障害しょうがい者しゃ雇用こよう 意図いと的てきな水増みずましの有無うむ 「第だい三さん者しゃの検討けんとうに委ゆだねる」

障害しょうがい者しゃ雇用こようの水増みずまし問題もんだいで、厚生こうせい労働ろうどう省しょうは、中央ちゅうおう省庁しょうちょうの８はち割わりに上のぼる行政ぎょうせい機関きかんで合あわせて3460人にんが水増みずましされていたとする調査ちょうさ結果けっかをまとめました。一方いっぽう、意図いと的てきな水増みずましがあったかについては、「第だい三さん者しゃの検証けんしょうに委ゆだねる」とするにとどまりました。

行政ぎょうせい機関きかんや企業きぎょうは一定いっていの割合わりあい以上いじょうの障害しょうがい者しゃを雇やとうことが法律ほうりつで義務ぎむづけられていますが、複数ふくすうの中央ちゅうおう省庁しょうちょうで、雇用こようする障害しょうがい者しゃの数かずが水増みずましされていたことがわかり、厚生こうせい労働ろうどう省しょうが調査ちょうさを進すすめてきました。

28日にちに厚生こうせい労働ろうどう省しょうが発表はっぴょうした調査ちょうさ結果けっかによりますと、去年きょねん６月ろくがつの時点じてんで、調査ちょうさ対象たいしょうとなった中央ちゅうおう省庁しょうちょうの33の行政ぎょうせい機関きかんのうち、８はち割わりに当にあたる27の機関きかんで障害しょうがい者しゃ手帳てちょうを持もっていないのに障害しょうがい者しゃとして数かぞえるなどの水増みずましがあったとしています。

水増みずましされていた人数にんずうは中央ちゅうおう省庁しょうちょうで雇用こようしたことになっていた障害しょうがい者しゃの半数はんすうに当にあたる3460人にんに上のぼりました。これにより、実際じっさいの雇用こよう率りつは、公表こうひょうされていた2.49％から1.19％に下さがり、達成たっせいしたとされていた当時とうじの法定ほうてい雇用こよう率りつ、2.3％を大おおきく下回したまわることになります。

省庁しょうちょう別べつで最もっとも多おおかったのは国税庁こくぜいちょうでおよそ1020人にん、次ついで国土こくど交通こうつう省しょうがおよそ600人にん、法務省ほうむしょうがおよそ540人にん、防衛ぼうえい省しょうがおよそ320人にん、財務省ざいむしょうが170人にんちょうどなどとなっています。

国税庁こくぜいちょうや国土こくど交通こうつう省しょうでは、水増みずましが多おおかった理由りゆうについて「地方ちほうの出先でさき機関きかんが多おおく、ほかの省庁しょうちょうに比くらべて職員しょくいんの数かずが多おおいため相対そうたい的てきに水増みずましも多おおくなってしまった」と説明せつめいしています。

障害しょうがい者しゃ手帳てちょうなどを確認かくにんせず健康けんこう診断しんだんや本人ほんにんの申告しんこくに基もとづいて障害しょうがい者しゃとして数かぞえ、中なかには手帳てちょうのない糖尿とうにょう病びょうの人ひとなどを加くわえていたケースもあったということです。

ただ、厚生こうせい労働ろうどう省しょうは意図いと的てきな水増みずましがあったかについては「第だい三さん者しゃの検証けんしょうに委ゆだねる」とするにとどまりました。

厚生こうせい労働ろうどう省しょうは、今後こんご、弁護士べんごしなど第だい三さん者しゃが参加さんかする検証けんしょうチームを設置せっちすることにしています。

これまでの経緯けいい

厚生こうせい労働ろうどう省しょうによりますと、今回こんかいの問題もんだいは、ことし５月ごがつ、財務省ざいむしょうが厚生こうせい労働ろうどう省しょうに対にたいして対象たいしょうとなる障害しょうがい者しゃについて問い合といあわせたことがきっかけで発覚はっかくしたということです。

複数ふくすうの省庁しょうちょうで本来ほんらい対象たいしょうとならない職員しょくいんを障害しょうがい者しゃとして水増みずましていた疑うたがいがあることがわかり、厚生こうせい労働ろうどう省しょうは、翌月よくげつの６月ろくがつにすべての中央ちゅうおう省庁しょうちょうを対象たいしょうとした調査ちょうさを始はじめました。

