薬の処方を断ることも…
アンケートでは、半数を超える55%の医師が「供給の不安定な状況を意識して対応していることがある」と回答しました。
具体的な対応について複数回答で尋ねたところ、
▼54%が「新たに処方する患者には別の薬を選んでいる」
▼36%が「1度に処方する日数を短くしている」
▼26%が「処方の中止やほかの薬への切り替えを試みている」と回答しました。
さらに、「実際に処方を断ったり調整したりした」と回答した医師が、
▼カルバマゼピンで11%
▼バルプロ酸ナトリウムで20%ありました。
患者への影響については、自由記述で、
「薬を切り替えたあとに病状が不安定になった」
「発作がコントロールできなくなった」とする回答もあったということです。
別の薬に変更も発作の懸念
てんかんの患者を多く診察する東京・中野区の「かねなか脳神経外科」では、1年ほど前から、患者や薬局から「処方を受けた薬が手に入らない」という相談が多い時で週に3回ほど寄せられるようになったということです。
特に相談が多いのが、主な抗てんかん薬の1つ、「バルプロ酸ナトリウム」の先発医薬品で、どうしても確保できずに同じ有効成分の別の薬に処方を変更せざるをえないこともあるということです。
金中直輔院長は、「病状が安定しているときに急に別の薬に変えると有効成分が同じでも発作を誘発することがあり、懸念しています。患者さんの負担になりますが、何軒もの薬局を回ってなるべく探してもらうようにしています」と話しています。
患者「不安でしかたがない」
12年前にてんかんを発症し、このクリニックに通って毎日、薬を服用しているという患者の村國均さん(73)は、「私の場合、意識を失うような発作がいつ起きるか分からないのですが、薬のおかげで発作を起こさず日常生活を過ごせています。今のところはなんとかなっていますが、もし薬が手に入らなくなったらと思うと不安でしかたがないです」と話していました。
供給不安は長期化か 専門家「主治医とよく相談を」
アンケート調査を行った日本てんかん学会の薬事委員会委員長で、神戸大学大学院医学研究科の松本理器教授は「供給不安はクリニックで多く起きている一方で、規模の大きな医療機関は比較的安定していることから、『在庫の偏在』が起きていると考えられる。国や製薬会社には流通の混乱の早期解消を求めているが長引く可能性もあり、患者さんは少しでも心配なことがあれば主治医とよく相談して対応してほしい」と話しています。
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