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南海トラフ巨大地震「事前避難」 期限内の防災計画策定は半数
2020-03-29 09:33:56

南海トラフで巨大地震が起きて次の地震に警戒を呼びかける臨時情報が出た場合、あらかじめ住民の「事前避難」が必要になる自治体があります。国は今月末までに防災計画を作るよう求めていますが、期限に間に合わない自治体がおよそ半数に上ることがNHKのアンケート調査で分かりました。

国が去年3月に示したガイドラインでは、南海トラフでマグニチュード8以上の巨大地震が起き、さらなる巨大地震の発生に警戒を呼びかける臨時情報が発表された場合、一部の住民は事前に1週間避難するとし、自治体に対して今月末をめどに防災計画を作るよう求めています。
NHKは先月、「津波避難対策特別強化地域」に指定されている関東から九州にかけての139自治体に計画の策定状況などを訪ねるアンケートを行い、93.5%に当たる130自治体から回答を得ました。
その結果、今月末の期限までに計画策定が間に合わないと答えた自治体は、全体のおよそ半数の64に上りました。
時間がかっている項目や理由について、「事前避難対象地域の設定」が19%、「避難が必要な人の把握」と「避難所の確保」がそれぞれ8%、「住民の理解を得る」が6%で、「その他」と答えた残る6割の自治体の中では、「都や県の計画や方針の決定を待っている」や「職員が不足している」といった回答が目立ちました。
一方、すでに計画作りを終えたか今月末までに終える予定と答えた66の自治体に計画に盛り込んだ内容を複数回答で尋ねたところ、「避難所の運営体制」が41%、「事前避難に使う避難所」は29%、「避難所の受け入れ人数」は14%、「避難所への移動方法や経路」は11%にとどまっていて、計画は作ったものの、今後、さらなる内容の充実が必要なことをうかがわせる結果となりました。
南海トラフ巨大地震の防災対応に詳しい名古屋大学の福和伸夫教授は、「臨時情報が出ても確実に地震が起きるわけではなく、警戒しつつ社会は維持しなければならない。新型コロナウイルスで社会が直面している課題が、南海トラフ地震臨時情報が発表された時にも起きる。正解のない問題に対して第一段階の議論が始まった段階だ。今後、国や自治体、住民や企業でよりよい計画にしていくことが継続的に求められる」と指摘しています。
NHKは先月、「津波避難対策特別強化地域」に指定されている関東から九州にかけての139自治体に計画の策定状況などを訪ねるアンケートを行い、93.5%に当たる130自治体から回答を得ました。
その結果、今月末の期限までに計画策定が間に合わないと答えた自治体は、全体のおよそ半数の64に上りました。
時間がかっている項目や理由について、「事前避難対象地域の設定」が19%、「避難が必要な人の把握」と「避難所の確保」がそれぞれ8%、「住民の理解を得る」が6%で、「その他」と答えた残る6割の自治体の中では、「都や県の計画や方針の決定を待っている」や「職員が不足している」といった回答が目立ちました。
一方、すでに計画作りを終えたか今月末までに終える予定と答えた66の自治体に計画に盛り込んだ内容を複数回答で尋ねたところ、「避難所の運営体制」が41%、「事前避難に使う避難所」は29%、「避難所の受け入れ人数」は14%、「避難所への移動方法や経路」は11%にとどまっていて、計画は作ったものの、今後、さらなる内容の充実が必要なことをうかがわせる結果となりました。
南海トラフ巨大地震の防災対応に詳しい名古屋大学の福和伸夫教授は、「臨時情報が出ても確実に地震が起きるわけではなく、警戒しつつ社会は維持しなければならない。新型コロナウイルスで社会が直面している課題が、南海トラフ地震臨時情報が発表された時にも起きる。正解のない問題に対して第一段階の議論が始まった段階だ。今後、国や自治体、住民や企業でよりよい計画にしていくことが継続的に求められる」と指摘しています。
アンケートの詳報

アンケートは、先月実施し、臨時情報が発表されて、「事前避難」が必要になった場合の防災計画の作成状況や課題を聞きました。対象は、「津波避難対策特別強化地域」に指定されている関東から九州にかけての139自治体で、93.5%の130自治体から回答を得ました。以下、アンケートの内容を詳しく見ていきます。
【半数「間に合わない」】
国は、今月末をめどに、防災計画を作るよう求めていますが、アンケートでは、およそ半数の64自治体が、「間に合わない」と回答しました。
【半数「間に合わない」】
国は、今月末をめどに、防災計画を作るよう求めていますが、アンケートでは、およそ半数の64自治体が、「間に合わない」と回答しました。