これが報ほうじられるようになった今月こんげつ以降いこう、全国ぜんこくの自治体じちたいでも同様どうようの問題もんだいが広ひろがりました。

ＮＨＫえぬえいちけいが全国ぜんこくの都道とどう府県ふけんについて取材しゅざいしたところ、27日にちまでに少すくなくとも34の府県ふけんの知事ちじ部局ぶきょくや教育きょういく委員いいん会かい、警察けいさつ本部ほんぶのいずれかで水増みずましや不適切ふてきせつな計上けいじょうがあったということです。

問題もんだいが見みつかったのは、青森あおもり、岩手いわて、宮城みやぎ、秋田あきた、山形やまがた、福島ふくしま、神奈川かながわ、茨城いばらき、栃木とちぎ、埼玉さいたま、千葉ちば、富山とやま、石川いしかわ、福井ふくい、三重みえ、山梨やまなし、長野ながの、静岡しずおか、大阪おおさか、兵庫ひょうご、奈良なら、滋賀しが、島根しまね、広島ひろしま、徳島とくしま、香川かがわ、愛媛えひめ、高知こうち、佐賀さが、長崎ながさき、宮崎みやざき、大分おおいた、熊本くまもと、沖縄おきなわの合あわせて34の府県ふけんです。

ガイドラインなぜ守まもられず

どのような人ひとを障害しょうがい者しゃとして計上けいじょうするかについて、厚生こうせい労働ろうどう省しょうはガイドラインや通知つうちで示しめしていますが、各かく省庁しょうちょうからは内容ないようがわかりにくかったという指摘してきも上あがっています。

ガイドラインでは、障害しょうがい者しゃかどうか判断はんだんする際さいに「障害しょうがい者しゃ手帳てちょうなどで確認かくにんする」と定さだめています。一方いっぽう、通知つうちでは、障害しょうがい者しゃとして計上けいじょうできるのは「原則げんそくとして障害しょうがい者しゃ手帳てちょうの等級とうきゅうに該当がいとうする者もの」としています。

この「原則げんそくとして」という言葉ことばについて、各かく省庁しょうちょうでは「原則げんそくにあてはまらない場合ばあいもある」と拡大かくだい解釈かいしゃくされていました。厚生こうせい労働ろうどう省しょうは、問題もんだいの発覚はっかく後ごのことし５月ごがつ末まつに新あらたに通知つうちを出だし、「原則げんそくとして」という文言もんごんを削除さくじょしています。

また、６月ろくがつには、ガイドラインの手順てじゅんを詳くわしく示しめした「チェックシート」も作成さくせいし、障害しょうがい者しゃ手帳てちょうの原本げんぽんか写うつしを確認かくにんするよう明記めいきしました。

問題もんだいが発覚はっかくするまで、多おおくの省庁しょうちょうが障害しょうがい者しゃ手帳てちょうなどを確認かくにんせずに、健康けんこう診断しんだんの結果けっかや職員しょくいんの自己じこ申告しんこくをもとに、本来ほんらい対象たいしょうとならない職員しょくいんを障害しょうがい者しゃとして計上けいじょうしていました。

民間みんかん企業きぎょうからは憤いきどおりの声こえ

今回こんかいの問題もんだいについて、義務ぎむづけられた障害しょうがい者しゃの雇用こよう率りつを過去かこに達成たっせいできず、国くにから納付のうふ金きんを課かされていた民間みんかん企業きぎょうからは憤いきどおりの声こえがあがっています。

神奈川かながわ県けん小田原おだわら市しで、石せっけんやろうそくなどを製造せいぞうする企業きぎょう「リンクライン」では、知的ちてき障害しょうがいや精神せいしん障害しょうがいのある人ひとなど26人にんを雇用こようしています。

東京とうきょうのＩＴ企業きぎょうが雇用こよう率りつを達成たっせいするための子会社こがいしゃとして８はち年ねん前まえに設立せつりつされました。親会社おやがいしゃは、10年ねん余あまりにわたって、雇用こよう率りつを達成たっせいできなかったため、不足ふそくする障害しょうがい者しゃ１いち人にん当あたり毎月まいつき５ご万まん円えんの納付のうふ金きんを国くにから課かされていました。当時とうじの資料しりょうには納おさめた金額きんがくが記しるされ、多おおい年としで1200万まん円えん余あまりに上のぼっていました。さらに、厚生こうせい労働ろうどう省しょうから「雇用こよう率りつを達成たっせいしなければ企業きぎょう名めいを公表こうひょうする」と繰り返くりかえし指導しどうされたため、親会社おやがいしゃは5000万まん円えんの資本しほん金きんを投とうじて、集中しゅうちゅう的てきに障害しょうがい者しゃを雇用こようするこの子会社こがいしゃを設立せつりつしました。

