被害ひがいの女子じょし大学生だいがくせい 意見いけん陳述ちんじゅつ書しょの全文ぜんぶん

去年きょねん５月ごがつ、東京とうきょう・小金井こがねい市しで音楽おんがく活動かつどうをしていた女子じょし大学生だいがくせいがナイフで刺さされ、一時いちじ、意識いしき不明ふめいの重体じゅうたいになった事件じけんの裁判さいばん員いん裁判さいばんで、被害ひがい者しゃの女性じょせいが法廷ほうていでみずから意見いけん陳述ちんじゅつを行おこない、「犯人はんにんの身勝手みがってな行動こうどうで失うしなったものは数かぞえきれません。傷きずのない元もとの体からだを返かえしてください」と訴うったえました。意見いけん陳述ちんじゅつ書しょの全文ぜんぶんです。（表記ひょうきは原文げんぶんのとおりです）。

１いち　犯人はんにんからのＳＮＳへの書き込かきこみは３さん年ねん前まえの６月ろくがつに始はじまりました。犯人はんにんがライブ会場かいじょうに来きて、「結婚けっこんしてください」、「じゃあ、友達ともだちになってください」としつこく言いってきたあたりから、犯人はんにんの書き込かきこみも意識いしきするようになり、それからは、去年きょねんの５月ごがつ２に１いち日にちに事件じけんが起おこるまで、不安ふあんや恐怖きょうふが無なくなることは一いち度どもありませんでした。特とくに、生いき死しにに関にかんする書き込かきこみが１いち日にちに何なん件けんも来くるようになったことや、１月いちがつ１いち７なな日にちのライブ終了しゅうりょう後ごにしつこく付つきまとわれたことなどがきっかけで、さらに不安ふあんや恐怖きょうふを大おおきく感かんじるようになっていきました。こういった犯人はんにんの姿すがたは、ファンではなく完全かんぜんにストーカーそのものでした。

２に　５月ごがつ２に１いち日にち、犯人はんにんに待ち伏まちぶせをされ、後ごを追おいかけられて、最後さいごには殺ころされそうになりました。犯人はんにんは、私わたしに無視むしされたから刺さしたと言いっているようですが、追おいかけられている間ま、私わたしは、「急いそいでいる」、「リハーサルがある」と言いって、何なん度ども断ことわりました。しかし、犯人はんにんは、私わたしのそういった言葉ことばには全まったく耳みみをかさず、後ごをついてきました。私わたしの事情じじょうは、犯人はんにんにとって、どうでもいいという感かんじでした。

３さん　意識いしきを失うしなって、次つぎに病院びょういんで目めが覚さめたとき、すぐに何なにがあったのかは理解りかいできました。そして、それと同時どうじに、事件じけんの記憶きおくがひとつひとつ蘇よみがえってきました。刺さされたところが一気いっきに熱あつくなったこと、首くびを思おもいっきり刺さされて口くちの中なかにも血ちの味あじが広ひろがったこと、犯人はんにんが恐おそろしい形相ぎょうそうで私わたしを刺さしてきたこと、刃物はものの形かたち、床ゆかが血ちの海うみに見みえたほど自分じぶんの身体しんたいからたくさんの血ちが流ながれていたこと、そこに倒たおれたこと、犯人はんにんに対にたいして足あしで抵抗ていこうしようともがいたことを、はっきりと覚おぼえています。その恐怖きょうふは、今いまでも忘わすれることができません。事件じけんの後のちからは、今いままで感かんじていたものよりも、はるかに大おおきい不安ふあんや恐怖きょうふを感かんじています。

４よん　入院にゅういん中ちゅうは、他たの患者かんじゃさんとすれ違すれちがうことも、病室びょうしつにお医者いしゃさんや看護かんご師しさんが入はいってくることも怖こわかったです。傷きずの処置しょちのために使つかわれているハサミは、見みるたびに刺さされるかもしれないとビクビクしていました。お見舞みまいに来きてくれる人ひとに対にたいしても、私わたしを殺ころしに来きたんじゃないかと思おもい、その不安ふあんから気きが休やすまることはありませんでした。退院たいいんした後のちも、そういった気持きもちが変かわることはありません。

５ご　事件じけんの日ひから、本当ほんとうに全すべてが変かわってしまいました。家族かぞくと過すごしていた時間じかん、友人ゆうじんと他愛たあいもない話はなしをして笑わらっていた時間じかん、大学だいがくで大好だいすきな勉強べんきょうをすること、大好だいすきな音楽おんがくやお芝居しばいをすること。今いままで大切たいせつに積み重つみかさねてきたものや時間じかんの全すべてが、一瞬いっしゅんで奪うばわれてしまいました。普通ふつうに過すごしていたはずだった毎日まいにちを返かえしてほしい。犯人はんにんの身勝手みがってな行動こうどうのせいで失うしなったものは数かぞえきれません。

傷きずのない身体しんたいも失うしなったものの一ひとつです。傷きずのない、元もとの身体しんたいを返かえしてほしい。犯人はんにんは何なにひとつ傷きずついていないのに、私わたしだけが身体しんたいにも心こころにもこんなに多おおくの傷きずを負おって、これから先さきも痛いたみに耐たえて生いきていかなければならないと思おもうと、悔くやしいし、許ゆるせません。傷きずを保護ほごするテープを毎日まいにち張り替はりかえているため、毎日まいにち傷付きずつけられた身体しんたいを見みなければなりません。その度たびに、ＳＮＳで執拗しつような嫌いやがらせをされたことや事件じけんの日ひのことが思い出おもいだされてしまい、何なんでこんなことになってしまったのかと何なん度ども何なん度ども苦くるしくなります。

