“原因げんいん不明ふめい”子こどもの急性きゅうせい肝炎かんえん 症状しょうじょうは アデノウイルスが関係かんけい？

今いま、“子こども”の急性きゅうせい肝炎かんえんの報告ほうこくがイギリスなどの海外かいがいで相次あいついでいます

原因げんいんはまだはっきりしていませんが、肝臓かんぞう移植いしょくが必要ひつようになる子こどもも出でています。
国内こくないでもこの肝炎かんえんの可能かのう性せいがあるケースが3例れい報告ほうこくされています。

国内こくないでも確認かくにんされた原因げんいん不明ふめいの子こどもの急性きゅうせい肝炎かんえん
▽どんな症状しょうじょうが出でるのか？
▽原因げんいんの究明きゅうめいはどこまですすんだのか？
▽わたしたちに求もとめられる対応たいおうは？

これまでに分わかってきたことをまとめました。

“子こども”の急性きゅうせい肝炎かんえん 国内こくないでも確認かくにん

4月つき25日にち、厚生こうせい労働ろうどう省しょうは原因げんいん不明ふめいの肝炎かんえんで16歳さい以下いかの子こども1人にんが入院にゅういんしていたことを明あきらかにしました。

欧米おうべいで報告ほうこくされている原因げんいん不明ふめいの急性きゅうせい肝炎かんえんの可能かのう性せいがある患者かんじゃが国内こくないで確認かくにんされたのは初はじめてでした。

「原因げんいん不明ふめい」というのは、A型がたからE型がたまで5種類しゅるいある肝炎かんえんウイルスが検出けんしゅつされないのに、子こどもが肝炎かんえんになっているためで、厚生こうせい労働ろうどう省しょうは各地かくちの自治体じちたいに対にたいして、2021年ねん10月つきまでさかのぼって、検査けんさで肝臓かんぞうの酵素こうその値ねが高たかくなっていた16歳さいまでの子こどもがいないか調しらべて報告ほうこくするよう求もとめています。

その後そのご、4月つき28日にちにも2人にん報告ほうこくされ、この肝炎かんえんの可能かのう性せいがある患者かんじゃは合あわせて3人にんとなっています。

1.急性きゅうせい肝炎かんえんとは？

急性きゅうせいの肝炎かんえんとはどのような病気びょうきなのか。

肝臓かんぞうは、体からだに必要ひつようなたんぱく質たんぱくしつなどを作つくって栄養素えいようそをためたり、有害ゆうがいな物質ぶっしつを解毒げどくしたり、食べ物たべものを消化しょうかするのに必要ひつような胆汁たんじゅうを作つくったり、と幅広はばひろい役割やくわりをになっています。

急性きゅうせい肝炎かんえんは子こどもから大人おとなまでかかる病気びょうきで、一般いっぱん的てきに、ウイルスによって引き起ひきおこされ、肝臓かんぞうの機能きのうが低下ていかし、
▽皮膚ひふなどが黄色きいろくなる「おうだん」や
▽おう吐おうと、
▽全身ぜんしんの倦怠けんたい感かん、
▽発熱はつねつなどの症状しょうじょうを引き起ひきおこします。

国立こくりつ国際こくさい医療いりょう研究けんきゅうセンターのウェブサイトによりますと、1％から2％ほどの患者かんじゃは急激きゅうげきに悪化あっかし、中なかには肝臓かんぞう移植いしょくが必要ひつようになることもあるとしています。

子こどもがかかる場合ばあいは…

子こどもの肝臓かんぞう病びょうに詳くわしい、近畿きんき大学だいがく医学部いがくぶの研究けんきゅう員いんで、勇いさむ村むら医院いいんの田尻たじり仁ひとし医師いしによりますと、子こどもでも、いわゆる「おなかのかぜ」のときに肝かん機能きのうが落おちて、肝炎かんえんになることがあるということです。

ただ、特とくに乳幼児にゅうようじではあまり症状しょうじょうが出でないことが多おおく、原因げんいんがはっきりしない場合ばあいは、ビタミンを投与とうよするといった対症たいしょう療法りょうほうで対応たいおうし、ほとんどは短期間たんきかんで肝臓かんぞうの機能きのうが改善かいぜんすることということです。

