大量の傘が捨てられる…
6月下旬、JR天王寺駅の忘れ物センターを訪れると、大量の傘が保管されていました。その数、一か月分だけでおよそ800本。
忘れ物として届けられる傘はJR西日本管内だと年間10~15万本にのぼります。受け取りに来る人は少なく、8割近くが廃棄されているそうです。
JR担当者
「忘れ物の中には、ほぼ新品の傘も多々ありますので、もったいないという感覚です」
人はメリットで動く
このSDGsの時代に、人はなぜ傘を忘れてしまうのでしょうか?
行動分析学者のもとを訪ねました。
西軽井沢学園理事長 奥田健次さん
「行動の直後にメリットが大きいか小さいか、あるいはデメリットがあるかないかと考えると分かりやすいんですよね」
奥田さんが指摘するのが“メリットの法則”です。
雨が降っているときに傘をさすのは、ぬれないメリットがあるからです。
人はメリットがあると行動しやすくなるといいます。
一方で、雨がやむと傘のメリットがなくなります。
そのため、傘を持つという行動をしにくくなります。
奥田健次さん
「雨が降って自分の荷物や体がぬれるのはいやだと。傘はそれを防ぐメリットがあるうちは忘れる人はいない。一方で、傘を持ち帰る行動はかなりメリットが小さい」
つまり傘を忘れずに持ち帰るためには、相当、傘に意識を集中させる必要がありそうです。
傘を忘れないためにはどうすれば?
傘を忘れないように意識を高めるにはどうすればいいのでしょうか?
奥田さんは傘に対し何かしらのコスト、つまり一手間かけることで忘れにくくなるといいます。
対策その1 暗号と指さし
例えばこちら。「酒場っすか」
「サ」→財布 「カバ」→カバン 「ス」→スマホ 「カ」→傘
忘れたくない文字の頭文字を作って自分の暗号を作ります。
家を出る前や電車を降りる前に、指さし確認をして忘れ物がないか確認するのが大切です。
ただ「カ」は「傘」だということを忘れないようにする必要はあります。
対策その2 ストラップ
また、傘にストラップを付けて体から離れないようにするのも対策の一つだといいます。物理的に忘れないようにするというのです。
ただ、傘を忘れないためにこの対策をずっと続けていけるかと言われると、
なかなか簡単ではありません。
奥田健次さん
「ビニール傘のためにそこまでするかと言われると、なかなかそんなやつおらんやろと。ほとんどの傘は置き忘れているのではなく、使い捨てられている状態だと思います」
使い捨てしないビニール傘へ
雨がやむと、持ち歩くメリットがない。置き忘れているのではなく、使い捨てられている。
さんざんな言われようのビニール傘ですが、実は今、ビニール傘を大事に使ってもらおうという動きが広がっています。
大阪市の傘メーカーは、ビニールにキラキラ光る素材を使用。骨組みもしなりが強く、丈夫なものにしました。「1万本売れたらヒット」とされる業界で、発売から2年で25万本売れました。
メーカー各社は今、デザイン性を高めたビニール傘に力を入れていて、値段は1000円から3000円ほど。「使い捨てというイメージの払拭(ふっしょく)」を目指しています。
傘メーカー ワールドパーティー 中村友香さん
「傘=なくなってもいい、どこかに置いてきてもいいという考え方になりがちなアイテムではあるんですけど、それはやはり残念だなと。環境問題やSDGsなどの考え方が広まっていますので、傘メーカーとしての思いというのは引き続き発信していきたい」
そもそも傘を“持たない”選択も
それでも傘を忘れてしまうかもしれない。
そんな人のために、自分の傘を持たないサービスもあります。
駅などで導入されている「傘のシェアリングサービス」です。
1回70円で借りられて、使い終わったら近くのスポットに返却します。
各地で導入が進んでいて、関西大学のキャンパス内には10か所に設置。
22歳以下の学生は1年間無料で利用できます。
学生に話を聞いてみると…
「持ってきたのに置き忘れちゃって、新しいの買ってまたそれを忘れちゃって、むだづかいの繰り返しになるんやったらこれを使った方がいいのかな」
「借りてる傘という認識があったら返そうって思う」
傘の返却率はなんと99.5%!
傘をなくした場合は手数料として864円を支払う必要があります。
傘を返すことでお金を払わなくてもいいというメリットがあるため、忘れないのかもしれません。
去年6月の導入以来、3000回以上利用されました。
大学では今後もスポットを増やすことを検討しています。
忘れ物の再利用にID番号管理 進む対策
忘れた傘を再利用する動きも広がっています。
大阪の飲料メーカーは、自動販売機の側面に傘立てを設置し、無料で傘を貸し出しています。回収率は7割ほどと、有料のシェアサービスよりは返すのを忘れてしまう人がいるようです。
また、自分の傘を忘れても連絡してもらえるように、傘にID番号と連絡先を書いて登録するサービスをしている傘店もあります。
店はどの番号の傘がどの顧客のものか把握しているので、どこかに置き忘れても、連絡が入れば持ち主の元に返るという仕組みです。
これからも傘を忘れずに、大事に使っていきたいですね。
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