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ウクライナささえる武器ぶき供与きょうよ 欧米おうべいねらは? 専門せんもん読み解よみと

2022-06-02 10:20:10

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ロシアがウクライナへの侵攻しんこう開始かいししてから3か月かげつあま当初とうしょ首都しゅとキーウはすぐにも陥落かんらくするのではないか、という見方みかたもありましたが、大方おおかた予想よそうはんするウクライナの“善戦ぜんせん”によって、長期ちょうき様相ようそうせています。

善戦ぜんせん”のおおきな要因よういん指摘してきされているのが、欧米おうべい諸国しょこくなどからの武器ぶき供与きょうよです。

「ジャベリン」、「りゅうだんほう」、そして「フェニックスゴースト」。
こうした武器ぶき名前なまえを、いちでもいたことがあるというひとは、すくなくないのではないでしょうか。

じつ供与きょうよされる武器ぶき種類しゅるいは、戦況せんきょう変化へんか対応たいおうするように、すこずつわってきました。それは、なに意味いみするのか。そして供与きょうよされた武器ぶきどのように威力いりょく発揮はっきし、ウクライナをささえているのか。専門せんもん解説かいせつまじえて読み解よみときます。

欧米おうべい支援しえんらした“戦場せんじょうきり

はなしをうかがったのは、陸上りくじょう自衛隊じえいたいトップ陸上りくじょう幕僚ばくりょうちょうつとめた岩田いわた清文きよふみさん(65)。

専門せんもん機甲きこうつまり戦車せんしゃで、北海道ほっかいどうあるだいなな師団しだん師団しだんちょう北部ほくぶ方面ほうめん総監そうかん歴任れきにんし、ロシアの戦術せんじゅつにも精通せいつうしています。

まず、戦闘せんとう長期ちょうき背景はいけいどうているのかたずねると、岩田いわたさんは、ロシアがわ、ウクライナがわ双方そうほうで、つぎのような要因よういんかんがえられると指摘してきしました。
それぞれくわしく説明せつめいすると、こういうことだといます。

<ロシア>
1、軍事ぐんじてき無理むりある指示しじでも、だれもいさめられない
2、「早期そうき政権せいけん打倒だとう」という目的もくてきと「都市とし制圧せいあつ」という手段しゅだん一致いっち兵力へいりょく不足ふそく
3、統合とうごう作戦さくせん指揮しき体制たいせい欠如けつじょ、サイバーでの苦戦くせんへいたん軽視けいし
4、軍隊ぐんたい基本きほん動作どうさ徹底てっていされず、戦術せんじゅつ戦闘せんとうめんでも失敗しっぱいつづいた

<ウクライナ>
1、欧米おうべい情報じょうほう支援しえんやサイバー作戦さくせん敵情てきじょう正確せいかく把握はあくした
2、情報じょうほうもとづき、相手あいて出方でかたわせた防衛ぼうえい作戦さくせん立案りつあんした
3、欧米おうべい情報じょうほう武器ぶき活用かつようして、効果こうかてき反撃はんげきした
4、ゼレンスキー大統領だいとうりょう士気しき鼓舞こぶし、「国土こくどまも」という大義たいぎがあった
さまざまな要素ようそ絡み合からみあってまれたという現在げんざい戦況せんきょう

なかでも情報じょうほうめんでウクライナが優位ゆういったことがおおきかったと、岩田いわたさんかんがえています。
「かつてのプロイセンの著名ちょめい戦略せんりゃく・クラウゼヴィッツは、戦場せんじょうにおける確定かくてい要素ようそつまり把握はあくできない情報じょうほうを『戦場せんじょうきり』とびました。今回こんかい、ウクライナは、かなり部分ぶぶんで『戦場せんじょうきり』をらしていたとえます。それささえたのが、アメリカをはじめとする欧米おうべい各国かっこく衛星えいせいなどによる情報じょうほう支援しえんそしてだい規模きぼなサイバー作戦さくせんです。ウクライナは、これら支援しえんによって、ロシアがわ作戦さくせん意図いと部隊ぶたい展開てんかい状況じょうきょうを、あらかじめ詳細しょうさい把握はあくすることができました。だからこそ、侵攻しんこう初期しょきにミサイル攻撃こうげきけても、防空ぼうくうシステム戦闘せんとう退避たいひさせ、航空こうくうめんでの優勢ゆうせいうしなわずにみました。また、ロシアの地上ちじょう部隊ぶたいは3方向ほうこうから進軍しんぐんしましたが、これに対にたいして適切てきせつ兵力へいりょく配分はいぶんし、阻止そしできたとおもいます。さらに、ピンポイントでロシアの指揮しきかんをねらった狙撃そげき相手あいて補給ほきゅうせん遮断しゃだんする攻撃こうげきなどよう所要しょようしょで、情報じょうほうかした非常ひじょう効果こうかてきたたかかた展開てんかいできています」

