日本認知症学会の理事長で東京大学の岩坪威教授は、「アルツハイマー病の発症メカニズムに即して、根本的な病気の原理に働きかける薬は初めてで画期的だ。FDAの判断は、データには十分ではないところが残るにせよ、根本的な治療薬がない中である程度の科学的な証拠が得られたので、まず臨床現場で使ってみて、さらによいものにつなげようという精神で行われた判断だと思う。今後、さらによい薬が続々と開発されて、認知症の根本治療につながる第一歩として、非常に大きな判断になったと思う」と話していました。
今後、患者や医療現場に与える影響については、「今回の薬は、認知症を発症したばかりの状態からその後の進行のスピードを抑えるもので中等症や重症になるまでの時間を延ばすことでより生活を高いレベルで維持することができると期待される。症状が軽い段階がなるべく長く続けば介護の負担が少なく、本人も自分らしい生活が送れるようになるメリットは非常に大きいと思う。一方、薬を使えるかどうかを診断するためには脳にアミロイドβがたまりアルツハイマー病の初期段階ということを調べる特殊な装置が必要となる。さらに脳に局所的なむくみが出るなどの副作用への対応も必要で、専門医や専門施設を準備することが求められるのではないか」と指摘しました。
また、薬価が高額になるという指摘については、「バイオジェン社の予測する価格では、月に1回の投与に50万円以上と薬代が相当高い。これをどうやって負担するのかは世界各国どこでも大きな問題になると思う。仮に国内で実用化されることになるならば現在の医療保険の制度を超えて新しいさまざまな工夫をして負担を軽減することも必要になるかもしれない」としました。
また、日本での承認の見通しについては、「FDAの審査結果は日本での判断にも大きく参考にされるのではないか。ただ、FDAは患者への有効性についてはさらに追加の検証が必要としていて、今後、日本で追加の試験がどのような形でとられるかは大きな課題だと思う。日本でも比較的、早い段階のアルツハイマー病の人は非常に数が多く、公的保険制度の中で財政的な課題も考えると薬の効果が最も期待できる人に絞って投与できるよう専門医が正しく判断することも大事になる」と話していました。
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アルツハイマー病の新薬 米で承認 国内の受け止めは
2021-06-08 10:33:29

国内の認知症の人は600万人以上と推計されていて、今後、高齢化が進むにつれて、患者の数は増えると考えられています。2025年にはおよそ700万人となるという推計もあります。国内では全体の60%から70%がアルツハイマー病だとみられています。アメリカのFDA=食品医薬品局が「アデュカヌマブ」をアルツハイマー病の治療薬として承認したことについて、国内の受け止めです。
東京大学 岩坪教授「認知症の根本治療につながる第一歩」

国立精神・神経医療研究センター 中村氏「手放しでは喜べない」

また、国立精神・神経医療研究センターの中村治雅臨床研究支援部長は「アルツハイマー病は医療ニーズが高いのに治療の選択肢が少なく、新しい治療薬が待望されていた。今回の薬は、症状の緩和を目指したこれまでの薬とは異なり、原因に迫り、治せるかもしれないという期待もあり、患者や家族、介護者、それに医療者にとっては希望となる」と話しています。
その一方で「この薬の治験は必ずしも成功しておらず、去年11月の専門家の会議では否定的な見解が出ていることもあり、専門家の中でも承認について賛否が分かれている。アルツハイマー病の治療のニーズが高いこともあり、今回、完全には有効性が分かっていない中で迅速承認となっていて、FDAは今後も大規模な治験を行うことを求めている。手放しでは喜べず、本当に有効な薬なのかどうか、そしてどのような患者さんに対して使うべきなのかといった点に今後も注意を払うべきだ」と指摘しています。
その一方で「この薬の治験は必ずしも成功しておらず、去年11月の専門家の会議では否定的な見解が出ていることもあり、専門家の中でも承認について賛否が分かれている。アルツハイマー病の治療のニーズが高いこともあり、今回、完全には有効性が分かっていない中で迅速承認となっていて、FDAは今後も大規模な治験を行うことを求めている。手放しでは喜べず、本当に有効な薬なのかどうか、そしてどのような患者さんに対して使うべきなのかといった点に今後も注意を払うべきだ」と指摘しています。
日本での審査のめどは
新薬の審査を行うPMDA=医薬品医療機器総合機構では、個別の薬の審査状況については公表できないとしています。
そのうえで、通常、新薬については申請日から1年を目標に厚生労働省が承認するかどうかの判断ができるよう審査を進めているということです。
そのうえで、通常、新薬については申請日から1年を目標に厚生労働省が承認するかどうかの判断ができるよう審査を進めているということです。
若年性認知症の家族会 森代表「日本でも早く承認されるよう」

若年性認知症の家族会、「彩星の会」の森義弘 代表は「アルツハイマー病の原因物質とされる『アミロイドβ』の蓄積が確認された30代、40代に早い段階から薬を投与して、発症を抑えることができれば、『若年性アルツハイマー』ということば自体が無くなるのではないかと期待している」と話しています。
アメリカでの承認で、患者への有用性については今後、検証が必要とされたことについて「有用性が確認されることを願っているが、患者の多くは薬による副作用がなければ、仮に効果がなくても使ってみたいはずだ。これまで新しい薬の候補の開発が断念されたという情報が入るたびに患者は残念な思いをしてきたので、アメリカで治療薬として承認されたことにはとても期待している。日本でも早く承認されるよう願っている」と話していました。
アメリカでの承認で、患者への有用性については今後、検証が必要とされたことについて「有用性が確認されることを願っているが、患者の多くは薬による副作用がなければ、仮に効果がなくても使ってみたいはずだ。これまで新しい薬の候補の開発が断念されたという情報が入るたびに患者は残念な思いをしてきたので、アメリカで治療薬として承認されたことにはとても期待している。日本でも早く承認されるよう願っている」と話していました。
ソース:NHK ニュース