夏目なつめ漱石そうせきの小説しょうせつ 12作品さくひんの自筆じひつ原稿げんこうが所在しょざい不明ふめい「文化ぶんか遺産いさんが…」

文豪ぶんごう 夏目なつめ漱石そうせきが書かいた代表だいひょう的てきな小説しょうせつのうち半数はんすうにあたる12作品さくひんについて、自筆じひつ原稿げんこうの所在しょざいが確認かくにんできなくなっていることが分わかりました。調査ちょうさを行おこなった専門せんもん家かは、自筆じひつ原稿げんこうは作品さくひんの成立せいりつ過程かていをたどる貴重きちょうな資料しりょうだとして「かけがえのないものであり、大切たいせつに受け継うけついでいくことが必要ひつようだ」と指摘してきしています。

この調査ちょうさは夏目なつめ漱石そうせきの研究けんきゅうを続つづけている早稲田わせだ大学だいがくの中島なかじま国彦くにひこ名誉めいよ教授きょうじゅが行おこないました。

漱石そうせきの自筆じひつ原稿げんこうが今いまどこに保管ほかんされているか調しらべたところ、代表だいひょう的てきな24の小説しょうせつのうち半数はんすうにあたる12作品さくひんで確認かくにんできなくなっていることが分わかりました。

このうち「坊ぼっちゃん」は、漱石そうせきの作家さっか活動かつどうを支援しえんした俳人はいじんの高浜たかはま虚子きょしを介かいして関係かんけい者しゃが原稿げんこうを譲り受ゆずりうけ、複製ふくせいも作成さくせいされましたが、その後そのご、所有しょゆう者しゃが変かわるなどして所在しょざいが分わからなくなっていました。

「草枕くさまくら」は30年ねんほど前まえに写真しゃしんで撮影さつえいされていますが、その後そのご、所在しょざいが分わかっていないということです。

一方いっぽう、「吾輩わがはいは猫ねこである」と「文鳥ぶんちょう」はそれぞれ文学ぶんがく館かんなどに自筆じひつ原稿げんこうが残のこされていますが、抜け落ぬけおちている箇所かしょが多おおく、一部いちぶにとどまっています。

書き込かきこみや修正しゅうせいの跡あとなどが残のこされている自筆じひつ原稿げんこうは作品さくひんの成立せいりつ過程かていをたどる貴重きちょうな資料しりょうで、中島なかじま名誉めいよ教授きょうじゅは「かけがえのない文化ぶんか遺産いさんであり、共通きょうつうの財産ざいさんとして大切たいせつに受け継うけついでいくことが必要ひつようではないか」と話はなしています。

自筆じひつ原稿げんこうには「作家さっかの息遣いきづかい」

中島なかじま名誉めいよ教授きょうじゅは自筆じひつ原稿げんこうの重要じゅうよう性せいについて、最近さいきんは活字かつじ化かされたテキストではなく自筆じひつ原稿げんこうを観察かんさつすることで作品さくひんの成立せいりつ過程かていや魅力みりょくを探さぐる研究けんきゅうも増ふえつつあると指摘してきし、「自筆じひつ原稿げんこうを見みることによって作家さっかの息遣いきづかいを感かんじ、創作そうさくの現場げんばに立ち会たちあう感動かんどうが引き起ひきおこされる」と話はなしています。

例たとえば漱石そうせきの晩年ばんねんの作品さくひん「道草みちくさ」の原稿げんこうからは、一度いちどつけた小見出こみだしを消けしていることや、文章ぶんしょうを何なん度どか書き直かきなおしていることなどが分わかります。

さらに、多おおくの語句ごくにふりがなをつけていることなどから、読者どくしゃに作品さくひんを理解りかいしてもらおうと心こころを尽つくした漱石そうせきの真面目まじめな性格せいかくをうかがい知しることができると言いいます。

自筆じひつ原稿げんこうは新聞しんぶんや雑誌ざっしに掲載けいさいされたあとは使つかいみちがなくなり、新聞しんぶん社しゃや出版しゅっぱん社しゃに放置ほうちされていたり関係かんけい者しゃが自宅じたくに持ち帰もちかえったりして、その後そのご、次第しだいに散逸さんいつするケースが多おおいということです。

芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけや森もり鴎外おうがいは半数はんすう以上いじょうの作品さくひんで自筆じひつ原稿げんこうの所在しょざいが分わからなくなっているとみられるということです。