通常つうじょう、悪化あっかするケースは少すくなく、「おうだん」が悪化あっかすると脳のうに障害しょうがいが出でることがあるほか、肝かん機能きのうが極端きょくたんに低下ていかすると出血しゅっけつを止とめるたんぱく質たんぱくしつを作つくることができなくなり、極きわめてまれに肝臓かんぞうの移植いしょくが必要ひつようになることもあるということです。

今回こんかいの原因げんいん不明ふめいの急性きゅうせい肝炎かんえんは、子こどもでも症状しょうじょうが比較的ひかくてき重おもく、通常つうじょうの肝炎かんえんとはやや特徴とくちょうが異ことなっています。

2.子こどもがかかった場合ばあいどんな症状しょうじょうが？

原因げんいん不明ふめいの肝炎かんえん、どのような症状しょうじょうが出でるのでしょうか。

WHO＝世界せかい保健ほけん機関きかんによりますと、
▽肝臓かんぞうの酵素こうその値ねが高たかくなっていて、
▽尿にょうの色いろが濃こくなったり、
▽便びんの色いろが薄うすくなったりするほか、
▽皮膚ひふなどが黄色きいろくなる「おうだん」や、
▽下痢げり、
▽おう吐おうと、
▽腹痛はらいた、
▽関節かんせつ痛つうや筋肉きんにく痛つうといった症状しょうじょうが出でる一方いっぽう、発熱はつねつした子こどもはほとんどいないということです。

イギリスやアメリカの詳細しょうさいな症例しょうれい報告ほうこくでは、患者かんじゃの多おおくはおう吐おうとや下痢げり、それにおうだんの症状しょうじょうが出でていて、重症じゅうしょうになった子こどもでは肝臓かんぞうの移植いしょくが必要ひつようになったケースも複数ふくすう報告ほうこくされています。

症状しょうじょうが出でた子こどものうち約やく10％が肝臓かんぞう移植いしょくを受うけることに

WHOによりますと、4月つき29日にちの時点じてんで症状しょうじょうが出でたと報告ほうこくされているのは、イギリスやアメリカなど16か国かこくのおよそ170人にんにのぼります。

症状しょうじょうが出でているのは、生後せいご1か月かげつから16歳さいまでの子こどもだとしています。

このうちのおよそ10％にあたる16人にんは肝臓かんぞう移植いしょくを受うけ、1人にんが亡なくなったとしています。

患者かんじゃの年齢ねんれいは10歳さい未満みまんが大だい多数たすうで、およそ半数はんすうは3歳さいから5歳さいだということです。

3.原因げんいんは？

原因げんいんはどこまで分わかっているのか。

WHOの専門せんもん家かは、症状しょうじょうが出でた子こどもたちから、▽A型がたからE型がたまで5種類しゅるいある肝炎かんえんのウイルスや▽細菌さいきんや▽毒物どくぶつ、▽薬物やくぶつなど、通常つうじょう、原因げんいんになると考かんがえられるものは見みつかっていないとしています。

WHOによりますと、原因げんいん不明ふめいの子こどもの肝炎かんえんは、多おおくの国くにで毎年まいとし数すう例れいずつ起おきているということですが、いくつかの国くにでは明あきらかに増加ぞうかしているのが認みとめられるとして、症例しょうれいの報告ほうこくを求もとめるとともに各国かっこくの研究けんきゅう機関きかんとともに原因げんいんの調査ちょうさを進すすめるとしています。

アデノウイルスが原因げんいんか？新型しんがたコロナウイルスとの関連かんれんは？

この中なかで、関与かんよが指摘してきされているのが、のどの痛いたみや下痢げりなどを起おこす「アデノウイルス」です。

WHOによりますと、症状しょうじょうが出でた子こどものうち、少すくなくとも74人にんからアデノウイルスが検出けんしゅつされていて、18人にんがアデノウイルスのうち、41型がたと呼よばれるウイルスに感染かんせんしていたということです。

また、19人にんについてはアデノウイルスとともに新型しんがたコロナにも感染かんせんしていました。

一般いっぱんにアデノウイルスは接触せっしょくや飛ひまつを通をつうじて感染かんせんし、主おもに、喉のどの痛いたみなど呼吸こきゅう器きの症状しょうじょうが出でますが、アデノウイルス41型がたは呼吸こきゅう器きの症状しょうじょうとともに下痢げりやおう吐おうとなどの症状しょうじょうが出でるということです。