時間がかかっている理由をたずねると、「事前避難の対象地域の設定」が19%で最も多く、次いで「避難が必要な人の把握」と「避難所の確保」がそれぞれ8%、「住民の理解を得る」が6%となりました。
また、「その他」と回答した残る6割の自治体からは、「都や県の計画や方針の決定を待っている」とか「職員が不足している」といった回答が目立ちました。
【「避難所」記載は3割のみ】
すでに計画を作り終えたか今月末までに作り終える予定と答えた66自治体には、計画に盛り込んだ内容を複数回答でたずねました。
その結果、「避難所の運営体制」は41%「事前避難に使う避難所」は29%「避難所の受け入れ人数」は14%「避難所への移動方法や経路」は11%にとどまっていて、今後、内容の充実が必要なことをうかがわせる内容となりました。
【「住民への周知」に課題】
すべての自治体に、防災計画を実行性のあるもにするために何が必要か、複数回答でたずねたところ、「住民への周知・理解の促進」が92%で最も多く、次いで「要支援者の把握と避難手段の確保」が65%「企業や学校などの対応との整合性」が64%「定期的な訓練の実施」が62%などとなりました。
自治体からは、「住民への制度周知が肝」、「住民の理解が図られないと行動に移すのは厳しい」などの声が寄せられた一方で、現状については「意識が醸成できているとは考えられない」などと課題を指摘する声が多く、今後、一層の周知が課題です。
【学校・企業との歩調を】
学校や企業、公共交通機関との関係についても、「学校や企業が普通に活動している中で、自治体が避難を呼びかけても避難の重みが全く伝わらない」などと、学校や企業の対応とどう歩調を合わせるかを課題として挙げる自治体も多くありました。
【避難所運営どうする】
すべての自治体に実際に事前避難を行う際に不安なことは何か、複数回答でたずねたところ、「長期間の避難所運営の人員確保」が88%で最も多く、次いで、「避難所運営などにかかる財政的な負担が大きくなる」が64%、「想定より多くの人が避難することによる避難所不足」が62%、「観光客などへの対応・周知をめぐる混乱」が60%などとなりました。
避難所の運営について、国のガイドラインでは、避難者自身が行うことを基本とするとしていますが、自治体からは、職員が不足する中で、避難者に任せたとしても「日中は働きに出る人も多く、避難している要配慮者等のサポートを誰が行うのか」といった不安の声が寄せられました。
また、観光地を抱える自治体からは「帰宅困難者・自主避難者などで避難者が多数になった場合の対応」に不安を感じる声が上がったほか、「デマに惑わされず住民が行動をとれるよう適切な情報伝達ができるか不安がある」といった声も上がりました。
このほか、「避難しない人への対応をどうするのか」、「1週間経過したあと避難者を自宅に帰してよいのか」、「事前避難した地域の治安をどう確保するのか」など実際に避難した場合の対応の課題をあげる自治体もありました。
【財政支援あり周知必要】
アンケート調査では、避難所の開設や運営について、国に財政的な支援を求める声が非常に多く寄せられました。ただ、内閣府によりますと、事前避難によって避難生活を余儀なくされた場合には、「災害救助法」が適用され、避難所の開設や運営にかかる費用は、財政的な支援の対象になるということです。
専門家は、市町村に十分に情報が伝わっていない可能性があるとして、丁寧な説明が必要だと指摘しています。
また、「その他」と回答した残る6割の自治体からは、「都や県の計画や方針の決定を待っている」とか「職員が不足している」といった回答が目立ちました。
【「避難所」記載は3割のみ】
すでに計画を作り終えたか今月末までに作り終える予定と答えた66自治体には、計画に盛り込んだ内容を複数回答でたずねました。
その結果、「避難所の運営体制」は41%「事前避難に使う避難所」は29%「避難所の受け入れ人数」は14%「避難所への移動方法や経路」は11%にとどまっていて、今後、内容の充実が必要なことをうかがわせる内容となりました。
【「住民への周知」に課題】
すべての自治体に、防災計画を実行性のあるもにするために何が必要か、複数回答でたずねたところ、「住民への周知・理解の促進」が92%で最も多く、次いで「要支援者の把握と避難手段の確保」が65%「企業や学校などの対応との整合性」が64%「定期的な訓練の実施」が62%などとなりました。
自治体からは、「住民への制度周知が肝」、「住民の理解が図られないと行動に移すのは厳しい」などの声が寄せられた一方で、現状については「意識が醸成できているとは考えられない」などと課題を指摘する声が多く、今後、一層の周知が課題です。
【学校・企業との歩調を】
学校や企業、公共交通機関との関係についても、「学校や企業が普通に活動している中で、自治体が避難を呼びかけても避難の重みが全く伝わらない」などと、学校や企業の対応とどう歩調を合わせるかを課題として挙げる自治体も多くありました。
