通常国会の閉会を受けて、岸田総理大臣は21日夜記者会見し、デジタル化を通じた行財政改革を優先課題に位置づける方針を明らかにしました。
一方で、マイナンバーカードが大きな役割を果たすとして、相次ぐ問題による国民の不安を払しょくし、信頼回復に全力を挙げていく考えを強調しました。
この中で、岸田総理大臣は「ことし前半は経済の好循環に踏み出せるかの正念場だとの強い思いを持って、さまざまな働きかけを行ってきた」と述べ、30年ぶりの高い水準の賃上げや100兆円を超える国内投資など日本経済に前向きな動きが生まれていると成果を強調しました。
そのうえで「『デフレ経済からの脱却』『賃上げが当たり前となる経済』に向けた道筋を着実なものとするため、今後もあらゆる施策を総動員していく」と強調しました。
また、今後の具体的な対応について「国民や事業者から見て、便利で使いやすい、効率的な行政に組み直すための改革が不可欠となっている」と述べ、デジタル技術を活用して行政の制度や組織を見直す「令和版デジタル行財政改革」を優先課題に位置づける方針を明らかにしました。
そして「取り組みを進める上で大きな役割を担うのは、デジタル社会のパスポートであるマイナンバー、マイナンバーカードだ」と指摘しました。
一方で、マイナンバーカードをめぐる問題が相次いでいることに触れ、事態を重く受け止め、政府内に省庁横断の本部を設け、総点検と再発防止を強力に推進していくと説明しました。
そして「デジタル社会への移行のためには、国民の信頼回復が不可欠だ。1日も早く国民の信頼を取り戻せるよう、政府をあげて取り組んでいく」と強調しました。
このほか、国内の投資のさらなる拡大に向け、日本が強みを持つとされる水素エネルギー活用の基盤を整える考えを示すとともに「水素と化石燃料との価格差に着目した支援制度などについて法制度を早急に整備する」と明らかにしました。
さらに、年末に向けて、半導体やバイオ、それにAIなどの分野で、予算や税制、規制の面での支援策をパッケージでとりまとめる意向も示しました。
また、高齢化対策にも力を入れる必要があるとして、認知症への対応を新たな国家プロジェクトに位置づけ、政策を推進すると明らかにしました。
一方、外交・安全保障では来月、リトアニアで開催されるNATO=北大西洋条約機構の首脳会議へ出席し、その後ベルギーを訪問してEUとの首脳会談を行うほか、さらに中東のサウジアラビア、UAE、カタールの3か国を歴訪すると明らかにしました。
最後に岸田総理大臣は、ことしの夏は、政権発足の原点に立ち返り、できるかぎり全国を回って国民の声を聞くことに注力するとしたうえで「『信なくば立たず』ということばを胸に、ことし下半期の政権運営にも全力であたっていく」と述べました。
解散や党役員人事など “内閣の基本姿勢に照らし判断”
また、衆議院の解散や自民党の役員人事・内閣改造への考え方を問われ「先送りできない困難な課題に一つ一つ答えを出していく、岸田内閣の基本姿勢に照らして判断をしていくことに尽きる」と述べました。
来秋の保険証廃止 “不安払拭の措置完了が大前提”
そして「来年秋の保険証廃止に対する国民の不安を重く受け止めており、全面的な廃止は国民の不安を払拭するための措置が完了することを大前提として取り組む」と述べました。
そのうえで「来年秋までに、データの総点検と修正作業、窓口負担の取り扱いなどの措置を完了させる。新型コロナ対応で明らかになった、諸外国に比べて遅れているわが国のデジタル化を推進し、質の高い医療を実現するとともに、効率的で持続可能な医療を実現していくためには、現行の保険証を廃止し、ICチップ付きの新たな保険証に移行する必要がある」と述べました。
憲法改正 “任期中の改正を目指す”
憲法改正については「私は自民党総裁選挙で『目の前の任期で憲法改正をすべく努力する』という思いを申し上げたと考えている」と述べ、来年9月までの自民党総裁としての任期中の改正を目指す考えを改めて示しました。
党役員人事や内閣改造 “全く考えていない”
自民党の役員人事や内閣改造について「まだ人事や時期について、具体的なものは全く考えていない。まずは、先送りできないさまざまな政策課題を前に進め結果を出していくことに専念する。そしてこれらの進み具合を見ながら、結果を出すためには、どういった人事を考えるべきなのかを考えていく。これが順番だと思っている」と述べました。
補正予算案 “しっかり見極め判断”
補正予算案の必要性については「今は補正予算について具体的に考えているものではない。昨年来講じてきた、さまざまな物価対策などの経済対策の効果や、国際的なエネルギー市場などの状況をしっかり見極めたうえで、さらなる経済対策、すなわち補正予算が必要なのかを判断していく」と述べました。
ロシアとの関係 “国益の観点も考えも 対応はきぜんと”
岸田総理大臣は「ウクライナの和平などの条件やタイミングは侵略を受けているウクライナの人々の意思を抜きに決めるべきではない。まずは一刻も早くロシアの侵略を止めることが重要だが、ウクライナの人々の意向に沿った形で和平を考えていく姿勢は重要だ。G7=主要7か国の議長国としてG7の議論をリードしていきたい」と述べました。
そのうえで、ロシアとの関係について「引き続きウクライナ侵略に対し、きぜんと対応していくことが重要だが、同時に漁業などの経済活動といった隣国であるがために対処する必要がある事項には、何が国益に資するかという観点も考えつつ、適切に対応していかなければならない。北方領土問題に関しては、領土問題を解決して平和条約を締結する方針は堅持していきたい」と述べました。
日中関係の安定 “建設的かつ安定的な関係構築を”
また「日中両国の関係の安定は国際社会にとって極めて重要な課題だ。わが国として主張すべきことは主張し、中国に対し責任ある行動を求めつつも、対話はしっかりと重ねて共通の課題には協力していく『建設的かつ安定的』な関係の構築を双方の努力で進めていくことが基本的な方針だ」と述べました。
その上でみずからの中国訪問については「現在何も決まったものはないが私自身も含め、あらゆるレベルで緊密に意思疎通を図っていくことは重要であり、その中で私の訪中も考えていきたい」と述べました。
拉致問題 “全力で果断に取り組む”
そして「拉致被害者の家族も高齢となる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人権問題だと認識している。引き続き、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現するべく全力で果断に取り組んでいく」と述べました。
その上で「日朝間の懸案を解決し、両者がともに新しい時代を切りひらいていくという観点からの私の決意を、あらゆる機会を逃さず、キム・ジョンウン※総書記に伝え続けるとともに、首脳会談を早期に実現すべく、私直轄のハイレベルでの協議を行っていきたい」と述べました。
そして、「相手のある話でもあり、こうした基本方針に基づいて取り組んでいきたい。きょう申し上げるのは以上だ」と述べました。
国会終盤の “衆議院の解散 見極め”言及は
国会終盤の今月13日に、衆議院の解散については情勢を見極めると言及したことについて「会期末に一部の野党に内閣不信任案提出の動きがあり、内閣が重要法案としていた防衛費増額に向けた財源確保法案の成立が不透明な状態となっていた。そうした動きを背景として国会の情勢をよく見極めたいと申し上げた」と述べました。
そのうえで「15日には財源確保法案の成立のめどが立ったと判断し、一貫して申し上げてきた内閣の基本姿勢に沿い『この国会での解散は考えていない。不信任案が提出されたら即刻否決するように』と茂木幹事長に指示をした」と述べました。