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革新かくしんてき研究けんきゅう成果せいかがコロナワクチン開発かいはつ女性じょせい科学かがくしゃおも

2021-05-27 09:50:35

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新型しんがたコロナウイルスの発症はっしょう重症じゅうしょうふせ切り札きりふだ」と期待きたいされるワクチンの1つ「mRNAワクチン」にかせない技術ぎじゅつ開発かいはつしたことでられ、世界せかいてき注目ちゅうもくされる科学かがくしゃ、カタリン・カリコ博士はかせがNHKの単独たんどくインタビューおうじ「ワクチンを導入どうにゅうしたくにでは効果こうか確認かくにんされている。希望きぼうってしい」と日本にっぽんわたしたちにけてメッセージべました。

苦難くなん連続れんぞく

ハンガリー出身しゅっしん科学かがくしゃ、カタリン・カリコ博士はかせは、大学だいがく卒業そつぎょうアメリカわたり、遺伝いでん物質ぶっしつの1つ「mRNA」の研究けんきゅうおこないました。
しかし研究けんきゅう成果せいかなかなか評価ひょうかされず、助成じょせいきん申請しんせい企業きぎょうことわられたり、所属しょぞくしていた大学だいがく役職やくしょく降格こうかくになったりするなど、40ねんにわたる研究けんきゅう生活せいかつ苦難くなん連続れんぞくでした。

2005ねんには、当時とうじ同僚どうりょうだったドリュー・ワイスマン教授きょうじゅと、今回こんかいのワクチンの開発かいはつにつながる革新かくしんてき研究けんきゅう成果せいか発表はっぴょうしましたが、これ注目ちゅうもくあつめることはなく、その後そのご大学だいがく研究けんきゅうしつりる費用ひようまかなえなくなり、2013ねんにドイツの企業きぎょうビオンテックにうつりました。
遺伝いでん物質ぶっしつ「mRNA」は、体内たいないれるとすぐに分解ぶんかいされるほか炎症えんしょう反応はんのう引き起ひきおこしてしまうため、長年ながねんくすりなどの材料ざいりょうとして使つかのはむずかしいかんがえられていました。
しかし、カリコ博士はかせらはmRNAを構成こうせいする物質ぶっしつの1つ「ウリジン」を「シュードウリジン」に置き換おきかえる炎症えんしょう反応はんのうおさえられることを発見はっけん
この技術ぎじゅつもちいて去年きょねん新型しんがたコロナウイルスのワクチンが開発かいはつされました。

現在げんざい日本にっぽん接種せっしゅはじまっているファイザーとビオンテックが開発かいはつしたワクチンとモデルナのワクチンは2つともこの技術ぎじゅつ使つかっていて、欧米おうべい研究けんきゅうしゃなどからは、実用じつようかぎにぎこの研究けんきゅう成果せいかはノーベルしょうあたいするというこえもあがっています。

本当ほんとうのヒーローは医療いりょう従事じゅうじしゃなど

カリコ博士はかせ今回こんかい、NHKの単独たんどくインタビューおうじ「物事ものごと期待きたいどおすすまないときでも周囲しゅういこえ振り回ふりまわされず、自分じぶんできることに集中しゅうちゅうしてきた。わたしを『ヒーローだ』というひともいるが、本当ほんとうのヒーローはわたしではなく、医療いりょう従事じゅうじしゃ清掃せいそう作業さぎょうにあたるひとたちなど感染かんせんそれある最前線さいぜんせんはたらひとたちだ」とべました。

そのうえで、日本にっぽんわたしたちにけて「接種せっしゅすすんだくにでは普通ふつう生活せいかつもどりつつあるところもあり、ワクチンの効果こうか確認かくにんされている。もうしばらく注意深ちゅういぶかごさなければならないが、希望きぼうってしい」とべました。

「mRNAワクチン」とは

ファイザーとビオンテックが開発かいはつしたワクチンとモデルナのワクチンは、ともに「mRNAワクチン」とばれています。

新型しんがたコロナウイルスの表面ひょうめんには「スパイクたんぱく質たんぱくしつ」とばれる突起とっきがあり、ウイルスはここあしがかりとして細胞さいぼう感染かんせんします。
遺伝いでん物質ぶっしつのmRNAは、この突起とっき部分ぶぶんのいわば「設計せっけい」にあたり、ワクチンを接種せっしゅすると、これをもとに、細胞さいぼうなかでウイルスの突起とっき部分ぶぶんだけが体内たいないつくられます。