ネットオークションで落札らくさつ者しゃわからず

自筆じひつ原稿げんこうは古書こしょ店てんなどで取り引とりひきされることがあるほか、インターネットオークションにも出回でまわるようになり、所在しょざいが分わかるきっかけが増ふえた一方いっぽうで、誰だれが落札らくさつしたか分わからないというジレンマも生しょうじています。

およそ40年ねんにわたって近代きんだい文学ぶんがく作家さっかの資料しりょうの収集しゅうしゅうにあたっている秀しげる明大めいだい学がくの川島かわしま幸希こうき学長がくちょうは、各地かくちの古書こしょ店てんや専門せんもん家かとの交流こうりゅうを通をつうじて情報じょうほうを集あつめ、これまでに漱石そうせきの「琴きんのそら音おと」や芥川あくたがわ龍之介りゅうのすけの「鼻はな」など、所在しょざいが分わからなくなっていた自筆じひつ原稿げんこうを手てに入いれてきました。

近年きんねんはネットオークションに自筆じひつ資料しりょうが出回でまわるようになり、新あらたな出品しゅっぴんがないかチェックが欠かかせないと言いいます。

去年きょねん12月つきには、漱石そうせきが職場しょくばの同僚どうりょうに宛あてて書かいた書簡しょかんが出品しゅっぴんされているのを見みつけ、すぐに入札にゅうさつして購入こうにゅうできたということです。

一方いっぽう、ネットオークションでは古書こしょ店てんなどを通とおさず出品しゅっぴん者しゃと落札らくさつ者しゃが直接ちょくせつ連絡れんらくを取り合とりあうため、ほかの人ひとが所在しょざいを追跡ついせきすることはできません。

川島かわしま学長がくちょうは「古本屋ふるほんやを通とおさずに自分じぶんでクリックして入札にゅうさつする手軽てがるで便利べんりな時代じだいになったが、誰だれが入札にゅうさつして誰だれが落札らくさつしたか分わからず、ますます原稿げんこうが行方ゆくえ不明ふめいになる時代じだいになっている」と指摘してきします。

そのうえで「公共こうきょう機関きかんが作家さっかごとに分担ぶんたんしてどの原稿げんこうがどこにあるのか状況じょうきょうを一元いちげん化かする形かたちが望のぞましく、原稿げんこうや書簡しょかんの情報じょうほうをまとめる組織そしきができれば状況じょうきょうは改善かいぜんするはずだ」と話はなしていました。

劣化れっかは止とめられない

自筆じひつ原稿げんこうの発見はっけんが急いそがれる理由りゆうの１ひとつに資料しりょうの劣化れっかの問題もんだいがあります。

仙台せんだい市しにある東北とうほく大学だいがく附属ふぞく図書館としょかんは「漱石そうせき文庫ぶんこ」と呼よばれる資料しりょうを所蔵しょぞうし、原稿げんこうやノート、メモなど漱石そうせきの自筆じひつ資料しりょうはおよそ900点てんに上のぼります。

しかし、漱石そうせきが亡なくなってから100年ねん以上いじょうが経過けいかして資料しりょうの劣化れっかが進すすみ、インクの酸化さんかによる紙かみの腐食ふしょくで原稿げんこう用紙ようしに穴あなが開ひらいたり、紙かみが色いろあせて文字もじが読よみづらくなったりしています。

図書館としょかんなどによりますと、当時とうじは和紙わしに代かわって大量たいりょうに生産せいさんできる洋紙ようしが使つかわれていましたが、和紙わしに比くらべて品質ひんしつや素材そざいが悪わるく、劣化れっかも進すすみやすいということです。

そこで図書館としょかんは、資料しりょうを取り出とりだす機会きかいを最小さいしょう限げんにとどめることで劣化れっかを遅おくらせるとともに、インターネット上じょうで誰だれでも見みられるようにしようと、すべての自筆じひつ資料しりょうをデジタル化かすることにしました。

クラウドファンディングでおよそ460万まん円えんを集あつめ、来月らいげつから撮影さつえいを始はじめて年内ねんないにはデジタル化かの作業さぎょうを完了かんりょうし、公開こうかいを目指めざすということです。

東北とうほく大学だいがく附属ふぞく図書館としょかんの三角みすみ太郎たろう情報じょうほうサービス課長かちょうは「管理かんりをきっちりして書庫しょこに入いれていても、劣化れっかはストップできない。原はら資料しりょうを触さわる機会きかいはなるべく減へらして、きちんとしたデジタル画像がぞうを届とどけ、実際じっさいの資料しりょうへの負荷ふかをできるだけ減へらしたい」と話はなしています。

ソース：NHK ニュース