人工じんこう知能ちのう「東ひがしロボくん」 東大とうだいを断念だんねん

東京とうきょう大学だいがく合格ごうかくを目指めざし、毎年まいとし、センター試験しけんの模試もしを受うけてきた人工じんこう知能ちのうの「東ひがしロボくん」が、東大とうだい合格ごうかくを諦あきらめ、進路しんろ変更へんこうすることを開発かいはつチームの国立こくりつ情報じょうほう学がく研究所けんきゅうじょのグループが明あきらかにしました。

東大とうだい合格ごうかくを目指めざす「東ひがしロボくん」は、国立こくりつ情報じょうほう学がく研究所けんきゅうじょの新井あらい紀子のりこ教授きょうじゅらを中心ちゅうしんに大手おおての情報じょうほう通信つうしん企業きぎょうなどが参加さんかして開発かいはつしてきた人工じんこう知能ちのうです。ことし有名ゆうめい私立しりつ大学だいがくに合格ごうかくし、２に０ぜろ２に２に年ねん春はるまでに東京とうきょう大学だいがくに合格ごうかくするのが目標もくひょうで、去年きょねんのセンター試験しけんの模試もしでは４よん７なな０ぜろ余あまりの大学だいがくで「合格ごうかく率りつ８はち０ぜろ％以上いじょう」を示しめすＡえい判定はんていを獲得かくとくしました。

これまで順調じゅんちょうに成績せいせきを伸のばしてきた東ひがしロボくんですが、教科書きょうかしょなどの情報じょうほうと検索けんさく技術ぎじゅつによって正解せいかいにたどりつく世界せかい史しなどは得意とくいな一方いっぽう、文章ぶんしょうの意味いみを理解りかいして、問題もんだい文ぶんを読み解よみとく「読解どっかい力りょく」がなかなか向上こうじょうしませんでした。このため国語こくごや英語えいごなどの科目かもくでは、今後こんごの成績せいせき向上こうじょうに限界げんかいがあり東大とうだい合格ごうかくの水準すいじゅんにあたる偏差へんさ値ち７なな０ぜろ以上いじょうにまで成績せいせきを上あげることは現在げんざいの技術ぎじゅつでは難むずかしいと判断はんだんしたということで、ことしで東大とうだい合格ごうかくは諦あきらめ、“進路しんろ変更へんこう”を決きめました。

チームでは、「東ひがしロボくん」よりもセンター試験しけん模試もしの偏差へんさ値ちが低ひくい受験生じゅけんせいがいる背景はいけいには、読解どっかい力りょくの問題もんだいがある可能かのう性せいがあると見みていて今後こんごは、東ひがしロボくんの研究けんきゅう成果せいかを中高生ちゅうこうせいの「読解どっかい力りょく」を養やしなう教育きょういく分野ぶんやの研究けんきゅうなどに生いかしていくとしています。

新井あらい教授きょうじゅは「有名ゆうめい私立しりつ大学だいがくに合格ごうかくできる自信じしんは出来できた。東ひがしロボくんはこのあたりで“浪人ろうにん”を終おわりにして合格ごうかくした大学だいがくに入学にゅうがくするのがよいのではないかと思おもう。今後こんご、人工じんこう知能ちのうの社会しゃかいへの導入どうにゅうは必至ひっしで、人間にんげんが人工じんこう知能ちのうに勝まさるのは読解どっかい力りょくだ。人工じんこう知能ちのうに負まけない子こどもたちを育そだてる教育きょういくを提案ていあんする研究けんきゅうに力ちからを入いれていきたい」と話はなしていました。

合格ごうかくを阻はばむ壁かべは

東ひがしロボくんの東大とうだい合格ごうかくを阻はばんだのは、人間にんげんのように問題もんだい文ぶんの意味いみを理解りかいする難むずかしさです。東ひがしロボくんは、蓄積ちくせきした知識ちしきや論理ろんりを扱あつかう問題もんだいが多おおい「世界せかい史し」や「数学すうがく」といった科目かもくは得意とくいです。

一方いっぽう、人間にんげんでは当たり前あたりまえの常識じょうしきや問題もんだい文ぶんに書かかれていないことを推測すいそくし、人間にんげんのように意味いみを理解りかいすることができません。例たとえば、センター試験しけん模試もしの英語えいごの問題もんだいで２に人にんの会話かいわのやり取やりとりを読よみ、空欄くうらん部分ぶぶんについて与あたえられた単語たんごを並ならべ替かえて会話かいわを成立せいりつさせる問題もんだいです。