供与きょうよされる武器ぶきわっている

情報じょうほうめん優位ゆういち、ロシアがわ手の内てのうち把握はあくしたうえで、的確てきかく防衛ぼうえい作戦さくせん展開てんかいしてきたというウクライナぐんその作戦さくせんささえているのが、欧米おうべい諸国しょこくなどから供与きょうよされた武器ぶきです。

じつ供与きょうよされた武器ぶき種類しゅるいと、この3か月かげつ内容ないよう変化へんかしています。こちらは、各国かっこく発表はっぴょう報道ほうどうをもとに防衛ぼうえいしょうがまとめた資料しりょうから作成さくせいした、おも武器ぶき供与きょうよ一覧いちらんです。
ひだりが、侵攻しんこう開始かいしから1か月かげつほどがたった3つき中旬ちゅうじゅん時点じてん供与きょうよされていたものです。

目立めだのは、「スティンガー」や「ジャベリン」などひと持ち運もちはこできる携行けいこうがた」の対空たいくうミサイルや対戦たいせんしゃミサイルです。

そしてみぎが、5つき中旬ちゅうじゅんまでにあら供与きょうよされた武器ぶきアメリカやドイツが供与きょうよした「りゅうだんほう」をはじめ、火砲かほう戦車せんしゃなどの「重火器じゅうかき」が、数多かずおお投入とうにゅうされていることがかります。

ここから、この2か月かげつかんたたか変化へんかことができます。

携行けいこうがたミサイルが供与きょうよされたわけ

侵攻しんこう初期しょきさか供与きょうよされた、スティンガーやジャベリン。
いずれも、自動じどう目標もくひょうかっていくちっぱなし」タイプ武器ぶきで、しゅは、発射はっしゃ、すみやかにその離脱りだつすることができます。つまり相手あいてから反撃はんげきけるリスクがちいさいのです。なかでも、ジャベリンは侵攻しんこう初期しょきたたかに、まさにてきした武器ぶきでした。

当初とうしょ、ロシアは、首都しゅとキーウをはじめとする主要しゅよう都市とし地上ちじょう部隊ぶたい制圧せいあつし、ゼレンスキー政権せいけん早期そうき打倒だとうすることをねらっていたとみられています。ウクライナとしては、ロシアぐん進撃しんげき食い止くいとめ、都市とし守り抜まもりぬ必要ひつようがありました。

市街しがいは、戦車せんしゃ装甲車そうこうしゃとおことができるルートがかぎられるため、相手あいて場所ばしょ容易ようい予測よそくすることができます。また建物たてものなど遮蔽しゃへいぶつおおく、まえ、そしてったのちかくしやすいという特徴とくちょうもあります。

このため、ウクライナは、戦車せんしゃなど待ち伏まちぶせしたうえで、ジャベリンで攻撃こうげきし、またかくれるという作戦さくせん繰り返くりかえし、これきわめて効果こうかてきだったとみられているのです。

結局けっきょく、ロシアは「目標もくひょうとしていたキーウの制圧せいあつ失敗しっぱい」(3つき30にち・アメリカ国防こくぼう総省そうしょう カービー報道ほうどうかん)と評価ひょうかされる結果けっかわりました。
「ジャベリンは、発射はっしゃ後方こうほう吹き出ふきで爆風ばくふうすくないため、ビルなかからでもてます。初期しょき戦闘せんとうで、ウクライナぐんは、けた地域ちいきでは、あえて作戦さくせんひかえたとみられます。そして相手あいて市街しがい遮蔽しゃへいぶつおおポイントまで引き込ひきこみ、ジャベリンなど攻撃こうげきして、すぐげるという『ヒット&アウェイ』戦法せんぽうをとり、効果こうかてきにロシアの戦車せんしゃ装甲車そうこうしゃ撃破げきはしました。高性能こうせいのう欧米おうべい兵器へいきとウクライナの戦術せんじゅつがうまくマッチし、おおきな効果こうか発揮はっきしたとえるおもいます」

