アメリカ大統領選挙 日本時間今夜から投票 最後の訴えへ
2024-11-04 23:59:18

最期の訴えへ
アメリカ大統領選挙は投票日前日の現地時間4日となりました。
政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によりますと、勝敗のカギを握る7つの激戦州では、各種世論調査の支持率の平均が日本時間の5日午前3時の時点で、トランプ氏が48.5%、ハリス氏が47.8%と大接戦となっています。
民主党のハリス副大統領は4日、激戦州のなかでも選挙人の数が最も多い東部ペンシルベニア州の3か所で集会を開く予定です。
集会に先立ち、ハリス氏は現地でみずからの支持者を前にあいさつし、「私たちはこの国を愛している。最高の私たちのために戦っている。投票に行こう、そしてともに勝利しよう。仕事にとりかかろう。あと24時間だ」と呼びかけました。
一方、トランプ前大統領は激戦州の3つの州で集会を開くことにしています。
このうち南部ノースカロライナ州の集会では、「あした、あなたの投票によりハリス副大統領をクビにしてアメリカを救う。減税し、物価を下げ、賃金を上げ、何千もの工場をアメリカに戻す」と述べて支持を訴えました。
アメリカ大統領選挙は現地時間の5日朝、日本時間の5日午後8時から各州で順次、投票が始まり、日本時間の6日午前から開票作業が行われます。
【記者解説】最新の情勢は
ワシントン支局の根本幸太郎記者の解説です。
Q.特定の支持政党を持たずに選挙のたびに投票先を変える「スイング・ボーター」の選択が結果を左右する情勢なのか?
A.異例の大接戦となっているだけに1票1票の重みが格段に増しています。
特に激戦州では最終盤の各種世論調査でも両者の支持率の差が調査の誤差の範囲内というものがほとんどで、優位な差はついていません。
アメリカメディアの中には選挙戦を陸上競技にたとえて「最後は写真判定に持ち込まれる様相だ」と、僅差で決着がつく可能性を指摘するところもあります。
最終盤、トランプ氏は「この4年間で暮らしは上向いたか」と、繰り返し問い、今回の選挙は政権を担ってきたバイデン・ハリス両氏への審判だと批判を強めたのに対し、ハリス氏もトランプ氏の過激な発言や政治姿勢への批判をより前面に打ちだす戦略にかじをきりました。
こうした訴えが、双方の支持層の投票率をどこまで引き上げ、そして投票先をまだ決めていない有権者を突き動かせるのかが、選挙の行方を決定づけるポイントになると思います。
Q.注目される選挙結果はいつ頃に判明しそうか?
A.開票は日本時間の6日午前から順次始まり、過去の選挙では多くの場合、その日のうちに大勢が判明してきました。
ただ、バイデン氏とトランプ氏が争った前回の4年前は開封などに時間がかかる郵便投票が増えたことに加え、接戦となったため、結果が判明したのは開票開始の4日後でした。
今回も接戦となる中、すでにトランプ氏は投票で不正が行われていると主張し始めているほか、僅差の場合は再集計を行うルールを設けている州もあり、アメリカメディアは「当選確実をいつ速報できるかは予想がつかない」と伝えています。
国際情勢にも大きな影響を与える大統領選挙の行方を世界中が固唾をのんで見守ることになりそうです。
ハリス氏 トランプ氏の政策は
ハリス氏 “中間層 低所得者層を重視”
ハリス氏は、中間層や低所得者層を重視する政策を主張しています。
具体的には、連邦政府が定めている最低賃金を少なくとも時給15ドルに引き上げると主張しているほか、インフレ対策として、初めて住宅を購入する人を対象に、頭金として最大2万5000ドルを支給することや中間層が購入できる住宅など300万戸の建設を進める方針を示しています。
財政政策では年収40万ドル未満の人には増税しないとする一方、法人税率を現行の21%から28%に引き上げるとしています。
一方、外交面では日本など複数の同盟国との協力を重視しながら、国際協調路線をとってきたバイデン政権の姿勢を踏襲する方針です。
中国については、「アメリカにとって最も重大な戦略的競争相手」と位置づけ、対話を重視しながら競争していく方針を示しています。
台湾については、「1つの中国」政策にのっとり、一方的な現状変更が行われないよう台湾海峡の平和と安定に向けて関与を続けるとしています。