外出がいしゅつしたくても、事件じけんで刺さされて殺ころされそうになったときの光景こうけいを思い出おもいだしてしまい、ほとんど外出がいしゅつすることができません。

眠ねむろうとしているときも、事件じけんの日ひのことが頭あたまの中なかで何なん度どもリピートされたり、眠ねむれたとしても、犯人はんにんが夢ゆめに出でてきて、また私わたしを殺ころそうとしてくるので、すぐに目めが覚さめてしまい、ほとんど眠ねむることもできません。

６ろく　今いまでも、毎日まいにちリハビリを続つづけていますが、思おもうように身体しんたいが動うごきません。大好だいすきだった歌うたうことも、食たべることも、口くちに麻痺まひが残のこっていて苦痛くつうになっています。大好だいすきだったギターも、ほとんど弾ひくことができません。視力しりょくが低下ていかしていたり、視野しやが狭せまくなっていたり、常つねに行動こうどうに制限せいげんが出でています。そのため、少すこし歩あるいたら物ものや人ひとにぶつかりそうになります。右足みぎあしの親指おやゆびにも麻痺まひが残のこっていて、家いえの中なかでさえすぐにつまづいてしまいます。「どうして当たり前あたりまえにできていたことができないの」と悔くやしくてたまりません。

私わたしの身体しんたいをこんなにめちゃくちゃにした犯人はんにんに腹立はらだたしさを感かんじて、頭あたまがおかしくなるんじゃないかと思おもうくらい悔くやしくて、毎日まいにち気きがつけば泣ないています。

７なな　犯人はんにんや犯人はんにんの家族かぞくからも、裁判さいばんの日ひまで謝罪しゃざいの言葉ことばは一切いっさいありませんでした。裁判さいばんで、「申し訳もうしわけないとは思おもっています」という言葉ことばは口くちにしたようですが、自分じぶんの罪つみを軽かるくするために言いっているようにしか聞きこえず、全まったく心こころに響ひびきませんでした。私わたしや私わたしの家族かぞくが今日きょうまでどんなに苦くるしい気持きもちで過すごしてきたのか、わかりますか。犯人はんにんも犯人はんにんを育そだてた両親りょうしんも、犯人はんにんに関かかわるもの全すべてを許ゆるすことができません。

犯人はんにんは、私わたしの調書ちょうしょを法廷ほうていで読み上よみあげてもらっている間ま、笑わらっていたようですが、こんな事件じけんを起おこしておいて、どうして笑わらうことができるのか、理解りかいできません。全まったく反省はんせいしていないんだと思おもいました。今いま、私わたしが意見いけん陳述ちんじゅつしている間まも、きっと心こころの中なかでは笑わらっていて、反省はんせいはひとつもしていないと思おもいます。犯人はんにんはまた絶対ぜったいに同おなじことをする。また犠牲ぎせいになる人ひとが絶対ぜったいにいる。こんな人ひとを野放のばなしにしてはいけない。絶対ぜったいに許ゆるしてはいけない。一方いっぽう的てきに感情かんじょうを抱いだき、思い通おもいどおりにならなければ、人ひとを殺ころそうとする人ひとです。私わたしを恨うらんで、今度こんどこそ私わたしを殺ころしに来くるかもしれないし、私わたしの家族かぞくや友人ゆうじんにも危害きがいが加くわえられるかもしれません。

もうこの世の中よのなかに出でてきて欲ほしくない。今いますぐに消きえて欲ほしいです。それが叶かなわないならば、一生いっしょう刑務所けいむしょにいて欲ほしい。そうでないと、安心あんしんして生活せいかつできません。

８はち　いろいろな方ほうに助たすけていただいた命いのちなので、しっかりと生いきていかなければいけないと思おもっています。しかし、生いきていてよかったと思おもう気持きもちと、傷きずだらけの自分じぶんの姿すがたや麻痺まひの残のこった口くちを見みて苦くるしくなる気持きもちが毎日まいにち繰り返くりかえされます。

傷きずついているのは私わたしだけではありません。家族かぞくも同おなじです。事件じけん以降いこうは、もう一生いっしょう分ぶんくらい苦くるしんでいますが、その苦くるしみは今いまも続つづいています。犯人はんにんの身勝手みがってな言葉ことばや行動こうどうに、私わたしも家族かぞくも毎日まいにちのように悩なやまされてきました。裁判官さいばんかんや裁判さいばん員いんの方々かたがたには、私わたしや家族かぞくがどんな思おもいで過すごしてきたのか、私わたしが今後こんご、後遺症こういしょうを抱かかえてどんな生活せいかつをしていかなければならないのか、ということも理解りかいしてもらいたいです。

９きゅう　今いままでの判決はんけつがこうだから、前例ぜんれいがないから、という理由りゆうでは判断はんだんしないで下ください。今後こんご同おなじような事件じけんが二度にどと起おきないように、私わたしみたいに苦くるしむ人ひとがいなくなるように、この事件じけんで厳きびしい判決はんけつを出だしていただきたいです。

ソース：NHK ニュース