広島 平和記念式典に約5万人 広島市長 “核抑止論から脱却を”
2023-08-06 02:56:38

広島市の平和公園で午前8時から行われた平和記念式典には、被爆者や遺族の代表をはじめ、岸田総理大臣のほか、過去最多となる111の国の代表が参列しました。
ことしの参列者は、新型コロナウイルスの感染が拡大する前と同じ規模のおよそ5万人となりました。
式典では、この1年で亡くなった人や死亡が確認された人、あわせて5320人の名前が書き加えられた33万9227人の原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められました。
そして、原爆が投下された午前8時15分に、参列者全員が黙とうをささげました。
ロシアがウクライナへの軍事侵攻を続け、核による威嚇を繰り返す中、ことし5月のG7広島サミットでまとめられた「広島ビジョン」では、核兵器のない世界の実現が究極の目標であることが再確認された一方、「核兵器は存在するかぎり、防衛目的のために役割を果たすべき」といった考え方が示されました。
これについて広島市の松井市長は、平和宣言で「世界の指導者は、核抑止論は破綻しているということを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための具体的な取り組みを早急に始める必要があるのではないか。平和な世界の実現に向け、為政者に核抑止論から脱却を促すことがますます重要になっている」と訴えました。
その上で、各国の為政者に対して、核による威嚇を直ちに停止し、対話を通じた信頼関係に基づく安全保障体制の構築に向けて一歩を踏み出すことを強く求めました。そして、日本政府には一刻も早く核兵器禁止条約の締約国になることや、まずはことし11月の締約国会議にオブザーバーとして参加することを要望しました。
続いて、地元の小学生2人が「平和への誓い」として、「被爆者の思いを自分事として受け止め、自分のことばで伝えていきます。誰もが平和だと思える未来を、広島に生きる私たちがつくっていきます」と述べました。
岸田首相「核兵器ない世界実現へ国際的な機運を呼び戻す」
また、岸田総理大臣はあいさつの中で、「核兵器によってもたらされた広島、長崎の惨禍は決して繰り返してはならない。わが国は引き続き非核三原則を堅持しながら唯一の戦争被爆国として『核兵器のない世界』の実現に向けた努力をたゆまず続ける」と述べました。
その上で「現在、核軍縮をめぐる国際社会の分断の深まりやロシアによる核の威嚇などにより、その道のりはいっそう厳しいものになっている。しかし、このような状況だからこそ『核兵器のない世界』の実現に向け、国際的な機運をいま一度呼び戻すことが重要だ」と強調しました。
さらに、ことし5月のG7広島サミットに触れ「世界のリーダーたちに被爆者の声を聞いていただき、被爆の実相や平和を願う人々の思いに直接触れてもらった。すでに始まっている『国際賢人会議』の議論も踏まえながら『核兵器のない世界』の実現に向け引き続き積極的に取り組んでいく」と訴えました。
そして「被爆者の方々に対しては、原爆症の認定についてできる限り迅速な審査を行う」と述べ、高齢化が進む被爆者に寄り添いながら総合的な援護施策を推進していく考えを強調しました。
被爆者の平均年齢は85歳超に
原爆投下から78年がたち、被爆者の平均年齢は85歳を超えました。
高齢化が進む被爆者たちの悲惨な体験や核兵器廃絶を願う声をどのように引き継いで未来に伝え続けていくのか。核の脅威が高まる今こそ、問われています。
被爆地・広島はきょう1日、犠牲者を追悼する祈りに包まれるとともに、核兵器のない世界の実現を国内外に発信することになります。
維新 馬場代表「核兵器禁止条約の締約国会議に参加すべき」
日本維新の会の馬場代表は、広島市で開かれた平和記念式典に出席したあと、記者団に対し「原子爆弾の投下から78年になり、世界中から核を無くそうという声はあがるが、実際にアクションが進んでいる状況ではない。日本としても、ことし11月に開かれる核兵器禁止条約の締約国会議にオブザーバーとして参加すべきだ」と述べました。
