すべての授業インターネットで受講可能 “ZEN大学” 開設へ
2024-10-29 08:05:00

設置が認められたのは、IT大手のドワンゴと公益財団法人の日本財団が計画を進めていた通信制大学、「ZEN大学(仮称)」です。
文部科学省の「大学設置・学校法人審議会」で29日、設置を認める答申が出され、来年4月に開設されることになりました。
計画によりますと、学部は「知能情報社会学部」の1つで、「情報」や「デジタル産業」など6つの分野について事前に収録された授業などをすべてインターネットで受講できるとしています。
また、1学年の入学定員は3500人で、通信制の大学としては放送大学の1万5000人に次ぐ異例の規模となっています。
ドワンゴは、これまでに沖縄県などに通信制の高校を開校しているほか、中学生向けの教育機関で通信制の学校運営に携わっています。
一方で29日の答申では付帯事項として通信制の大学としては定員規模が大きいことなどから、安定的に学生の確保ができない場合、影響が特に大きいとして戦略的な募集活動を行うことや学生への適切なサポート体制の整備、それに財務計画や定員について実態に応じて適切に見直すよう求めています。
大学 “住む地域や収入の格差なく 教育を提供”
設置を認める答申が出されたことについて、ZEN大学(仮称)は、時間や場所の制約のないオンラインの強みを生かして、住む地域や収入などで格差が生じない教育を提供していきたいとしていて「指摘いただいた内容は真摯(しんし)に受け止め、来年の開設に向けてよりよい体制作りに努めていきたい。これまで大学への進学の機会がなかった人にも選んでもらえるような大学を目指したい」としています。
通信制大学に通う学生 コロナ禍をきっかけに増加
文部科学省によりますと、通信制の大学の数は去年は、全国に45か所あり、平成22年の調査時点の44か所からほぼ変わっていません。
一方で、通信制に通う学生の数は減少傾向が続いていましたがコロナ禍を機に増加に転じ、去年(2023年)はおよそ18万5000人で、3年前の2020年から2万人余り増えています。
大学などに通う18歳人口が減少 私立大学の経営は
少子化の影響で大学などに進学する18歳人口が減少する中、私立大学の経営は厳しい状況にさらされています。
文部科学省によりますと、18歳人口は、1992年は205万人でしたが、去年は110万人とほぼ半減しています。
また、文部科学省の外郭団体「日本私立学校振興・共済事業団」が私立大学や短大を対象に行った今年度の調査では、全国598の大学のうちおよそ6割の354校が学生数が定員に達しない、定員割れとなっています。
【専門家QA】メリットや課題は
18歳人口が減るなか、異例の大規模な通信制の大学の開設。いまなぜ、開設なのか。学ぶ側にとってのメリットや課題はどこにあるのか。オンライン教育に詳しい熊本大学の鈴木克明名誉教授に聞きました。
Q.今回の通信制大学の開設 どうみる?
(熊本大学 鈴木克明名誉教授)
「通信制の大学そのものは昔からある制度で、主に生涯学習的な働きながら学ぶとか、働いたあとで学ぶ人たち含めて幅広い年齢層をターゲットにやってきたと思います。今回のZEN大学(仮称)を開設するドワンゴは、通信制の「N高校」なども運営しています。そこからの進学者を主な対象者として開設を目指している点もあるので、これまでと違うと思います。いろいろな大学があって、選択の幅が広がるのは大変意義深いし、新しいタイプの大学が開設され、それが選択肢のひとつになるというのはいいことだと思います」
Q.通信制大学のニーズは高い?
「18歳人口が減り、高校の数も減っていますが、通信制の高校は増えています。これは、高校時代から『通信制』という学びの形態を選んでいる人たちが増えているということなので、大学レベルにおいても通信制の大学へのニーズにつながってきているのではないかと思います。少なくともコロナを経て、通学制の大学でも「大学に行かなくても結構できるじゃないか」という経験を得ました。いわゆるネットをはじめとしたICTの活用、遠隔地における学習というものがある程度、市民権を得たような気がします。こうしたことから、通信制の学校にはある意味で『追い風』ともいえる状況です。従来の通学制のあり方だけでは満足できなくなっていて、その期待値はすごく上がったような感じを受けています」
Q.大規模な通信制の課題は?
「自立的な学生なら工夫しなくてもどんどん勉強をしてくれますが、そうではない学生をいかに継続して学んでもらえるか考える必要がると思います。通学制だと毎日のように大学に来るので、学生たちにそういう促しができますが、学校や教室に来ないオンラインだと、指導上の適切な設計が求められます。それと、入学した学生1人1人に対して、どのように卒業に向けて進めていく体制を構築できるかです。そのための教員やスタッフなどのサポート体制に十分な人員が確保されているのかや仕組みがしっかりできているのかが課題となります。もちろん魅力的な授業内容を用意しないといけないですし、優秀な講師陣とかも重要ですが、今までの「N高校」などで培ってきた通信制のノウハウをしっかり整えて実行していくことが求められると思います。経営面で考えると、どのくらい入学生を確保するか、入学試験がとのくらい厳格にできるのか、なども求められます」
Q.ほかの大学へのインパクトは
「地方の通学制の大学にとっては相当の脅威になる可能性があると思います。通信制の大学だと、どこに住んでいても入学できるので、地方に住む人にとっては選択肢が増える一方で、地方の大学としては「われわれの優位性は何なのか」と再考する契機になるのではないかと思います」