ただ、免疫めんえきの状態じょうたいが落おちている子こどもたちがこのウイルスに感染かんせんした場合ばあいに肝炎かんえんになったとする報告ほうこくはあるものの、健康けんこうな子こどもたちに肝炎かんえんの症状しょうじょうが出でるという報告ほうこくはないとしています。

WHOは、新型しんがたコロナの感染かんせんが世界せかい的てきに拡大かくだいして以降いこう、▽アデノウイルスの感染かんせんが減へっていたため、アデノウイルスに感染かんせんしやすくなっていることや▽新あらたなタイプのアデノウイルスの可能かのう性せいなどを調しらべる必要ひつようがあるとしています。

一方いっぽうで、症状しょうじょうが出でた子こどもの大だい多数たすうは新型しんがたコロナのワクチンを接種せっしゅしていないため、ワクチンの副ふく反応はんのうだとは考かんがえにくいとしています。

英えい 保健ほけん当局とうきょく「最もっとも共通きょうつうする要素ようそとして『アデノウイルス』」

また、イギリスの保健ほけん当局とうきょくが4月つき25日にちに発表はっぴょうした報告ほうこく書しょによりますと、イギリスでは、ことし1月つき以降いこう16歳さい未満みまんの患者かんじゃ111人にんが報告ほうこくされていますが、さまざまなウイルスの検査けんさを行おこなったところ、最もっとも共通きょうつうする要素ようそとして、「アデノウイルス」が浮かび上うかびあがったということです。

アデノウイルスは検査けんさを受うけた53人にんのうち、40人にんから検出けんしゅつされたということです。

また、61人にん中ちゅう10人にんからは新型しんがたコロナウイルスも検出けんしゅつされています。

一方いっぽう、報告ほうこくされた子こどもで新型しんがたコロナのワクチンを接種せっしゅした人ひとはいなかったということです。

イギリスの保健ほけん当局とうきょくは仮説かせつとして▽「アデノウイルスとの関連かんれん」が最もっとも有力ゆうりょくだとしたうえで、▽「アデノウイルスと新型しんがたコロナウイルスやほかの病原びょうげん体たいとの同時どうじ感染かんせんによるもの」、▽「重おもい肝炎かんえんを起おこす新あらたなアデノウイルス」の可能かのう性せいについても調査ちょうさをしているとしています。

さらに、アメリカのCDC＝疾病しっぺい対策たいさくセンターが4月つき29日にちに発表はっぴょうした南部なんぶアラバマ州しゅうの9人にんの患者かんじゃについての報告ほうこくでは、全員ぜんいんからアデノウイルスが検出けんしゅつされた一方いっぽう、新型しんがたコロナウイルスに感染かんせんしていた人ひとはいませんでした。

CDCは「アデノウイルスが原因げんいんの可能かのう性せいがあるが、このほかの環境かんきょう的てきな要因よういんなどについても調査ちょうさをしていく」としています。

4.日本にっぽんの専門せんもん家か “アデノウイルス 今いまの段階だんかいでは断言だんげんできない”

肝炎かんえんへの関与かんよが指摘してきされるアデノウイルスについて、日本にっぽん国内こくないの専門せんもん家かはどのように見みているのか。

子こどもの肝臓かんぞう病びょうに詳くわしい田尻たじり仁ひとし医師いしが確認かくにんしたところ、子こどもでアデノウイルスが関与かんよして重症じゅうしょうの肝炎かんえんになったとする報告ほうこくは、これまでに世界せかいで12例れいしかなく、このうち、基礎きそ疾患しっかんがないケースは2例れいだったということです。

田尻たじり医師いしによりますと、通常つうじょうの診療しんりょうでは、子こどもの肝炎かんえんが分わかった場合ばあい、A型がたからC型がたの肝炎かんえんウイルスの検査けんさは行おこなうものの、それ以上いじょうの検査けんさを行おこなうことはまれで、原因げんいんがはっきりしないケースは多おおいということです。

一方いっぽうで、アデノウイルスは遺伝子いでんし治療ちりょうの際さいに、遺伝子いでんしをねらった場所ばしょに運はこぶために使つかわれることがあり、このときに血管けっかんに入はいってしまうと、肝臓かんぞうに集あつまることが知しられています。

