米大統領選 “民主党の地盤”でハリス氏支持固め切れず なぜ?
2024-11-02 10:10:30

7つの激戦州に注目が集まりますが、このうち伝統的に民主党の地盤とされる3つの州でハリス氏が支持を固め切れていません。背景に何があるのでしょうか。
民主党の地盤「ブルー・ウォール=青い壁」に異変
全体の勝敗を左右するとされる7つの激戦州のうち、東部のペンシルベニア州、中西部のミシガン州、ウィスコンシン州の3つの州は「ブルー・ウォール=青い壁」と呼ばれ、伝統的に民主党の地盤とされてきました。
ハリス氏にとってはこの3州で1つでも落とすと、勝利のシナリオが狭まりますが、ペンシルベニア州でトランプ氏にリードを許すなど支持を固め切れていません。
背景には何があるのか。
取材を進めると「人種」の壁が少なからぬ影響を与えていることが見えてきました。
ハリス氏が支持を伸ばし切れていない要因の1つが、黒人有権者からの支持の弱さです。
有力紙、ニューヨーク・タイムズとシエナ大学がことし9月末から先月はじめにかけて全米を対象に行った世論調査によりますと、黒人有権者の間の支持率はハリス氏が78%、トランプ氏は15%でした。
ハリス氏の支持率は4年前の大統領選挙のときのバイデン氏より12ポイント低く、逆にトランプ氏は6ポイント支持を伸ばしたと見られています。
男性に限ってみると、ハリス氏の支持率は70%まで落ち込み、反対にトランプ氏は20%まで伸ばしています。
ウィスコンシン州は「ラストベルト=さびた帯」と呼ばれるかつて重工業が栄えた地域の西のはじに位置します。
2016年の大統領選挙では、事前の世論調査でトランプ氏をリードしていた民主党のヒラリー・クリントン氏がこの州を落とし、トランプ氏の当選を決定づけることとなったことでも知られます。
州全体の人口はおよそ590万で、黒人の割合はおよそ7%です。
このうち、最大都市ミルウォーキーは、人口の40%近くにあたる22万人が黒人です。
過去2回の大統領選挙がおよそ2万票差で決着したことを見れば、黒人有権者の動向が勝敗を左右する可能性があります。
【1】ハリス氏に投票を決める
最大都市ミルウォーキーの黒人が多く住む地域で理髪店を営むロレンゾ・デービスさん(38)。
バイデン大統領では健康に不安があるとして投票する気持ちになれませんでしたが、ハリス氏が民主党の候補者になって以降、ハリス氏に投票することに決めました。
ロレンゾ・デービスさん
「トランプ氏は大企業のために減税する。私のような零細事業者のためではない」
一方で、一日中、ひっきりなしに訪れる客との対話を通じ、ロレンゾさんは黒人の男性有権者の間でハリス氏への支持が広がっていないと感じています。
ロレンゾ・デービスさん
「支持の割れ方は50対50、いや、60対40でハリス氏という感じでしょうか。問題は男性の一部がハリス氏が女性だというだけの理由で投票したくないと考えていることです。軍が弱くなると思っているのです」
黒人男性のあいだに、女性の指導者を望まない傾向があるのではないか。
このようなハリス陣営の危機感の表れだと波紋を呼んだのが、ハリス氏を応援するオバマ元大統領の発言です。
オバマ氏は先月ペンシルベニア州にある選挙事務所を訪問した際、ボランティアの黒人男性らを強い言葉で激励したのです。
オバマ氏
「あなた方は自分を侮辱した過去を持つ人物に対して傍観するか、支持しようとしている。それは強さの証しだと考えているからだ。それが男らしさなのか?女性を見下すことが?それは受け入れがたいことだ」
ハリス氏自身も、先月29日、ミシガン州デトロイトにある黒人向けラジオ局の番組に出演し男性有権者に支持を訴えました。
ハリス氏
「私は当初から、黒人男性はほかの有権者と何の違いもないと言ってきた。私はちょうどフィラデルフィアにある理髪店を訪ねたところだが、黒人男性たちは私を支持するだけでなく、私の考え方を支持してくれた」
さらに、ハリス氏は先月14日、急きょ、黒人男性に特化した新たな経済対策を発表。
黒人起業家などを対象にした100万件の小口融資や、黒人男性が連邦政府の仕事に就きやすくするため学歴の条件を緩和することなどを公約に追加しました。
【2】ハリス氏に投票決めるも消極的支持
ハリス氏への投票を決めたものの、消極的な支持にとどまる人もいます。
健康食品を販売する店を経営するカマル・カーターさん(49)。