【避難所運営どうする】
すべての自治体に実際に事前避難を行う際に不安なことは何か、複数回答でたずねたところ、「長期間の避難所運営の人員確保」が88%で最も多く、次いで、「避難所運営などにかかる財政的な負担が大きくなる」が64%、「想定より多くの人が避難することによる避難所不足」が62%、「観光客などへの対応・周知をめぐる混乱」が60%などとなりました。
避難所の運営について、国のガイドラインでは、避難者自身が行うことを基本とするとしていますが、自治体からは、職員が不足する中で、避難者に任せたとしても「日中は働きに出る人も多く、避難している要配慮者等のサポートを誰が行うのか」といった不安の声が寄せられました。
また、観光地を抱える自治体からは「帰宅困難者・自主避難者などで避難者が多数になった場合の対応」に不安を感じる声が上がったほか、「デマに惑わされず住民が行動をとれるよう適切な情報伝達ができるか不安がある」といった声も上がりました。
このほか、「避難しない人への対応をどうするのか」、「1週間経過したあと避難者を自宅に帰してよいのか」、「事前避難した地域の治安をどう確保するのか」など実際に避難した場合の対応の課題をあげる自治体もありました。
【財政支援あり周知必要】
アンケート調査では、避難所の開設や運営について、国に財政的な支援を求める声が非常に多く寄せられました。ただ、内閣府によりますと、事前避難によって避難生活を余儀なくされた場合には、「災害救助法」が適用され、避難所の開設や運営にかかる費用は、財政的な支援の対象になるということです。
専門家は、市町村に十分に情報が伝わっていない可能性があるとして、丁寧な説明が必要だと指摘しています。
海岸線が長い町 計画策定に苦心
計画策定に苦心していて「期限に間に合わない」と回答した自治体の一つが三重県の南伊勢町です。
複雑に入り組んだ海岸線は三重県内の自治体で最も長いおよそ250キロにおよび、巨大地震の発生から最短8分で津波が到達すると想定されています。
計画づくりに時間がかかっている理由の1つが、事前避難対象地域の絞り込みです。町の防災担当の職員2人で沿岸33の地区すべてについて選定作業に当たってきました。国のガイドラインをそのまま適用すると、町役場がある場所や避難可能な地域を含む地区全体が事前避難対象となってしまうケースもあり、個別の事情に応じた絞り込みに時間がかかっています。
もう一つの大きな課題が避難所の確保です。船越地区では津波に襲われた場合の避難所として高台の中学校を指定しています。体育館や教室など施設のすべてを使えばおよそ2200人を収容できますが、津波被害が出ていない「事前避難」の段階で学校を休校にするかどうか、町と教育委員会との間で調整が終わっていません。
南伊勢町立南勢中学校の後藤武彦校長は「授業を平行してできればいいのですが、難しければ休校もやむをえないかもしれません。新型コロナウイルス対策で休校になりましたが、この経験は今後、事前避難の際の教訓になると思います」と話していました。
南伊勢町の防災担当、濱地智視さんは「作業は膨大ですが、町としてはより地域の実情に応じた設定をしたい。避難所として使う学校を休校するかなども関係者と相談しながら決めていきたい」と話していました。
複雑に入り組んだ海岸線は三重県内の自治体で最も長いおよそ250キロにおよび、巨大地震の発生から最短8分で津波が到達すると想定されています。
計画づくりに時間がかかっている理由の1つが、事前避難対象地域の絞り込みです。町の防災担当の職員2人で沿岸33の地区すべてについて選定作業に当たってきました。国のガイドラインをそのまま適用すると、町役場がある場所や避難可能な地域を含む地区全体が事前避難対象となってしまうケースもあり、個別の事情に応じた絞り込みに時間がかかっています。
もう一つの大きな課題が避難所の確保です。船越地区では津波に襲われた場合の避難所として高台の中学校を指定しています。体育館や教室など施設のすべてを使えばおよそ2200人を収容できますが、津波被害が出ていない「事前避難」の段階で学校を休校にするかどうか、町と教育委員会との間で調整が終わっていません。
南伊勢町立南勢中学校の後藤武彦校長は「授業を平行してできればいいのですが、難しければ休校もやむをえないかもしれません。新型コロナウイルス対策で休校になりましたが、この経験は今後、事前避難の際の教訓になると思います」と話していました。
南伊勢町の防災担当、濱地智視さんは「作業は膨大ですが、町としてはより地域の実情に応じた設定をしたい。避難所として使う学校を休校するかなども関係者と相談しながら決めていきたい」と話していました。
ソース:NHK ニュース