そしてこの突起とっきによって免疫めんえき仕組しくはたらき、ウイルスを攻撃こうげきする「抗体こうたいなど体内たいないつくられるため、あらかじめワクチンを接種せっしゅしておくと発症はっしょう重症じゅうしょうふせ効果こうかあるとされています。

mRNAをワクチンにもちいるアイデア以前いぜんからありましたが、体内たいないれる異物いぶつとして認識にんしきされて炎症えんしょう反応はんのうきることなどから、研究けんきゅうしゃでは実現じつげんむずかしいかんがえられていました。
こうしたなか、カリコ博士はかせ当時とうじおなペンシルベニア大学だいがくにいたドリュー・ワイスマン教授きょうじゅとの共同きょうどう研究けんきゅうで、細胞さいぼうなかにある「tRNA」とばれるべつのRNAは炎症えんしょう反応はんのうこさないことに注目ちゅうもく
mRNAを構成こうせいする物質ぶっしつの1つ「ウリジン」を、tRNAでは一般いっぱんてきな「シュードウリジン」に置き換おきかえる炎症えんしょう反応はんのうおさえられるとする論文ろんぶんを2005ねん発表はっぴょうしました。

さらに2008ねんには、特定とくていのシュードウリジンに置き換おきかえることで、目的もくてきとするたんぱく質たんぱくしつつくられる効率こうりつ劇的げきてきがることもあきらかにしました。

カリコ博士はかせらは、基礎きそ医学いがく発展はってん寄与きよした功績こうせきみとめられ、ノーベルしょう受賞じゅしょうしゃおお受賞じゅしょうしているアメリカ医学いがくしょう、ローゼンスティールしょう去年きょねん受賞じゅしょうしました。
このしょう選考せんこう委員いいんかい議長ぎちょうつとめるジェームズ・ヘイバーは「カリコ博士はかせらの研究けんきゅうはmRNAワクチンの開発かいはつにとって、もっと重要じゅうようなものだった。ウイルスとのたたか根本こんぽんからえる驚異きょういてき成果せいかで、今後こんごこの技術ぎじゅつ使つかっておおのワクチンが迅速じんそく作り出つくりだされるだろう」と評価ひょうかしています。

苦節くせつ40ねん 母国ぼこくはなれて

ハンガリーまれのカリコ博士はかせ首都しゅとブダペストからひがしおよそ150キロはなれた地方ちほう都市としそだちました。おや精肉せいにくてんいとなんでいました。
大学だいがく生化学せいかがく博士はかせごう取得しゅとくしたあと、地元じもと研究けんきゅう機関きかん研究けんきゅういんとしてはたらきましたが、研究けんきゅう資金しきん打ち切うちきられたことから1985ねんおっとむすめの3にんでアメリカにわたりました。
当時とうじハンガリーは社会しゃかい主義しゅぎ体制たいせいで、外国がいこく通貨つうか自由じゆう持ち出もちだことができなかったため、出国しゅっこくさい、カリコ博士はかせは2さいむすめっていたクマのぬいぐるみのなかぜん財産ざいさんの900ポンドをしのばせてアメリカ持ち込もちこんだということです。
アメリカでは、ペンシルベニアしゅうのテンプル大学だいがくやペンシルベニア大学だいがく研究けんきゅういんじょきょうとしてはたらき、mRNAなど研究けんきゅう没頭ぼっとう
しかし研究けんきゅう成果せいかなかなか評価ひょうかされず、助成じょせいきん申請しんせい企業きぎょうからことわられたり、所属しょぞくしていた大学だいがく役職やくしょく降格こうかくになったりするなど苦難くなん連続れんぞくだったといいます。

