4月13日、円相場がおよそ20年ぶりに1ドル=126円台まで値下がりしました。背景にあるのは、日米の金融政策の方向性の違い。インフレ抑制のため利上げを加速する構えのアメリカと、景気の下支えのため強力な金融緩和を粘り強く続ける日本。
この構図が変わらなければ、日米の金利差拡大が見込まれることから、さらに円安が進むというのが市場のメインシナリオ…。
そう思っていたやさき、気になる話が耳に入ってきました。
「アメリカのインフレはピークアウトだ」。
本当だとすれば、影響は円相場にとどまらず、株式などマーケット市場全体に及びます。どういうことなのでしょうか?
(経済部記者 仲沢啓)
アメリカ40年ぶりの物価上昇
ヒントになる動きは、126円台まで円安が進んだ13日の前日にありました。
12日火曜日の夜9時半。
アメリカの3月のCPI=消費者物価指数が発表されました。
前年同月比で「プラス8.5%」。
およそ40年ぶりの高い水準でした。
「ガソリン」が48%と大きく値上がりしたほか、「電気代」が11.1%、「食品」が8.8%それぞれ上昇していました。
ロシアによるウライナ侵攻をきっかけにした原油価格の高騰などを背景に、記録的なインフレに拍車がかかっていることを示していました。
事前の市場予想を0.1ポイント上回り、高インフレが確かめられたとして、さらに円安が進むことになりそうだと見ていました。
ところが、このCPIの発表後、ニューヨーク市場の円相場は、いったん逆の円高方向に振れたのです。
カギは“コア指数”
この動きの理由は、発表された指数のうちの「コア指数」にありました。
コア指数は、全体のCPIから、変動幅が大きいエネルギーと食品を除いたものです。
実は、3月のコア指数は、前年同月比で「プラス0.3%」。
市場予想を下回り、2021年9月以降では最も小さい値でした。
コア指数を押し下げたのは、「中古車」です。
アメリカでの生活に欠かせない車。
新型コロナの感染拡大によるサプライチェーンの混乱を受けて、半導体などの部品の調達ができず新車の生産が追いつかなかったため中古車の需要が伸びて、このところ価格が高騰していました。
ところが、物価を押し上げていた大きな要因の中古車の価格が、2か月連続で下落に転じたのです。
それに加えて、3月上旬には1バレル=120ドル台をつけていたWTIの先物価格(原油価格の国際的な指標)が、その時には100ドル前後まで下落。
エネルギー価格にも一服の兆しが出ているとの受け止めも出ていました。
こうしたことから、市場では「アメリカのインフレがピークアウトした」と一部で受け止められ、“インフレのピークアウト”→“アメリカの利上げ減速”→“日米の金利差の拡大が緩やかに”という連想ゲームから、「円買いドル売り」という反射的な動きとなったわけです。
ピークアウト説 早くも波及
もっとも、この反射的な動きは一時的なものに終わり、日付が変わった13日午後には、日銀・黒田総裁の「強力な金融緩和を粘り強く継続する」という発言などが材料視されて、「円売りドル買い」の動きが強まり、125円前後の「黒田ライン」※を一気に突破して、およそ20年ぶりの円安水準をつけました。
※経済コラム「円安どこまで?意識される“黒田ライン”」参照)
今後どこまで円安が進むのか?
市場関係者に取材してみると、「130円台、場合によって135円台まで行くだろう」などとさらに円安が進むという意見がある一方、「ここからは、それほど急速に円安は進まないのでは」という意見も聞かれます。
さほど円安が進まないという見方は、やはり「インフレのピークアウト説」が大きな根拠となっています。
また、「インフレのピークアウト説」は、アメリカの長期金利の上昇ペースを落とす形になっているほか、ダウ平均株価の値上がり要因となるなど、早くもさまざまなマーケットに影響を広げています。
アメリカのインフレは、政府の経済政策・FRBの金融政策をはじめ、今の世界経済を左右する最大のポイントとも言えるだけに、本当にピークアウトしたのか、今後さらにマーケットの関心が集まることになりそうです。
18日には中国で1月から3月のGDPや、3月の小売売上高が発表されます。
上海などで新型コロナウイルスの感染が拡大し、厳しい外出制限が続いていて、市場予想では小売売上高は減少が見込まれています。
また、22日には日本の3月の消費者物価指数が発表されます。
ウクライナ情勢の緊迫化が物価にどのような影響を与えているかが初めて反映されるため、こちらにも注目です。