核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやく 国連こくれん交渉こうしょう会議かいぎで採択さいたく

核兵器かくへいきの開発かいはつや保有ほゆう、使用しようなどを法的ほうてきに禁止きんしする初はじめての国際こくさい条約じょうやくが、ニューヨークの国連こくれん本部ほんぶで開ひらかれていた交渉こうしょう会議かいぎで賛成さんせい多数たすうで採択さいたくされました。条約じょうやくには１いち０ぜろ０ぜろを超こえる国くにが参加さんかする見通みとおしですが、アメリカやロシアなどの核兵器かくへいきの保有ほゆう国こくや核かくの傘かさに守まもられた日本にっぽんなどは参加さんかしない見通みとおしで、世界せかいの核かく軍縮ぐんしゅくにどのような影響えいきょうを及およぼすのか注目ちゅうもくされます。

核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやくは、核兵器かくへいきの開発かいはつや保有ほゆう、使用しようなどを禁止きんしする初はじめての国際こくさい条約じょうやくで、ことしの３月さんがつからニューヨークの国連こくれん本部ほんぶで、１いち２に０ぜろを超こえる国くにが参加さんかして制定せいていに向むけた交渉こうしょうが行おこなわれてきました。

７なな日にち、行おこなわれた採決さいけつでは、ＮＡＴＯなと-＝北大ほくだい西洋せいよう条約じょうやく機構きこうの加盟かめい国こくとして唯一ゆいいつ交渉こうしょうに参加さんかしてきたオランダ１いちか国かこくが反対はんたいしたものの、１いち２に２にの国くにと地域ちいきの圧倒的あっとうてき多数たすうの賛成さんせいで条約じょうやくは採択さいたくされました。採決さいけつに先立さきだち、交渉こうしょう会議かいぎの議長ぎちょうを務つとめるコスタリカのホワイト軍縮ぐんしゅく大使たいしは「条約じょうやくは核兵器かくへいきを禁止きんしする規範きはんになる」と述のべ、その意義いぎを強調きょうちょうしました。

採択さいたくの瞬間しゅんかん、議場ぎじょうでは各国かっこくの代表だいひょうから大おおきな拍手はくしゅと歓声かんせいが上あがり、市民しみん社会しゃかいの代表だいひょうとして参加さんかした広島ひろしまの被爆ひばく者しゃも立ち上たちあがって拍手はくしゅを送おくっていました。

条約じょうやくはことし９月くがつから署名しょめいが始はじまり、５ご０ぜろか国かこくが批准ひじゅんの手続てつづきを終おえたのち９きゅう０ぜろ日にち後ごに発効はっこうすることになっていて、１いち０ぜろ０ぜろか国かこく以上いじょうが加盟かめいする見通みとおしです。一方いっぽうで、アメリカやロシアなどの核兵器かくへいきの保有ほゆう国こくや、核かくの傘かさに守まもられた日本にっぽんなどは「核兵器かくへいきを一方いっぽう的てきに禁止きんしすることは世界せかいの安全あんぜん保障ほしょうの現実げんじつを踏ふまえていない」として、条約じょうやくに参加さんかしない見通みとおしです。このため、核兵器かくへいきを包括ほうかつ的てきに禁止きんしする新あたらしい条約じょうやくが、今後こんごの世界せかいの核かく軍縮ぐんしゅくにどのような影響えいきょうを及およぼしていくのか、注目ちゅうもくされます。

核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやくの採択さいたくを受うけ、交渉こうしょう会議かいぎでは、議論ぎろんを主導しゅどうしてきた国くにの１ひとつ、オーストリアの代表だいひょうが「条約じょうやくは多国たこく間かんの核軍縮かくぐんしゅくをさらに進すすめるための礎いしずえを築きずいた。核兵器かくへいきは違法いほうであり廃絶はいぜつしなければならない。いまだに核兵器かくへいきに依拠いきょした安全あんぜん保障ほしょう政策せいさくをとる国々くにぐにに対にたいしては、彼かれらの安全あんぜんのためにも、そして、人類じんるいの安全あんぜんのためにも条約じょうやくへの参加さんかを呼よびかける」と述のべ、条約じょうやくの意義いぎを強調きょうちょうしました。一方いっぽうで、唯一ゆいいつの反対はんたい票ひょうを投とうじたオランダの代表だいひょうは条約じょうやくに反対はんたいした理由りゆうについて、「核兵器かくへいき保有ほゆう国こくの広ひろい支持しじが得えられていないうえ、ＮＡＴＯなと-＝北大ほくだい西洋せいよう条約じょうやく機構きこうの加盟かめい国こくとしての責任せきにんとも矛盾むじゅんが生しょうじる」と説明せつめいしました。