従業じゅうぎょう員いんを採用さいようする際さいには必かならず障害しょうがい者しゃ手帳てちょうなどを確認かくにんし、厚生こうせい労働ろうどう省しょうにもそのコピーを提出ていしゅつして、チェックを受うけています。神原かみはら薫かおる社長しゃちょうは「企業きぎょう側がわにとってもどういう配慮はいりょが必要ひつようか考かんがえるうえで、障害しょうがい者しゃ手帳てちょうなどの確認かくにんは欠かかせないものだ」と話はなしていました。

この会社かいしゃでは知的ちてき障害しょうがい者しゃの従業じゅうぎょう員いんが働はたらきやすいよう、作業さぎょうの手順てじゅんをカードに書かいたり、動画どうがで見みせたりするなど工夫くふうを重かさねた結果けっか、３さん年ねん前まえからは利益りえきが出でるようになったということです。

今回こんかいの問題もんだいについて障害しょうがいのある従業じゅうぎょう員いんは「私わたしたちも一生懸命いっしょうけんめい仕事しごとを探さがして働はたらいているので、国くにがごまかしていたことに傷きずついた」とか、「能力のうりょくに合あわせて割わりふってもらえばできる仕事しごともあると思おもうので、配慮はいりょをしてほしい」と話はなしていました。

神原かみはら社長しゃちょうは「企業きぎょうは納付のうふ金きんの制度せいどがあるので雇用こよう率りつを達成たっせいしようとするが、雇やとわなくても指導しどうを受うけないなら、いいかげんになるのもわかる気きがする。行政ぎょうせいも民間みんかんと同おなじルールで障害しょうがい者しゃ雇用こようを行おこなうべきではないか」と話はなしていました。

企業きぎょうと国くに・自治体じちたいでチェックに違ちがい

従業じゅうぎょう員いんや職員しょくいんのうち一定いっていの割合わりあいの障害しょうがい者しゃを雇用こようすることは、昭和しょうわ51年ねん以降いこう、企業きぎょうと、国くにや自治体じちたいなどに法律ほうりつで義務ぎむづけられています。

義務ぎむづけられた障害しょうがい者しゃの雇用こよう率りつは次第しだいに引き上ひきあげられ、ことし４月しがつからは企業きぎょうは2.2％、国くにや自治体じちたいは2.5％となっています。企業きぎょうが雇用こよう率りつを達成たっせいできているかについては、厳きびしいチェックが行おこなわれます。

厚生こうせい労働ろうどう省しょうの外郭がいかく団体だんたい「高齢こうれい・障害しょうがい・求職きゅうしょく者しゃ雇用こよう支援しえん機構きこう」が毎年まいとし、企業きぎょうで働はたらく障害しょうがい者しゃについて障害しょうがい者しゃ手帳てちょうなどを確認かくにんするほか、３さん年ねんに１いち度ど、監査かんさに入はいります。

企業きぎょうで働はたらく障害しょうがい者しゃは去年きょねん６月ろくがつの時点じてんで49万まん6000人にんとこれまでで最もっとも多おおくなっていますが、義務ぎむづけられた雇用こよう率りつを達成たっせいした企業きぎょうは全体ぜんたいの半数はんすうにとどまっています。

一定いってい規模きぼ以上いじょうの企業きぎょうが達成たっせいできていない場合ばあいは、不足ふそくしている障害しょうがい者しゃの数かずに応おうじて１いち人にんにつき月つき５ご万まん円えんの納付のうふ金きんが課かされます。さらに、達成たっせいするための計画けいかくの作成さくせいと実施じっしを厚生こうせい労働ろうどう省しょうから勧告かんこくされ、従したがわない場合ばあいは企業きぎょう名めいが公表こうひょうされます。

