男たちの旅路 ふぞろいの林檎たち 山田太一未発表シナリオ発見
2023-10-17 21:04:36

現在89歳の脚本家の山田太一さんは、脳出血の後遺症で療養中で、山田さんの作品を取材している文筆家の頭木弘樹さんが山田さんの自宅の書庫で未発表のシナリオを見つけました。
このうち、「オートバイ」という作品はNHKで放送され大反響を呼んだドラマシリーズ「男たちの旅路」のために1978年ごろに書かれたものです。
「男たちの旅路」は、特攻隊の生き残りの警備員を演じる鶴田浩二さんが若い同僚たちとぶつかりあいながら、社会問題に切り込むドラマです。
「オートバイ」では、団地でオートバイを乗り回して住民を困らせる若者たちに対し、警備員役の鶴田さんが「悪いことは悪い」と追い出そうとしますが、若い同僚に言い返され、世代間の溝が浮き彫りになります。
また、TBSで放送された連続ドラマ「ふぞろいの林檎たち」の続編のシナリオは、前編が「四十代ってなんですか?」、後編は「手元に光がありますか?」というタイトルで、初回で大学生だった登場人物たちが40代になった姿が描かれ、中井貴一さん演じる主人公がお見合いパーティーに出席するところから始まり、最終的には意外な人物と結ばれます。
山田太一さんの未発表のシナリオ集は20日に刊行される予定です。
山田さんの長女で演出家の宮本理江子さんは「どの作品も父らしく、善と悪の間での心の揺れ動きを描いて、自分だったらどう感じるか視聴者に問いを投げかけている。父はもう高齢で新しい作品を作る状態にはないので、今回のシナリオを皆さんに楽しんでもらえるとうれしい」と話しています。
「男たちの旅路」とは
「男たちの旅路」は、1976年から1982年にかけてNHKで放送され大反響を呼んだドラマシリーズで山田さんの代表作の一つです。
鶴田浩二さんが演じる特攻隊の生き残りの警備員・吉岡司令補が、水谷豊さん演じる陽平、桃井かおりさん演じる悦子など同僚の若者たちと毎回、ぶつかりあうドラマで、高齢者の問題など社会に鋭く切り込みました。
特に、鶴田さん演じる主人公の筋の通った生き方や力強いお説教に若者が気づきを得るという内容が反響を呼び、当時は、鶴田浩二さんに叱られたいという若者の声がブームのように広がったといいます。
また、シリーズの中でも名作と名高い「車輪の一歩」は、山田さんが障害者問題に正面から向き合った作品で、さまざまな不自由を強いられている車いすの若者たちに、鶴田浩二さんが語りかける「人に迷惑をかけないというルールが君たちを縛っている」などとして『人に迷惑をかけていい』と訴えたドラマで、大きな反響を呼びました。
「オートバイ」とは
毎回、「男たちの旅路」では、人生経験を積んでいる鶴田浩二さん演じる主人公が若者たちを叱るという展開ですが、見つかった「オートバイ」というタイトルのシナリオでは、初めて主人公が若者にやりこめられる展開になっています。
オートバイの騒音に悩む団地の住民に依頼され、主人公は力づくで暴走族を追い出そうとしますが、水谷豊さん演じる若い同僚は、オートバイを思いっきり走らせる場所がないという若者たちの声を聞き、彼らにも「事情がある」と訴え、激しい言い争いになります。
最後は「悪いことは悪い」と若者の気持ちを無視する主人公に対し、「そんなニュアンスの無いことでいいんですかね。そんな風に悪い奴を叩きつぶしてもいいもんですかね」と同僚が言い返します。
結局、若者たちはオートバイを処分してそれぞれの職場に戻り、たくさんあったオートバイが1台も無くなった光景で物語は終わります。
この結末について、山田さんの長女で演出家の宮本理江子さんは「とても父らしいシナリオだと思います。善と悪、大衆と個人の間で揺れ動き、何が正しいとかではなく多くの視点が持てるというか、これを見た後に自分は本当にどう感じるのかをそれぞれに探してもらうための投げかけだと思います」と話しています。