知らんけどを知らんけど
「大阪府の面積は ちょっと前まで日本で最小
やけど関空出来て 香川抜いて 今はブービー 知らんけど」
ことしリリースされたジャニーズWESTの曲『しらんけど』の歌詞です。
関西出身の私(記者)にとっては「あるある」と感じる使い方。
一方、関東出身の後輩ディレクターにとっては、違うようで。
家坂徳二ディレクター(関東出身)
「関西人、この言葉めちゃくちゃ使いますよね。なんで使うんですか?」
北森ひかり記者(関西出身)
「そうやなあ。みんな物心ついたときに使えるようになってると思うで、知らんけど」
聞かれてみると関西出身の私も、なぜ使うようになったのか、どういうときに使うのかあまり意識をしたことがありません。
知らんけど どう使う?
関西人はどんなときにどれだけ使っているのか。
私たちで調べてみようと、大阪の天神橋筋商店街に取材に出ると…。
(50代女性)
「めっちゃ使いますよ。便利なことばやと思います。好き勝手言っておいて、責任逃れのために最後につける。関西人っておもしろいことで盛り上がるから、せやんな、せやんなっていろいろ話して、最後『知らんけど』つけたらズコーンみたいな」
(※ズコーン=吉本新喜劇のボケのあとに転ぶようなイメージです)
(30代女性)
「使ってます。一日10回は言っているかな。口癖。責任逃れで使ってますね」
(80代男性)
「もの言って、自信ないときに『知らんけど』って一応言うだけ言う」老若男女さまざま世代で使われているようでした。
気になったのは「自信がないとき」や「責任逃れ」という言葉。
「知らんけど」はどのように根付いて、どのような意味合いで使われてきたのでしょうか。
知らんけどの定着には歴史が…
日本語の研究者で関西弁に詳しい、放送大学大阪学習センターの金水敏所長に聞きました。もちろんご自身も関西人です。
Q なんで私たち関西人は「知らんけど」を使うんでしょう?
「ふだんの会話でいろんな話題が出て、盛り上がったときに『自分はこういうことをしゃべりたい』と思っていても、それほどよく知らなかったり、当事者じゃないときってありますよね」
Q あります、あります。
「でもしゃべりたいとき、何か言っちゃうというときに『知らないんだけど』っていうことを付け足しの意味で話すというのが関西の使い方です。関西人は会話の中でさほど知らなくても情報を出したいと考える人が多いですからね」
Q あまり知らないことでもしゃべりたくなるその気持ち、分かります。
ところで「知らんけど」っていつから使われているんでしょう?
「一般の人の会話の中で自然発生したものですから、特定は難しいです。ただ、もともとは『よう知らんけど』という形で使われていたはずです。それが短くなって『知らんけど』という形になったのではないでしょうか。頻繁に使われることばは使いやすく短くなる傾向があります。SNSやテレビを通して、社会に関西弁として認知されはじめたのはここ10年くらいのことだと思います」
ただ、ここまで定着した背景には歴史的な土壌があるといいます。
「豊臣秀吉が天下統一をして大坂城をつくり、城下町を整備して町人を住まわせました。その秀吉がつくった基盤の上に、商人の都市が発展していったわけです。商売ですからとにかく情報をたくさん与えて相手からもたくさん情報をもらって、いくぶん不確かなこともとにかく情報をやり取りする。商売においてはコミュニケーションが非常に重要なので、会話技術がとても発達してきました」
知らんけどは“ストリートファイト”
話術が発達した関西で愛され親しまれてきた『知らんけど』。
関西以外の地域では戸惑いをもって受け止められるケースもあります。
最近大阪に引っ越してきた若者に聞いてみると…
(横浜出身 大学院生)
「確証がないなら無理してしゃべらなくてもいいと思うんですけど…」
(北海道出身 大学生)
「ちょっと戸惑いますね。え?今話していたこと知らないんだって」
金水所長も関西以外で使う際は、注意が必要だと指摘します。
(放送大学大阪学習センター 金水所長)
「関西人どうしですと、ボケやツッコミのような会話でも寸止めや受け身が身につき、日常的にやり合っていますから、その呼吸が分かります。これはストリートファイトみたいなのもので、子どものときからずっと訓練してきているからできるものです。関西人どうしの中で使うのは全く問題がありませんが、よその地域の方には通用しないことがあるため、コミュニケーションの事故になってしまう可能性もありますよ」
SNSの普及とともに全国区に
ときにはトラブルの原因となってしまう関西弁『知らんけど』。
にもかかわらず、今、急速に全国区のことばになろうとしています。
ツイッターで使われたことばを分析しました。
「知らんけど」を含む投稿はこの10年で6倍に増加。
東京都内で投稿されたつぶやきも目立ちました。
SNSの普及とともに関西以外でも若い世代を中心に広がっていることがうかがえます。
「現代用語の基礎知識」にも登場!