米べい英えい仏ふつ「条約じょうやくは現実げんじつを無視むし」

核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやくが採択さいたくされたことを受うけて、核かく保有ほゆう国こくのアメリカ、イギリス、フランスの３さんか国かこくは７なな日にち、共同きょうどうで声明せいめいを出だしました。

声明せいめいでは、「国際こくさい的てきな安全あんぜん保障ほしょうの環境かんきょうを無視むししたイニシアチブだ。条約じょうやくは北朝鮮きたちょうせんによる核かく開発かいはつの深刻しんこくな脅威きょういに対にたいしてなんの解決かいけつ策さくも示しめしていない。条約じょうやくに参加さんかする考かんがえは全まったくなく、われわれの核兵器かくへいきに関にかんする法的ほうてき義務ぎむにはなんら変化へんかはない」として、核かく保有ほゆう国こくが参加さんかしないまま条約じょうやくが採択さいたくされたことを厳きびしく批判ひはんし、今後こんごも賛同さんどうする考かんがえがない意思いしを明確めいかくに示しめしました。

専門せんもん家か「極きわめて画期的かっきてき」

核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやくが国連こくれんで採択さいたくされたことについて、国際こくさい政治せいじが専門せんもんの明治めいじ学院がくいん大学だいがくの高原たかはら孝生たかお教授きょうじゅは「非ひ人道じんどう的てきである核兵器かくへいきを明確めいかくに禁止きんしする条約じょうやくはなく、今回こんかいの条約じょうやくは極きわめて画期的かっきてきだ。世界せかいは今いま、北朝鮮きたちょうせんの対外たいがい的てきな対応たいおうを含ふくめて極きわめて危険きけんな状態じょうたいにある。今いまこそ核兵器かくへいきを禁止きんしする国際こくさい社会しゃかいの規範きはんを作つくらなければならないという各国かっこくの意識いしきが、採択さいたくにつながったのではないか」と評価ひょうかしました。

一方いっぽうで、今回こんかいの条約じょうやくの交渉こうしょうに、日本にっぽんや核かく保有ほゆう国こくが不ふ参加さんかだったことについては、「核かく保有ほゆう国こくにどう働はたらきかけていくか、課題かだいは残のこった。しかし、核かく保有ほゆう国こくの中なかでも核兵器かくへいきは禁止きんしすべきだという世論せろんはあり、今回こんかい、それを支持しじする国際こくさい社会しゃかいの規範きはんができたことで核かく保有ほゆう国こくの中なかで核兵器かくへいき廃絶はいぜつの機運きうんが高たかまることも期待きたいできる」と指摘してきしています。

また、条文じょうぶんの前文ぜんぶんで被爆ひばく者しゃにもたらされた受け入うけいれがたい苦くるしみと被害ひがいに留意りゅういすると明記めいきされたことについては、「今回こんかいの条約じょうやくに被爆ひばく者しゃが果はたした役割やくわりは大おおきい。被爆ひばく者しゃが長年ながねん、核兵器かくへいき廃絶はいぜつを訴うったえてきたことへの共感きょうかんと、核兵器かくへいきの被害ひがいがどのようなものなのか私わたしたち人類じんるいは学まなぶ必要ひつようがあるという気持きもちの表あらわれであり、評価ひょうかできる」と話はなしています。

条約じょうやくの詳くわしい内容ないよう

核兵器かくへいきの禁止きんしに関にかんする条約じょうやくは、前文ぜんぶんで、「核兵器かくへいきは壊滅かいめつ的てきな人道じんどう上じょうの結末けつまつを招まねくとして完全かんぜんに除去じょきょされることが必要ひつようで、それが再ふたたび使用しようされないことを保証ほしょうする唯一ゆいいつの方法ほうほうである」としたうえで、核兵器かくへいきの使用しようは国際こくさい人道じんどう法ほうに違反いはんし、人道じんどうの原則げんそくと公共こうきょうの良心りょうしんに反はんするとして、核兵器かくへいきは非ひ人道じんどう的てきで違法いほうなものだと明示めいじしています。

そして、第だい１いち条じょうで、加盟かめい国こくに核兵器かくへいきの開発かいはつや保有ほゆう、実験じっけん、使用しようのみならず、核兵器かくへいきを使用しようすると威嚇いかくする行為こういも禁止きんしするとしています。「威嚇いかく」をめぐっては、核かく抑止よくし力りょくも禁止きんしすることから、核兵器かくへいきの保有ほゆう国こくだけでなく、核かくの傘かさに守まもられた安全あんぜん保障ほしょう政策せいさくをとる国々くにぐににも影響えいきょうを及およぼすため、多おおくの議論ぎろんを呼よびましたが、最終さいしゅう的てきに盛り込もりこまれることになりました。

