グーグルに公取委が「排除措置命令」米巨大IT企業へは初めて
2025-04-15 07:58:26

「GAFAM」と呼ばれるアメリカの巨大IT企業に公正取引委員会が排除措置命令を出すのは初めてです。
公正取引委員会によりますと、「グーグル」は、遅くとも2020年7月以降、国内で販売される「アンドロイド」端末のスマートフォンのメーカーに対し、アプリストアの「グーグルプレイ」の使用許諾を与える際、閲覧アプリの「クローム」などをあわせて搭載し、画面上の目立つ位置に配置するよう求める契約を結んでいました。
去年12月時点でメーカー6社と契約を結び、国内で販売される「アンドロイド」のスマホの少なくとも8割以上が対象になっていたということです。
また、検索と連動する広告サービスで得た収益を分配する条件として、競合他社の検索アプリなどを搭載せずに排除するようメーカーなどに求めていたということです。
公正取引委員会は、グーグルが自社を優遇し、取引先の事業を不当に拘束して独占禁止法に違反したと認定し、15日、違反行為の取りやめや再発防止などを求める排除措置命令を出しました。
行政措置の中で最も重く、命令に従わない場合、罰金などが科されます。
また、公正取引委員会は今回、命令としては初めて、再発防止の取り組みなどを独立した第三者が5年間監視し履行状況を報告することを求めました。
「グーグル」や「アマゾン」などアメリカの巨大IT企業「GAFAM」をめぐっては、アメリカやヨーロッパの当局などが規制強化に乗り出していますが、日本の公正取引委員会が排除措置命令を出すのは初めてです。
グーグル「今回の排除措置命令を慎重に検討」
公正取引委員会から排除措置命令が出されたことについて、グーグルは「日本のスマートフォンメーカーや通信事業者は、グーグルとの取り引きを強制されていません。自らの事業や日本におけるユーザーにとって最良の選択肢として、自らグーグルを選択している」として遺憾だとしています。
そのうえで「今回の排除措置命令を慎重に検討し、アンドロイドが日本の消費者、スマートフォンメーカーおよび通信事業者にとって競争力のある選択肢であり続けられるよう、公正取引委員会と協力して取り組んでまいります」としています。
初めての「排除措置命令」 狙いと経緯は
今回の初めての排除措置命令は、公正取引委員会がプラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業を相手に厳格な態度で臨む姿勢を示した形です。
公正取引委員会は近年「GAFAM」と呼ばれるアメリカの巨大IT企業の日本法人などに立ち入り検査をしたり市場の実態調査を行ったりするなど、監視を強めています。
独占禁止法に違反するかどうか調べる審査は通常、行政処分が決まるまで公表されませんが、公正取引委員会はおととし10月、グーグルへの審査を始めた際に概要を公表し情報提供を呼びかけました。デジタルプラットフォーム事業者が関係する事案については、審査を始めた段階で公表し広く情報を収集する手法が初めて適用されたのです。
関係者によりますと、審査開始から1年以上がたった去年11月ごろ、グーグル側は自主的に改善計画を提出し、認定されれば排除措置命令などが免除される「確約手続き」を申し出ました。「確約手続き」は、公正取引委員会が問題となる行為を認定する一方、違法性については「疑い」にとどめることで、調査の期間を大幅に短縮でき、市場の競争環境を回復する効果的な手段として活用が進んでいます。
グーグルをめぐっては、去年4月、インターネット広告の配信事業で、競合する「LINEヤフー」の事業を不当に制限したなどの行為について、この「確約手続き」に基づき公正取引委員会が改善計画を認めました。
しかし、今回のケースではすでに審査から1年以上がたっていて、違反事実の認定も進んでいたことなどから、公正取引委員会はより重い行政処分の「排除措置命令」に踏み切ったとみられます。
「GAFAM」に対する調査はこれまでも行われてきましたが、確約手続きなどで終わり、命令を出したケースはなく、公正取引委員会の幹部の1人は「証拠がそろっているのだから命令を出すときには出すという姿勢を示すことが企業側の自主的な改善の機運を生むことにつながる」と話しました。
グーグルの強い影響力 背景には
グーグルが強い影響力を持つ背景には、検索サービスで圧倒的なシェアを誇っていることがあります。
総務省の「情報通信白書」によりますと、グーグルは去年1月の時点で国内のスマートフォンの検索サービスにおいておよそ81%のシェアを持っています。2位のヤフーのシェアは、16%あまりで、大きく差をつけています。
さらに世界の携帯端末でのグーグルのシェアは、おととし12月時点で95%あまりと、圧倒的な地位を築いています。キーワードによる精度の高い検索技術に強みを持ち、基本ソフトの「アンドロイド」を搭載したスマホやインターネットの閲覧ソフト「クローム」などを通じて多くの利用者を抱えています。
その一方で、こうした状況を変える可能性があるのが生成AIの登場です。情報の検索だけでなく、利用する人の要望に応じた回答や情報の整理もできるようになっています。検索システムの中に生成AIの機能を搭載する動きも出ていて、今後、各社の技術開発がいっそう激しくなるとみられています。