最新版の「現代用語の基礎知識」(自由国民社)にも「知らんけど」は掲載されています。
それによると「文末に付けて、断定を避け、責任も回避する言い方」とあります。言いたいことが言いにくい。そんな空気の中、自由にものを言うために使われている側面もあるようです。
10代に特化したマーケティングを行っている企業が、関東地方の高校生を対象に行ったトレンドワードの調査では「しんどw」「だるぅ」に次いで「知らんけど」が3位にランクインしました。
この会社によると、若い世代の間でも「知らんけど」は「責任回避」の意味合いで使われている傾向が強いといいます。
関東の高校生も 知らんけど
どのような場面で使っているのか、この会社の調査に協力している関東の高校生3人に集まってもらいました。
高校3年生
「人から聞いたことをほかの人に伝えるときによく使います。それが本当のことなのか分からないときにあいまいにするときに使います。友達とやり取りするとき、LINEとか直接でも使います」
高校1年生
「『ちょっとわからないんだけど』という意味でやわらかく、『知らんけど』ってよく使います。周りの子も使っていたので、知らない間に使っていました」
高校3年生
「TikTokでよく使っているのを見てかわいいなと思いました。関西弁という認識はあまりなかったです」
北海道から沖縄まで 知らんけど
「知らんけど」は確かに関西以外でも浸透し始めているようです。
私たちは「NHK大阪ニュース」のツイッターで「知らんけどの使い方を教えてください」と呼びかけてみました。
すると北海道から沖縄まで全国から300件近い回答が寄せられました。
(宮城県 20代女性)
「自分の発言に自信がない時、関西人じゃないけど使っています」
(沖縄県 20代女性)
「あいまいなとき使います。使うと相手は大抵、首をかしげます。知らんけど」
(新潟県 20代女性)
「本場の人に怒られるかもですが、とりあえずなんにでも付けます。最後に言ったり書いたりするだけで面白くなるので。知らんけど」
(北海道 50代女性)
「知らんのかいという突っ込み待ちも楽しいです」
実は魔法のことば?
「知らんけど」は今の時代のコミュニケーションに欠かせない大切なことば。そう感じている人もいます。
現代短歌を代表する歌人、穂村弘さんはこう語っています。
「『知らないけど』と話し始めたら『だったら言うなよ』となりそうなのに、『知らんけど』と云われるとすべてをひっくり返すような適当さが面白くすら思える。不思議です。これさえあれば気軽に自分の意見が云える。『知らんけど』はただの『責任逃れ』のことばではなく冗談を言って楽しむあたたかさがあり、だからこそ今の若者に受けていると感じました」
ジャニーズWEST 重岡大毅さんは…
冒頭でも紹介したジャニーズWESTの曲『しらんけど』の歌詞も“その言葉は魔法 どんなシーンでも心を開放”と続きます。
メンバーの重岡大毅さんは私たちの取材にこう答えています。
「『知ってる知ってる!知らんけど』って言うてしまうときもあります。恥ずかしいです。でも、この言葉がはやるって、なんだかうれしい気持ちです。みんなでいっぱい使いましょう!」
商都大阪で発達したことばのストリートファイト。
ものが言いにくい雰囲気から心を開放する魔法のことば。
世相を反映して『知らんけど』は広がり続けています。
知らんけど。
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