一方いっぽうで、国くにや自治体じちたいなどの公的こうてき機関きかんについては、第三者だいさんしゃによるチェックが行おこなわれていません。公的こうてき機関きかんは義務ぎむづけられた雇用こよう率りつを達成たっせいできなかった場合ばあいの納付のうふ金きんも課かされません。公的こうてき機関きかんは、障害しょうがい者しゃ雇用こようを進すすめるいわば「旗はた振ふり役やく」であり、達成たっせいすることが当然とうぜんだと考かんがえられているからです。

去年きょねん６月ろくがつの時点じてんで、中央ちゅうおう省庁しょうちょうなど国くにの機関きかんはほぼすべてで、義務ぎむづけられた雇用こよう率りつを達成たっせいしたことになっていました。国くにや自治体じちたいに対にたいするチェック体制たいせいが企業きぎょうに比くらべて甘あまいことが今回こんかいの問題もんだいの背景はいけいにあるとも指摘してきされていて、厚生こうせい労働ろうどう省しょうは「公的こうてき機関きかんであるから自主じしゅ的てきに雇用こよう率りつを満みたすだろうという性善説せいぜんせつのもとで制度せいどとして進すすめられてきた。なぜ、今回こんかいの問題もんだいが起おきたのか検証けんしょうを進すすめ、再発さいはつ防止ぼうしに務つとめていきたい」としています。

専門せんもん家か「ペナルティーも必要ひつよう」

国くにの省庁しょうちょうが障害しょうがい者しゃ雇用こよう率りつを水増みずまししていたことについて、長年ながねん、障害しょうがい者しゃ雇用こようの制度せいどを研究けんきゅうし国こくに助言じょげんしてきた東京とうきょう通信つうしん大学だいがくの松まつ為信ためのぶ雄お教授きょうじゅは「官公庁かんこうちょうは当然とうぜん、雇用こよう率りつを満みたすはずだという性善説せいぜんせつで考かんがえられてきたので水増みずましは裏切うらぎられた思おもいだ。チェックを強化きょうかするため今後こんごは民間みんかんと同おなじように省庁しょうちょうにペナルティーを課かすことも必要ひつようではないか」と話はなしています。

また「難むずかしい業務ぎょうむや残業ざんぎょうが多おおいというのは理由りゆうにはならない。民間みんかんが努力どりょくして蓄積ちくせきしてきたノウハウを取り入とりいれて国くにには雇用こよう率りつの制度せいどをしっかり守まもってほしい」と話はなしています。

障害しょうがい者しゃからも批判ひはんの声こえ

今回こんかいの問題もんだいについて就職しゅうしょく活動かつどうを行おこなっている障害しょうがい者しゃからも批判ひはんの声こえが上あがっています。

東京とうきょう 新宿しんじゅく区くに住すむ鵜う澤さわ実みのるさん（33）は９きゅう年ねん前まえに統合とうごう失調しっちょう症しょうと診断しんだんされ、精神せいしん障害しょうがいがあります。障害しょうがい者しゃの就労しゅうろう支援しえんを行おこなう新宿しんじゅく区内くないの事業じぎょう所しょに通かよい、事務じむ作業さぎょうなどの職業しょくぎょう訓練くんれんを受うけています。民間みんかん企業きぎょうで事務じむの仕事しごとに就つくことを目指めざしてことし６月ろくがつに就職しゅうしょく活動かつどうを始はじめましたが、その直後ちょくごに今回こんかいの問題もんだいを知しり、憤いきどおりを感かんじたといいます。

鵜う澤さわさんは「国くにの省庁しょうちょうで水増みずましが行おこなわれているようでは民間みんかん企業きぎょうに示しめしがつかない。自分じぶんだけでなく多おおくの障害しょうがい者しゃがなぜこんなことが起おきたのかと疑問ぎもんを持もっていると思おもうので、早急そうきゅうに原因げんいんを明あきらかにしてほしい」と訴うったえました。

そのうえで「自分じぶんも両親りょうしんに恩返おんがえしをしたり、会社かいしゃや社会しゃかいに貢献こうけんしたりしたいと思おもって就職しゅうしょく活動かつどうに励はげんでいます。より多おおくの障害しょうがい者しゃが自分じぶんの才能さいのうをいかして就職しゅうしょくできるような環境かんきょうを作つくってほしいと思おもう」と話はなしていました。

ソース：NHK ニュース