東部とうぶ戦線せんせん カギは「火力かりょく

その後そのご、ロシアぐんはキーウ周辺しゅうへんから撤退てったいし、東部とうぶ戦力せんりょくさい配置はいち東部とうぶでは、いまもはげしい攻防こうぼうつづいています。

ここ繰り広くりひろげられているのは、支配しはい地域ちいき拡大かくだい目指めざロシアぐんと、国土こくどまもろうとするウクライナぐんとのたたか。キーウなど都市とし舞台ぶたい繰り広くりひろげられたたたかとはまったことなるけた場所ばしょでの地上ちじょうせんです。

そしてさきほどたように、各国かっこく供与きょうよする武器ぶきは、戦場せんじょう変化へんか歩調ほちょうわせるように、りゅうだんほう戦車せんしゃえています。
なぜこれら兵器へいき必要ひつようなるのか。

岩田いわたさんによると、地上ちじょうせんでは、たがいにつぎのような攻撃こうげき展開てんかいするといいます。

1、ドローンや航空こうくう相手あいて部隊ぶたい展開てんかい状況じょうきょうなど偵察ていさつ
2、りゅうだんほうなどを使つかって相手あいて砲兵ほうへいなどを制圧せいあつ戦力せんりょくをそぐ
3、戦車せんしゃ部隊ぶたい歩兵ほへい部隊ぶたい相手あいて陣地じんち進撃しんげき
りゅうだんほうは、すうじゅうキロはなれた場所ばしょから、殺傷さっしょう能力のうりょくたか砲弾ほうだん=りゅうだん連射れんしゃする兵器へいきで、地上ちじょう空中くうちゅうさく裂さくれつさせることで、ひろ範囲はんいてき一気いっき制圧せいあつすることができます。

りゅうだんほうなどによる砲撃ほうげき相手あいて戦力せんりょく十分じゅうぶんらしたうえで、戦車せんしゃなどを使つかって一気いっき戦線せんせん押し上おしあげ、支配しはい地域ちいき拡大かくだいするのが、地上ちじょうせんたたか

2の局面きょくめんでは、よりとおから、よりおお火砲かほう攻撃こうげきしたほうがたたか有利ゆうりすすめられ、3になれば、戦車せんしゃかずが、勝敗しょうはい行方ゆくえおおきな影響えいきょうあたえるかんがえられています。

だからこそ、欧米おうべい各国かっこくは、りゅうだんほう戦車せんしゃをさかんに供与きょうよしてきたとみられるのです。

ロシアぐんは、完全かんぜん掌握しょうあく目指めざ東部とうぶルハンシクしゅうに、りゅうだんほう多連装たれんそうロケットほう集中しゅうちゅうてき投入とうにゅうしているとみられ、かず射程しゃていでウクライナぐんをりょうがすることで、攻勢こうせいつよめているとつたえられています。

これに対にたい、ウクライナは、より射程しゃていながアメリカせい多連装たれんそうロケットほうなど提供ていきょうを、つよもとめ、アメリカは5つき31にちちょう射程しゃていこう機動きどうロケットほうシステム「ハイマース」をあら供与きょうよすることをあきらかにしました。
これについて、岩田いわたさんつぎのようにはなしています。

「ロシアぐんは、伝統でんとうてき地上ちじょうせん得意とくいとしていますが、かれたたかかた特徴とくちょうひと言ひとことでいえば、“徹底的てっていてき破壊はかい”です。自分じぶんたちの前進ぜんしんはば相手あいて砲兵ほうへいを、空爆くうばくやミサイル、砲撃ほうげきで、とにかく徹底的てっていてきにたたく。そして最後さいご戦車せんしゃ歩兵ほへい突撃とつげきしてきます。これにあらがうためには、相手あいてをしのぐ圧倒的あっとうてき火力かりょくしかありません。だからいま、ウクライナは、『大砲たいほうをくれ』、『戦車せんしゃをくれ』と、必死ひっしこえげているわけです」

