教員なり手不足 採用試験前倒し進まず 国が要請も… NHK調査
2025-04-15 07:57:46

昨年度の公立学校の教員の採用倍率は3.2倍で、3年連続で過去最低となっていて、教員のなり手不足が続いています。
こうした状況をうけて文部科学省は昨年度、それまで夏ごろに行われていた教員採用試験の1次試験を6月中旬に前倒しするよう求め、今年度はさらに前倒しして5月11日を目安に行うよう要請しています。
さらに今年度前倒しして試験を行う自治体5/68
しかし、NHKが全国の都道府県や政令市など68の教員委員会に実施状況を調べたところ、国の要請に応じて今年度前倒しして試験を行うのは▼新潟県、▼島根県、▼山口県、▼長崎県の4県と、政令市の▼新潟市のあわせて5つの自治体にとどまることがわかりました。
昨年度5月に試験を実施していた4つの自治体をあわせても今年度、国が要請する5月11日前後に試験を行うのは9つの県と市のみで、多くの自治体が試験の前倒しを見送った形です。
こうした自治体からは「年度が替わったばかりの時期で問題作成などの準備が間に合わない」とか「1次試験は前倒しできても2次試験を早められない」といった意見が聞かれました。
また、教員の採用倍率が3年連続で過去最低となるなか「試験を前倒ししても受験者が減ったり、辞退者が出たりして効果が見極められない」など、そもそも前倒しの効果に疑問の声もあがっていました。
文部科学省は「引き続き、試験の前倒しは検討してほしい。また、大学3年生のうちに試験の一部を受けられるようにするなど、自治体の実情に応じて選考方法の工夫に取り組み、志願者確保に努めてほしい」としています。
専門家「効果ないと判断したところ多いのでは」
教員の養成制度に詳しい東京学芸大学の岩田康之教授は、国からのさらなる採用試験の前倒しの要請に応じた自治体が一部にとどまったことについて「これまで試験日程を早めても、うまくいかなかった自治体や混乱が生じた自治体があり、効果がないと判断したところが多いのではないか」と分析しています。
一方で、大学3年生向けの選考など採用試験の多様化が進んでいることについては「できることをあの手この手で取り入れていて危機感の高さの表れだ」と理解を示す一方で、「自治体ごとに取り組みが違ううえ、同じ自治体でも年度によって変わり、受験をする人にとっては混乱が大きい。学生にとっては受験に二の足を踏む理由になりかねない」と懸念しています。
そのうえで国や自治体が取り組むべきこととして「学生は、教育の中身や設備、人材の確保状況などをしっかり見ている。将来性を感じるような攻めの教育を行っていることをアピールすることが大事だ。同時に子どものきめ細やかなサポートをしていくために人の配置を手厚くし、先生の負担を減らすことも重要だ」と話しています。
そして岩田教授は、深刻化する教員のなり手不足の改善は喫緊の課題だとして「労働力市場全体の中で選ばれる教職を作り直すことが必要な時期に来ている。採用の仕組みを変えるだけではなく、これからの教育をどうするか、その担い手をどう確保するかを議論することが必要だ」と話しています。
公立学校 教員4700人以上不足 調査も
教職員組合の調査で全国の公立学校では、去年少なくとも4700人以上の教員が不足しているとされています。
全日本教職員組合は毎年、教員不足の状況を調査していて、去年10月時点の教育委員会もしくは組合員から回答が得られた都道府県と政令市のあわせて45の教育委員会の結果をまとめています。
それによりますと、各教育委員会の計画に対し不足している教員の数は、▼小学校で2241人、▼中学校で1294人、▼高校で383人、▼特別支援学校で506人などと全国の公立学校で少なくとも4714人に上るということです。
前の年の調査でも回答した34の教育委員会に限定して比較すると、不足は3125人となり1年で1.2倍に増えています。
現場の教員からは「教員が未配置のため、ドミノ倒しのように病気休職者が出ている」といった声や、「欠員が出ないように教育委員会が責任をもって採用してほしい」などといった意見が寄せられたということで、教員をどう確保していくかが課題となっています。
3年生で内定出す自治体も “優秀な学生を”
教員採用試験の前倒しが一部の自治体にとどまる一方、大学3年生の段階で受験機会を設ける動きが広がっていて、3年生のうちに内定まで出す自治体もあります。
NHKが各都道府県と政令市など68の教育委員会に調査したところ、今年度大学3年生の段階から試験の一部を受験できる自治体は全体の8割を超える58にのぼり、神奈川県や新潟県、高知県など6つの自治体では内定まで出しています。
これらの自治体では大学から推薦を得た上で、内定後、その自治体で教員になることが受験の際の条件となっていて、自治体側は優秀な学生をいち早く獲得できる一方、受験する側もメリットを感じています。
内定者「受験生にとってはチャンス」
その1つ、横浜市では一昨年度から導入し、大学3年生に事実上の内定を出しています。
今月から横浜市内の小学校で新人の教員として働き始めた藤田真帆さん(22)も大学3年生の時に導入されたばかりの採用試験を受験しました。
横浜市では、通常の採用試験は7月に行われているため、その前の6月に行われる教育実習の影響を懸念したといいます。
実際、藤田さんが内定をもらったあと大学4年生の時に行った教育実習は、採用試験前日まで実習があったといいます。
藤田さんはこの時に受験していれば、採用試験の準備が十分にできないだけでなく、教育実習自体にも専念できなかったかもしれないと振り返ります。
藤田さんは4年生の時の空いた時間を活用して、フリースクールに通う子どもの支援活動にも参加したということで、実際に働く意識を持ちながら学生生活を過ごせたといいます。
藤田さん「試験に合格したからこそ、その後の大学の学びでは1年後にこういうことをしなければいけないんだという実感を持つことができた。こうした採用形態は受験生にとってはチャンスが増えるうえ、試験を行う自治体に目を向けるきっかけになると思う」
1次試験 5月前倒しの自治体 準備急ぐ
国の要請に応じて今年度、教員採用試験の1次試験を5月に前倒しして行う自治体では準備を急いでいます。
このうち山口県は、これまでより2か月ほど早め全国で最も早い5月10日に行うことにしていて、15日も午前中から職員が出願書類に記入漏れがないかなどを確認していました。
県教育委員会によりますと、昨年度の教員採用試験の志願者数は1032人と過去最少となり、10年前と比べて3分2近くに減っています。
このため、山口県では去年の夏、試験を5月に前倒しすることを決めて準備を進めてきたほか、今年度はさらに大学3年生が1次試験を受けられるようにしました。
山口県教育庁の安武宏典教職員課長は「教育の質を担保するために志願者を確保することは喫緊の課題だと認識している。5月への早期化の効果は分析できていないが、何もしないよりは実施することで成果が得られることに期待したい」と話しています。