「こんなに暑あついのに歩あるいたの！」という問といかけに対にたいし、「はい。とてものどが乾かわいた。だから」に続つづく文章ぶんしょうを６むっつの単語たんごで作つくります。この時とき、東ひがしロボくんは６むっつの単語たんごの並ならび替がえをインターネット上じょうの文章ぶんしょうで検索けんさくし、候補こうほとして、「冷つめたいものが飲のみたい」、「寒さむいので何なにか飲のみたい」という２ふたつの文章ぶんしょうを作つくりました。

通常つうじょう、人間にんげんであれば「暑あついのだから冷つめたいものが飲のみたいだろう」と状況じょうきょうを理解りかいし、当然とうぜん、「冷つめたいものが飲のみたい」と解答かいとうします。しかし、暑あついとは何なにか、暑あついと何なにが飲のみたいのか、という知識ちしきは教科書きょうかしょに記載きさいされていません。

このため東ひがしロボくんは、「寒さむいので何なにか飲のみたい」といった間違まちがった解答かいとうを選えらんでしまうのです。

自然しぜん言語げんご処理しょりの現状げんじょうは

問題もんだい文ぶんの意味いみを理解りかいして解答かいとうすることが苦手にがてな東ひがしロボくん。一方いっぽう、私わたしたちの身の回みのまわりにある人工じんこう知能ちのうの中なかには、一見いっけん、言葉ことばを理解りかいしているかのようにふるまうものもあります。いずれも自然しぜん言語げんご処理しょりという技術ぎじゅつが使つかわれていますが、人間にんげんと同おなじレベルで言葉ことばの意味いみを理解りかいしているわけではありません。

例たとえば、マイクロソフトが運営うんえいする「りんな」という人工じんこう知能ちのうがＬＩＮＥを使つかって会話かいわに応おうじるサービスでは、検索けんさくエンジンの技術ぎじゅつを応用おうようし、インターネット上じょうの膨大ぼうだいな情報じょうほうの中なかからユーザーどうしのやり取やりとりが長ながく続つづいた言葉ことばなどを統計とうけい的てきに選えらんだうえで文章ぶんしょうを作り出つくりだしていて、人間にんげんのように会話かいわの意味いみを理解りかいして答こたえているわけではありません。

また、医師いしでも診断しんだんがつけられなかった難むずかしい白血病はっけつびょうを見抜みぬき、注目ちゅうもくを集あつめたＩＢＭあいび-えむのワトソンも、蓄積ちくせきした論文ろんぶんなどの情報じょうほうからデータベースを作つくり、患者かんじゃの遺伝子いでんしの情報じょうほうと照てらし合あわせることで病気びょうきの原因げんいんの候補こうほなどを抽出ちゅうしゅつしています。そして、あらかじめ医師いしの下したで学習がくしゅうした結果けっかなどをもとに候補こうほの優先ゆうせん度どを計算けいさんしているのです。

言語げんご処理しょり学会がっかいの会長かいちょうで東京とうきょう工業こうぎょう大学だいがくの徳永とくなが健けん伸しん教授きょうじゅは「現在げんざいの人工じんこう知能ちのうは、外見がいけん上じょうでは言葉ことばを理解りかいして会話かいわしているように見みえるが、必かならずしも人間にんげんのような理解りかいをしているわけではなく、内部ないぶでは統計とうけい的てきな処理しょりを行おこない、確率かくりつの高たかそうな答こたえを導みちびいている」と話はなしています。

そのうえで、東ひがしロボくんの東大とうだい受験じゅけんから見みえる人間にんげんと人工じんこう知能ちのうの違ちがいについて「入試にゅうし問題もんだいを解とくには文中ぶんちゅうに書かかれていない情報じょうほうも利用りようする必要ひつようがあるが、人間にんげんは問題もんだい文ぶんに書かかれたことだけでなく、常識じょうしきのような知識ちしきも利用りようして問題もんだいを解といている。今後こんご、人間にんげんが意味いみを理解りかいするレベルに人工じんこう知能ちのうを近ちかづけるには、人間にんげんの常識じょうしきをはじめとした教科書きょうかしょに書かかれていない知識ちしきをどのように習得しゅうとくし、習得しゅうとくした知識ちしきを目めの前まえの問題もんだいとどのように関連かんれんづけられるかという技術ぎじゅつが必要ひつようだ。

そういう意味いみでは、今いますぐに人間にんげんと全まったく同おなじようにすべての問題もんだいに適切てきせつに解答かいとうする人工じんこう知能ちのうを作つくるのは難むずかしい。ただ、ディープラーニングの技術ぎじゅつが開発かいはつされて大おおきなブレークスルーが起おきたように、多おおくの研究けんきゅう者しゃがこの壁かべを突破とっぱしようとしており、人ひとと同おなじように言葉ことばを理解りかいする人工じんこう知能ちのうの誕生たんじょうは、着実ちゃくじつに近ちかづいていると思おもう」と話はなしています。

ソース：NHK ニュース