ゲーム・チェンジャー” ドローン

そしてもうひとつ、注目ちゅうもくしたいのが、無人むじん・ドローン。戦闘せんとう様相ようそう一変いっぺんさせることから、“ゲーム・チェンジャー”ともばれています。
ドローンについては、日本にっぽん防衛ぼうえいしょうがウクライナに提供ていきょうしたニュースおぼえているほうおおおもいます。

このドローンは民生みんせいひんで、被害ひがい状況じょうきょう把握はあく偵察ていさつ攻撃こうげき命中めいちゅうしたかどうかの確認かくにんなどでの使用しよう想定そうていされています。
一方いっぽうアメリカ提供ていきょうした「スイッチブレード」や「フェニックスゴースト」とばれるドローンは、これとはまったちがいます。

偵察ていさつにとどまらず、「自爆じばくがた」ののとおり、相手あいて突っ込つっこんで爆発ばくはつする攻撃こうげき兵器へいきとしても使つかえるのです。

なかでも、フェニックスゴーストは、今回こんかいのロシアによるウクライナ侵攻しんこうけ、アメリカ空軍くうぐんあら開発かいはつしたもので、りゅうだんほう射程しゃていよりさらにはなれた場所ばしょにいる相手あいて攻撃こうげきできるとされています。

ウクライナでの運用うんよう実態じったいあきらかになっていませんが、岩田いわたさんは、「長距離ちょうきょり飛行ひこうできる自爆じばくがたドローンを使つかえば、おくまった場所ばしょにいる食糧しょくりょう弾薬だんやく補給ほきゅう部隊ぶたい直接ちょくせつ攻撃こうげきできる可能かのうせいがある。真正面まっしょうめんから火力かりょくをぶつけだけでなく、より効果こうかてき戦術せんじゅつをとることが可能かのうなるだろう」と指摘してきします。

一方いっぽう、ウクライナでは、トルコが供与きょうよした無人むじん攻撃こうげきが、黒海こっかいでのロシアぐん艦艇かんていへの攻撃こうげき使つかわれていて、ウクライナはロシアぐん揚陸ようりくてい破壊はかいしたと主張しゅちょうしているほか旗艦きかん「モスクワ」の沈没ちんぼつ関与かんよしたという指摘してきています。

相次あいつ武器ぶき供与きょうよ意味いみするものは…

武器ぶき供与きょうよなど、ウクライナに軍事ぐんじ支援しえんおこなったくに地域ちいきは、EUやアメリカ、イギリスなどすくなくとも35にのぼっています。
そこには、たんウクライナを支援しえんするということにとどまらない、戦略せんりゃくてき意図いとえると、岩田いわたさん指摘してきします。
アメリカのオースティン国防こくぼう長官ちょうかんは、4つきにウクライナを訪問ほうもんしたさい、『ロシアが弱体じゃくたいすることをのぞんでいる』と発言はつげんしました。欧米おうべい各国かっこくは、『ウクライナが抵抗ていこうつづければつづけるほど、軍事ぐんじてき脅威きょういあるロシアの国力こくりょくよわらせることができる』とかんがえているのでしょう。ウクライナでの戦闘せんとうて、ロシアの国力こくりょくどう変化へんかするかということは、ロシア、中国ちゅうごく北朝鮮きたちょうせんの3つを念頭ねんとういて安全あんぜん保障ほしょうかんがえる必要ひつようある日本にっぽんにとっても、けっしてひと事ひとごとではないのです」
一方いっぽう、ロシアのプーチン大統領だいとうりょうは5つき28にち欧米おうべい諸国しょこく武器ぶき供与きょうよについて、「事態じたいのさらなる不安定ふあんてい人道じんどう危機きき悪化あっかまね」と警告けいこくかく使用しようもちらつかせながら、けん制けんせい繰り返くりかえしています。

相次あいつ武器ぶき供与きょうよは、いったいなにをもたらすのか。日本にっぽんわたしたちも、関心かんしんつづけていく必要ひつようがあります。
ソース:NHK ニュース