また、第だい４よん条じょうの「核兵器かくへいきの全面ぜんめん的てき除去じょきょに向むけた措置そち」では、核かく保有ほゆう国こくの参加さんかも促うながすため、核兵器かくへいきを放棄ほうきしてから条約じょうやくに参加さんかする方法ほうほうや、核兵器かくへいきを保有ほゆうしている段階だんかいで条約じょうやくに加入かにゅうし、その後そのご、期限きげんを設もうけて核兵器かくへいきを廃棄はいきする方法ほうほうも記しるされています。

さらに、条約じょうやくの発効はっこうから１いち年ねん以内いないとそのあと２に年ねんごとに開ひらかれる締約ていやく国こく会議かいぎや、５ご年ねんごとに開ひらかれる再さい検討けんとう会議かいぎには、条約じょうやくに参加さんかしていない国くにもオブザーバーとして参加さんかできると定さだめています。

また、条約じょうやくは核兵器かくへいきを全面ぜんめん的てきかつ明確めいかくに禁止きんしする一方いっぽうで、１いち８はち条じょうの「その他そのたの協定きょうていとの関係かんけい」の中なかで、「既存きそんの国際こくさい条約じょうやくとの関係かんけいで加盟かめい国こくが負おう義務ぎむに影響えいきょうを及およぼさない」として、従来じゅうらいのＮＰＴえぬぴ-てぃ-＝核かく拡散かくさん防止ぼうし条約じょうやくが加盟かめい国こくに課かす義務ぎむと相反そうはんすることなく、補完ほかんする役割やくわりを果はたすとしています。これについては、ＮＡＴＯなと-＝北大ほくだい西洋せいよう条約じょうやく機構きこうの加盟かめい国こくの中なかで唯一ゆいいつ交渉こうしょうに参加さんかしたオランダがあくまでもＮＰＴえぬぴ-てぃ-を優先ゆうせんすべきだと主張しゅちょうしましたが、多おおくの国くにが反発はんぱつし、修正しゅうせいは認みとめられませんでした。

条約じょうやくは広島ひろしまや長崎ながさきの被爆ひばく者しゃにも言及げんきゅうしていて、前文ぜんぶんに「被爆ひばく者しゃにもたらされた受け入うけいれがたい苦くるしみと被害ひがいに留意りゅういする」、「核兵器かくへいきの廃絶はいぜつに向むけた被爆ひばく者しゃの努力どりょくを認識にんしきする」と明記めいきされたほか、第だい６ろく条じょうの「被害ひがい者しゃ支援しえんと環境かんきょう回復かいふく」の中なかで、加盟かめい国こくに対にたいし核兵器かくへいきの使用しようや実験じっけんによって影響えいきょうを受うけた個人こじんに、医療いりょうやリハビリ、心理しんり面めんの支援しえんを提供ていきょうするとして、被爆ひばく者しゃへの支援しえんを求もとめています。

採択さいたくまでの経緯けいい

核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやくの制定せいていに向むけた動うごきが始はじまった背景はいけいには、核かく保有ほゆう国こくによる核かく軍縮ぐんしゅくが一向いっこうに進すすまないことに対にたいする、核兵器かくへいきを持もたない国くにの強つよいいらだちがありました。

これまで、核かく軍縮ぐんしゅくは、ＮＰＴえぬぴ-てぃ-＝核かく拡散かくさん防止ぼうし条約じょうやくの下もとで、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国ちゅうごくの５ごか国かこくを核かく保有ほゆう国こくと認みとめ、核兵器かくへいきの削減さくげんを求もとめる一方いっぽう、そのほかの国々くにぐにには核兵器かくへいきの保有ほゆうや拡散かくさんを禁止きんししてきました。しかし、１いち９きゅう７なな０ぜろ年ねんにＮＰＴえぬぴ-てぃ-が発効はっこうしてから４よん０ぜろ年ねん以上いじょうがたっても、世界せかいの核兵器かくへいきのほとんどを保有ほゆうするアメリカやロシアによる核かく軍縮ぐんしゅくは遅々ちちとして進すすまず、条約じょうやくの締約ていやく国こくとなっていないインドとパキスタンが相次あいついで核かく実験じっけんを行おこなったほか、一方いっぽう的てきに脱退だったいを宣言せんげんした北朝鮮きたちょうせんも核かく実験じっけんを繰り返くりかえすなど、核兵器かくへいきをめぐる状況じょうきょうは以前いぜんより深刻しんこくになっています。

また、宇宙うちゅう空間くうかんや大気たいき圏けん内ない、地中ちちゅうや地下ちかを含ふくむあらゆる核かく実験じっけんを禁止きんしするＣＴＢＴし-てぃ-び-てぃ-＝包括ほうかつ的てき核かく実験じっけん禁止きんし条約じょうやくも、アメリカやインド、パキスタンなど、条約じょうやく発効はっこうの要件ようけんとされている国々くにぐにで批准ひじゅんの見通みとおしが立たたず、１いち９きゅう９きゅう６ろく年ねんの採択さいたくから２に０ぜろ年ねん以上いじょうがたっても発効はっこうしていません。