過去2回の選挙は意中の候補者が見当たらず投票に行きませんでした。
しかし今回は、ハリス氏に投票することにしました。
理由はトランプ氏の当選を阻止するためだといいます。
カマル・カーターさん
「私はこの国にまん延している憎しみが嫌なんだ。トランプ氏がそれを助長しているように感じる。ハリス氏を支持するのは、この人種的な風潮がこれ以上悪化して欲しくないからだ。ハリス氏はトランプ氏よりはよいし、有能だと思う」
「熱狂の度合いという点ではさほど高くない。私の場合は10のうちの6か7くらい。ただ、黒人の女性の熱狂度はずっと高い。理由は明白で、ハリス氏は黒人女性だからだ」
【3】トランプ氏に投票を真剣に考える
かつては民主党を支持しながら、今回は、トランプ氏への投票を真剣に考える黒人の有権者もいます。
ミルウォーキーにある不動産会社に勤めるデミエン・トンプソンさん(47)です。
トンプソンさんは過去の大統領選挙でオバマ氏に2回とも、投票しましたが、直近2回の選挙では民主・共和どちらの政党の候補者にも魅力を感じられず、第3の候補者に投票しました。
今回は、インフレ対策など、今のバイデン政権の経済政策がうまく機能しているとは思えないため、ハリス氏の公約にも説得力が感じられないと言います。
デミエン・トンプソンさん
「私がハリス氏に投票することは100%ない。今回はトランプ氏に傾いている。主に経済政策が理由だ」
「ハリス氏が約束したことを実行できるとは思えない。現在、バイデン・ハリス政権がやっていることを見れば、ハリス氏が言っていることはつじつまが合わない。正直言って、トランプ氏が大統領として成し遂げたことに私は驚かされた。彼は実際にやろうとしていた。彼が私のような人間にとってよいのは、手のひらを返さないことだ。私は言ったことを着実に実行する人物を尊敬する。トランプ氏は不動産業にたけた、ビジネスマンであり、私とも重なり合う部分が多い」
専門家「黒人男性があまりハリス氏の支えとなっていない」
ミルウォーキーにあるマーケット大学の教授で、世論調査の権威として知られるチャールズ・フランクリン氏はNHKのインタビューに対し、黒人有権者の動向について「ウィスコンシン州全体では、黒人のハリス氏の支持率は82%、トランプ氏は18%だが、これはトランプ氏にとって並外れて高い数字だと言える。理由の1つは黒人男性があまりハリス氏の支えとなっていないことがある」と指摘しました。
そして黒人男性のハリス氏への支持が広がっていない理由については「バイデン大統領の働きぶりに対する支持率がかなり低く、人々が、自分をとりまく経済状況が4年前より悪化していると感じていることがある。さらに、トランプ氏が明確に男性、それもマイノリティーの男性に対してみずからをアピールしているというジェンダーの要素もある」と分析しました。
そのうえでフランクリン氏は、黒人有権者の動向がウィスコンシン州での勝敗に与える影響について「小さなグループだが、通常の選挙では民主党への支持率が非常に高いことを考える必要がある。結果に重要な影響を与えうると思う」と述べ、僅差の戦いとなった場合、結果を左右する可能性があると指摘しました。
【11月1日の動き】
ハリス氏「アメリカに新しい世代のリーダーが必要な時」
ハリス副大統領は1日、中西部ウィスコンシン州のミルウォーキー近郊の会場で選挙集会を開きました。
ハリス氏は、演説で「われわれを分断し、互いに恐れさせようとしてきたトランプ氏の10年からページをめくるチャンスが私たちにはあるのだ。もううんざりだ」と述べトランプ氏が国民の間に分断をもたらしてきたと改めて批判しました。
そして「アメリカに新しい世代のリーダーが必要な時だ。私は次期大統領として、そのリーダーシップを担う準備ができている」と述べ、支持を訴えました。
トランプ氏「何千もの工場をウィスコンシン州に呼び戻す」
トランプ前大統領は1日、激戦州の1つ、中西部ウィスコンシン州、最大の都市ミルウォーキーで集会を開きました。
演説の中でトランプ氏は民主党のハリス副大統領について「支離滅裂なことを言っている」と批判したうえで「私が選挙に勝ったら、あなたたちのために全身全霊で戦う」と訴えました。
そして「減税を行い、賃金を引き上げ、何千もの工場をウィスコンシン州に呼び戻す。11月5日は、我が国の歴史において最も重要な日となるだろう。私たちはともにアメリカを再び、偉大にする」と述べ、自身への投票を呼びかけました。