一方で馬場氏は、日本の安全保障をめぐる環境を踏まえ「現状、日本が最悪な緊急事態を迎えた場合に、アメリカの核で守られることは動かしようのない事実だ。アメリカの核兵器を同盟国で共有して運用する『核シェアリング=核共有』の議論をアメリカと進めることは非常に重要だ」と指摘しました。
国民 玉木代表「核廃絶の意義よりいっそう高まっている」
国民民主党の玉木代表は、広島市で開かれた平和記念式典に出席したあと、記者団に対し「キューバ危機以降、最も核兵器の使用や威嚇の脅威が高まっている時であり、5月にG7広島サミットが開かれたからこそ、式典で核廃絶に向けた力強いメッセージを出し続ける意義は、よりいっそう高まっている」と述べました。
そして「世界の現実は厳しく、核保有国と非保有国の間だけでなく、核保有国での分断も進んでいる。橋渡し役をまさに日本が果たすべきで、11月の核兵器禁止条約の締約国会議には、日本はオブザーバー参加すべきだ」と述べました。
東広島の大学生「二度と繰り返してはならない」
平和記念式典に参列していた東広島市に住む21歳の大学生は「就職して広島を離れる前に一度は来なければならないという思いがあって今回初めて参列しました。『平和への誓い』の中で川に死体が浮かんでいたことなど原爆投下直後の様子が語られていたのがとても印象に残りました。ロシアによるウクライナ侵攻も続いている中で、二度と核による被害を繰り返してはならないと改めて考えました」と話していました。
長野 小諸の女性「子どもたちがしっかり考えている」
平和記念式典に参列していた長野県小諸市の71歳の女性は「参列してみて子どもたちが平和のことをしっかり考えているのがわかりとてもうれしかったです。ロシアによるウクライナ侵攻が続き、核兵器が使用される懸念もある中で被爆国である日本の対応が求められていると思います」と話していました。
また、一緒に参列した孫の小学6年生の女の子は「平和の大切さについて改めて考えていく必要があると感じました」と話していました。
インド人の夫婦「涙が流れるのを抑えられなかった」
平和記念式典に参加したインド人の30代の夫婦は「インドも核兵器を保有しているが、世界中で核を廃絶すべきだし、軍縮を進めるべきだと考え、きょうの式典に参加した。8時15分に黙とうした時、被爆した人たちのことを思い浮かべると、涙が流れるのを抑えられなかった」と話しました。
その上で、「G7広島サミットは大きな出来事だったが、重要なのは世界中のひとたちが被爆者の話を聞くことだと思う。ことしインドでG20も開かれるが、核や戦争の問題についてしっかり話し合ってもらいたい」と話しました。
スペイン人の男性「平和への祈りの力強さを感じた」
平和記念式典に参列したスペイン人の40代の男性は「日本にとって大切な日の式典なので、機会があれば参加したいと思っていた。特に印象に残ったのが、黙とうの時の静けさで、平和への祈りの力強さを感じた。今後、人類の歴史のなかで、核兵器が使われないことを願っている」と話していました。
広島市内では各地の小学校で平和学習
原爆投下から78年となる6日、広島市内では各地の小学校で平和学習が行われました。
このうち広島市東区の中山小学校では、児童たちが教室のスクリーンで平和記念式典の様子を見守り、原爆が投下された午前8時15分になると目を閉じて黙とうをささげました。
この小学校では6年3組の児童のひとりが式典で読み上げられた「平和への誓い」の作成に携わったということで、クラスのみんなで誓いのことばに耳を傾けていました。
このあと学校の体育館では全校での平和学習が行われ、作文を読み上げた6年生の児童の代表は「もし僕が友達の立場を考えたり、思いやりを持てたりしたらけんかにならないかもしれません。そうやって子どもも大人も協力して平和な世界を作りませんか」と平和への思いを伝えました。
また、クラスごとに考えた平和のために行う「誓い」も発表され、このうち3年3組は「自分と違う意見も大切にし、ぽかぽかことばで話し合おう」と呼びかけていました。
6年生の男子児童は「核兵器がなくなり、広島や長崎、それに世界が平和になればいいと思いました。暴言や暴力をなくし、みんなが平和に、笑顔になってほしい」と話していました。