そうしたなか、ペンシルベニア大学だいがくなかでコピー使つかさい言葉ことばわしたことがきっかけでHIVのワクチン開発かいはつ研究けんきゅうをしていたドリュー・ワイスマン教授きょうじゅ知り合しりあい、2005ねん今回こんかいのワクチン開発かいはつみちをひらく研究けんきゅう成果せいか共同きょうどう発表はっぴょうしました。
しかしこの論文ろんぶん当時とうじ注目ちゅうもくされず、2010ねんには関連かんれんする特許とっきょ大学だいがく企業きぎょう売却ばいきゃくしてしまいました。
おお研究けんきゅうしゃがその可能かのうせい気付きづかないなか、ドイツの企業きぎょうビオンテックはこの研究けんきゅう成果せいか注目ちゅうもく企業きぎょうまねかれたカリコ博士はかせは2013ねんふく社長しゃちょう就任しゅうにんおととしからは上級じょうきゅうふく社長しゃちょうつとめています。

去年きょねん3つき、ビオンテックは以前いぜんから共同きょうどう研究けんきゅうしていたアメリカ製薬せいやく大手おおてファイザーとmRNAをもちいた新型しんがたコロナウイルスワクチンの開発かいはつ開始かいしすると発表はっぴょう臨床りんしょう試験しけんで95%というたか有効ゆうこうせい確認かくにんしたとして世界せかいおどろかせたあと、共同きょうどう開発かいはつ発表はっぴょうからわずか9か月かげつ去年きょねん12つき一般いっぱんひとへのワクチンの接種せっしゅ開始かいし。カリコ博士はかせらの功績こうせき世界せかいみとめられることになりました。

「パンデミック収束しゅうそくへの希望きぼうあたえた」

アメリカ政府せいふ首席しゅせき医療いりょう顧問こもんをつとめるアンソニー・ファウチ博士はかせは、ことし2つき「1ねんたずに2種類しゅるいのワクチンができた。この2つはともにmRNAワクチンで、90%以上いじょうたか有効ゆうこうせいしめしている。そしていずれもカリコ博士はかせらが2005ねん発表はっぴょうした研究けんきゅう成果せいか土台どだいとなっている。世界せかいにパンデミック収束しゅうそくへの希望きぼうあたえ、ワクチンのさらなる可能かのうせいひらいた」とべ、カリコ博士はかせらの研究けんきゅう成果せいか評価ひょうかしました。

またイギリスの新聞しんぶん、ガーディアンは「カリコ博士はかせ新型しんがたコロナワクチンの技術ぎじゅつのパイオニアだ。研究けんきゅうしゃとしての環境かんきょうもとめてクマのぬいぐるみにわずかなお金おかねかくしてアメリカわたった研究けんきゅうしゃが、いまではノーベルしょう有力ゆうりょく候補こうほといわれている」とほうじています。

また、フランスのニュース専門せんもんチャンネル「フランス24」は「カリコ博士はかせ研究けんきゅうしゃ中心ちゅうしんからはずれたところでなんねんごした。カリコ博士はかせと、共同きょうどう研究けんきゅうしゃのワイスマン教授きょうじゅいまではノーベル医学いがく生理学せいりがくしょう本命ほんめい候補こうほとなっている」とつたえています。
ペンシルベニア大学だいがく上級じょうきゅう研究けんきゅういん村松むらまつ浩美ひろみさんは、10ねん以上いじょうにわたってペンシルベニア大学だいがくやドイツの企業きぎょうでカリコ博士はかせとともに研究けんきゅうしてきました。

村松むらまつさんは「研究けんきゅう趣味しゅみのようなひとで、『土日どにちいえ論文ろんぶんめるなどってとにかく毎日まいにち論文ろんぶんんでいた」と研究けんきゅう没頭ぼっとうするカリコ博士はかせ様子ようす振り返ふりかえりました。
さらに「予想よそうとはちがっても実験じっけん結果けっか大事だいじにするひとだった。結果けっかのよしあしにきずられず、データ受け止うけとめて研究けんきゅうすすめた。これ本当ほんとう科学かがくだとおもった」とべました。

また彼女かのじょのような革新かくしんてき研究けんきゅうであっても助成じょせいきんがもらえないケースがあるのだから、ノーベルしょうきゅう成果せいかだったとしても、人目ひとめにつかないままえていったものがたくさんあるとおも」とべました。
ソース:NHK ニュース