大手メーカー担当者 “国内スマホ産業守る難しさも”
グーグルと契約するスマートフォンの大手メーカーの担当者は、巨大IT企業間の競争の中で国内のスマホ産業を守る難しさもあると明かしました。
今回の排除措置命令についてスマートフォンの大手メーカーの担当者は「競争環境の健全化は極めて重要であり、競争が制限されることで新たなイノベーションが生まれづらいとする公正取引委員会の指摘は産業の発展という視点からはそのとおりだと思う」と話しました。
現在の国内のスマホ市場については、アメリカの「アップル」に対し、グーグルとその技術を活用するメーカーなどで事実上二分されている状況だと指摘した上で、「端末メーカーが競争力を維持できているのは、グーグルがOSやアプリなどを無償で提供しているからだ。それをメーカーが開発したスマホに搭載することでユーザーに良心的な価格で提供できている。その現実を踏まえた上で、限られた外資メーカーが市場を事実上占有する構図にならないよう、慎重な議論が必要だ」と話しています。
専門家「寡占を避け市場の活性化を」
今回の排除措置命令について、独占禁止法に詳しい同志社大学大学院司法研究科の小林渉特別客員教授は「日常生活の中で使われるスマートフォンについて競争があまり起きておらず『技術革新が滞っているのではないか』といった議論もあるため、技術革新を阻害するような競争を排除する行為を禁止するという公正取引委員会の狙いがあると思う」と指摘しています。
グーグルが認定された違反行為については「スマートフォンを使う際、消費者は通常、購入時の初期設定、いわゆるデフォルトの状態で使うことが多いと考えられる。その場合にグーグルの検索アプリがスマートフォンのわかりやすい位置に配置されれば、多くの消費者はそのままそれを使う可能性が高い。するとほかのアプリが使われない、つまり競争相手のメーカーが排除されてしまうことにつながるので、こうした行為は独占禁止法で禁止されている」としています。
今後の市場環境のあり方については「デジタルの世界というのは情報が集約されると、どんどん人が集まってきて、特定のサービスや特定の企業にニーズが集中しやすいので、ほかの商品や業界に比べて寡占化が進みやすい構造があると思う。寡占構造によって競争が妨げられて技術革新が滞る、といったことのないように環境を整え、スマートフォンやITの市場の活性化を保つことが必要だ」と話していました。
巨大IT企業への規制 国内の状況
スマートフォンの分野での巨大IT企業に対する規制としては、ことし、新たな法律が本格施行されることになっています。
去年6月に成立した「スマホソフトウエア競争促進法」は、スマートフォンのアプリストアや検索エンジンなどの各分野で、それぞれ優越的な地位にある巨大IT企業を規制するものです。アップルとその子会社のiTunes、それにグーグルの3社が対象ですが、各事業者ごとに、規制される分野は異なります。
このうち、アプリストアの分野では3社すべてが規制の対象となり、他社のアプリストアの提供を妨げたり、ストア内の決済システムに他社が参入することを妨げたりすることを禁止されます。
また、検索エンジンの分野では、グーグルが規制の対象となり、検索結果を表示する際、正当な理由がない場合は、自社のサービスを優先的に取り扱うことを禁止されます。規制に違反した場合は、違反行為による国内での売り上げの20%が課徴金として課されます。いまの独占禁止法で同じように違反した場合に比べ、課徴金の水準は3倍以上で、10年以内に違反を繰り返した場合、課徴金の水準は30%に引き上げられます。
公正取引委員会は今後、具体的な規制の内容をガイドラインにまとめるなど、法律の年内の本格施行に向けた準備を進めることにしています。
グーグルへの規制 海外は
グーグルのサービスに対しては、日本以外でも、公正な競争を確保する観点から規制する動きが出ています。
EU=ヨーロッパ連合では、去年3月から巨大IT企業を規制する「デジタル市場法」の本格運用が始まりました。デジタル市場での公正な競争の確保を目指すもので、日本の「スマホソフトウエア競争促進法」では規制の対象としていない、ネット通販やSNSといった分野も網羅しています。
違反した場合は、最大で、世界全体の年間の売上高の10%という巨額の制裁金を科すことができ、国内の売上高に絞っている日本の規制より厳しい内容となっています。
EUの執行機関、ヨーロッパ委員会は先月、グーグルの親会社「アルファベット」に対して、検索やアプリストアの分野でデジタル市場法に違反しているとする、予備的な見解を通知しています。
一方、アメリカは独占禁止法にあたる「反トラスト法」に基づいて、巨大IT企業への対応を進めています。グーグルに対しては、アメリカ司法省が検索や広告などの分野で反トラスト法に違反した疑いがあるとして提訴し、去年8月、首都ワシントンの連邦地方裁判所が訴えを認める判決を出しました。
これを受けて、司法省は、去年11月、裁判所にグーグルに対する是正策の案を提出し、インターネット閲覧ソフト「クローム」事業の売却などを求めています。