ただ、遺伝子いでんし治療ちりょうで使つかわれるアデノウイルスと、今回こんかい検出けんしゅつされているアデノウイルスはタイプが異ことなります。

国立こくりつ感染かんせん症しょう研究所けんきゅうじょ「急速きゅうそくに感染かんせん者しゃ増加ぞうかする状況じょうきょうではない」

国立こくりつ感染かんせん症しょう研究所けんきゅうじょは4月つき25日にちの時点じてんで、「報告ほうこくのあった各国かっこくで症例しょうれいが著いちじるしく増加ぞうかしている兆候ちょうこうはなく、患者かんじゃの周囲しゅういに容易よういに感染かんせんし、急速きゅうそくに感染かんせん者しゃが増加ぞうかするような状況じょうきょうではない」としています。

そのうえで「国内こくないでも小児しょうにの重症じゅうしょう肝炎かんえんが増加ぞうかしている兆候ちょうこうはない。また、可能かのう性せいのある原因げんいんの1つとして挙あげられているアデノウイルスが国内こくないで通常つうじょう想定そうていされる以上いじょうに流行りゅうこうしている兆候ちょうこうもない」としていて、いまは症例しょうれいがあるか調しらべる段階だんかいだとしています。

5.わたしたちが気きをつけることは？

日本にっぽん小児しょうに肝臓かんぞう研究けんきゅう会かいの運営うんえい委員いいん長ちょうで、近畿きんき大学だいがく奈良なら病院びょういん小児しょうに科かの虫明むしあけ聡さとし太郎たろう教授きょうじゅは子こどもで重症じゅうしょうの肝炎かんえんは年間ねんかん20例れい程度ていどあり、このうち、半数はんすうほどは原因げんいんが分わからないとしています。

そのうえで「ここ数すう年ねんで小児しょうにの急性きゅうせい肝炎かんえんが増ふえているような印象いんしょうは持もっていない。WHOが提唱ていしょうしている基準きじゅんで報告ほうこくを求もとめている国くにの調査ちょうさは注意ちゅういして見みていく必要ひつようがあるが、幅広はばひろい症状しょうじょうの患者かんじゃが当あてはまる可能かのう性せいもある。原因げんいん不明ふめいの重症じゅうしょうの肝炎かんえんが子こどもで増ふえているのか、研究けんきゅう会かいとして詳細しょうさいに調査ちょうさしたいと考かんがえている」と話はなしています。

また、田尻たじり医師いしは「WHOが情報じょうほう発信はっしんをしているので、状況じょうきょうを確認かくにんすることは大切たいせつだ。ただ、欧米おうべいで報告ほうこくされているようなケースが日本にっぽんで相次あいつぐかどうかは分わからず、それほど怖こわがらずに様子ようすを見みてほしい」と話はなしています。

そのうえで、何なにか気きをつけることはあるのか。

「症状しょうじょうが出でたらすぐに医療いりょう機関きかんに」「手洗てあらいをしっかり」

子こどもの肝臓かんぞう病びょうに詳くわしい茨城いばらき県立けんりつこども病院びょういんの須磨すま崎さき亮あきら名誉めいよ院長いんちょうは「子こどもではA型がたからE型がたの肝炎かんえんには該当がいとうせず、原因げんいんがはっきりしない急性きゅうせい肝炎かんえんがしばしば起おきるので、実際じっさいに件数けんすうが増ふえているのか、国くにや専門せんもん家かがよく調しらべる必要ひつようはあるが、今いまの時点じてんでは、一般いっぱんの保護ほご者しゃが過度かどに心配しんぱいする必要ひつようはないのではないか」としたうえで、「子こどもに『おうだん』の症状しょうじょうが出でたり、おう吐おうとや下痢げりで元気げんきがなくて、水分すいぶんが取とれない状態じょうたいになったりすれば、すぐに医療いりょう機関きかんを受診じゅしんしてほしい。アデノウイルスはありふれたウイルスなので、すぐには原因げんいんだとは断定だんていできないと思おもうが、飛ひまつを通つうじてだけでなく接触せっしょく感染かんせんで広ひろがることも多おおいので、手洗てあらいはしっかりしてほしい」と話はなしています。

ソース：NHK ニュース