このため、従来じゅうらいの枠組わくぐみでの核かく軍縮ぐんしゅくには限界げんかいがあるとして、オーストリアやメキシコなどが４よん年ねん前まえからＮＰＴえぬぴ-てぃ-とは別べつの国際こくさい会議かいぎを開ひらき、核兵器かくへいきの非ひ人道じんどう性せいを根拠こんきょに法的ほうてきに禁止きんしすべきだという議論ぎろんをリードしてきました。

おととし春はるのＮＰＴえぬぴ-てぃ-再さい検討けんとう会議かいぎでは、核兵器かくへいきの法的ほうてきな禁止きんしを求もとめる国々くにぐにと、段階だんかい的てきな核軍縮かくぐんしゅくを主張しゅちょうする核かく保有ほゆう国こくが鋭するどく対立たいりつし、世界せかいの核軍縮かくぐんしゅくの方向ほうこう性せいを決きめる合意ごうい文書ぶんしょを採択さいたくできないまま、会議かいぎは閉幕へいまくしました。

その後そのご、オーストリアやメキシコなど５ご０ぜろ以上いじょうの国くにが共同きょうどうで、核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやくの交渉こうしょうの開始かいしを求もとめる決議けつぎ案あんを国連こくれん総会そうかいに提出ていしゅつし、去年きょねん１２月じゅうにがつ、１いち１いち３さんか国かこくの賛成さんせい多数たすうで決議けつぎは採択さいたくされました。決議けつぎにはアメリカやロシアなどの核兵器かくへいきの保有ほゆう国こくに加くわえ、日本にっぽんも「核かく軍縮ぐんしゅくは核かく保有ほゆう国こくとともに段階だんかい的てきに進すすめるべきだ」として反対はんたいに回まわりました。

日本にっぽんは唯一ゆいいつの戦争せんそう被爆ひばく国こくとして核兵器かくへいき廃絶はいぜつを掲かかげながら、アメリカの核かくの傘かさに守まもられる安全あんぜん保障ほしょう上じょうの政策せいさくから、核兵器かくへいきを直ただちに禁止きんしすることには慎重しんちょうな立場たちばを取とってきましたが、このとき「棄権きけん」ではなくアメリカなどとともに「反対はんたい」に回まわったことは、驚おどろきをもって受け止うけとめられ、内外ないがいの批判ひはんを受うけました。

条約じょうやくの制定せいていに向むけた議論ぎろんを主導しゅどうしてきたメキシコの代表だいひょうはＮＨＫえぬえいちけいの取材しゅざいに対にたいし、「日本にっぽんは原爆げんばくの惨禍さんかに苦くるしんだ唯一ゆいいつの国くにであり、だからこそ日本にっぽんと一緒いっしょに核兵器かくへいきの禁止きんしに取り組とりくみたい」と述のべ、日本にっぽんが唯一ゆいいつの戦争せんそう被爆ひばく国こくとしての役割やくわりを果はたすことに期待きたいを示しめしていました。

このあと、ことし３月さんがつに始はじまった禁止きんし条約じょうやくの制定せいていに向むけた交渉こうしょう会議かいぎは、核兵器かくへいきの非ひ保有ほゆう国こくが中心ちゅうしんとなって進すすめられ、すべての核かく保有ほゆう国こくに加くわえ、アメリカの核かく抑止よくし力りょくに依存いぞんする日本にっぽんやＮＡＴＯなと-＝北大ほくだい西洋せいよう条約じょうやく機構きこうの大半たいはんの加盟かめい国こくは参加さんかしてきませんでした。

条約じょうやくは７なな日にち、会議かいぎに出席しゅっせきしている国くにの圧倒的あっとうてき多数たすうの賛成さんせいで採択さいたくされ、９月くがつから署名しょめいが始はじまり、５ご０ぜろか国かこくが批准ひじゅんの手続てつづきを終おえたのち、９きゅう０ぜろ日にち後ごに発効はっこうします。条約じょうやくに賛同さんどうする国々くにぐには、核兵器かくへいきが国際こくさい法ほうに違反いはんするという国際こくさい世論せろんの流ながれをつくり、いわば「核兵器かくへいきに汚名おめいを着きせる」ことで（ｓｔｉｇｍａｔｉｓｅ）核兵器かくへいきの保有ほゆう国こくに対にたいし、「持もちにくい」「使つかいにくい」環境かんきょうを作つくっていきたい考かんがえです。

ソース：NHK ニュース