イスラエル情勢については、イスラエルの自衛する権利を支持する一方、停戦に向けた働きかけを強めていくものとみられます。
ウクライナ情勢をめぐっては、副大統領としてゼレンスキー大統領と会談を重ね、ロシアの脅威に対抗しウクライナを支持する立場を明確にしていて、NATO=北大西洋条約機構を引き続き重視し、同盟国との関係強化を図る方針です。
トランプ氏 “減税などで経済成長”
トランプ氏は大統領に返り咲けば減税などによって経済成長を目指す考えです。
前回の大統領在任時には、経済政策の柱として法人税率や個人の所得税の最高税率の引き下げなどに取り組んでいて、当選すれば、こうした減税策を恒久的な制度にするとしています。
また、アメリカ第一主義を掲げ、日本を含む外国から輸入される製品について原則10%から20%の関税をかける方針を示していて、関税政策によって国内の製造業や雇用を守る姿勢をアピールするとみられます。
エネルギー政策では、石油・天然ガス・石炭に関する生産や採掘に関わる規制を撤廃してエネルギー価格を引き下げる方針も打ち出しています。
また、移民政策では人々が国境を越えて無秩序に流入しないよう国境沿いの壁を建設するとしているほか、「アメリカ史上最大の強制送還作戦」を実施すると宣言していて、国境管理の強化に乗り出す方針です。
一方、外交・安全保障をめぐってはロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘について、「私が大統領だったら起こらなかっただろう」と批判していて、和平を実現させると主張しています。
また、インド太平洋地域を重視する立場を示していて、日本などとの同盟関係を強化して中国と対抗していくとみられます。
北朝鮮をめぐっては大統領在任時に史上初の米朝首脳会談を実現したことを成果として強調していて、北朝鮮への対応に自信を見せています。
また、トランプ氏はバイデン政権時に復帰した地球温暖化対策の国際的な枠組み、「パリ協定」からふたたび離脱する考えを示していることなどから、国際協調や国際的な枠組みから距離を置くという見方も出ています。
ハリス氏 トランプ氏の選挙戦は
ハリス氏 「未来」切り開く存在と強調
ことし7月、バイデン大統領は大統領選挙での再選を断念し、選挙戦から撤退しました。
再選を目指す現職大統領が選挙戦の途中で撤退したのは、1968年、ベトナム戦争が泥沼化する中で撤退したジョンソン大統領以来でした。
副大統領で、バイデン氏が後継の候補として支持したハリス氏は、「バイデン大統領の支持を得られたことを光栄に思う。この指名を勝ち取るつもりだ」と大統領候補の指名獲得に意欲を示しました。
その後、民主党の重鎮のペロシ元下院議長やオバマ元大統領夫妻など有力者が相次いで支持を表明し、ハリス氏は党の大統領候補として正式に指名を獲得しました。
8月には副大統領候補に中西部ミネソタ州のウォルズ知事を選び、そろって選挙集会を開くなど、激戦州を中心に支持の拡大を図ってきました。
選挙戦では、移民の子どもであることや労働者層が暮らす地域で育ったことなどをアピール。
長引くインフレが国民生活を苦しめる中、中間層や低所得者層への支援を重視する方針を強調して、庶民に寄り添う姿勢を示すねらいがあると受け止められました。
また、共和党のトランプ氏についてアメリカを「過去」に後退させる存在だと批判する一方、みずからを「未来」を切り開く存在だと繰り返し強調してきました。
SNSで多くのフォロワーを抱えるインフルエンサーを民主党大会に招いたほか、人気歌手のビヨンセさんなども集会に招いて支持を呼びかけてもらうイメージ戦略を徹底。
最終盤には、いまも根強い人気があるオバマ元大統領夫妻も激戦州を回るなど、党をあげて選挙戦を進めてきました。
トランプ氏 無党派層意識の姿勢も
前回の大統領選挙で敗北したトランプ氏は、2年前、ほかの有力な候補者に先駆けて大統領選挙への立候補を表明し、選挙活動を始めました。
「アメリカを再び偉大に」というスローガンを掲げて組織立った選挙戦を展開し、大規模な集会だけでなく、集会先で地元の飲食店に立ち寄るなど、有権者との対話を重ねてきました。
また、ハリス氏が党の候補者に指名された当初、ほとんど記者の質問に応じずメディアから批判の声が上がっていた中、トランプ氏は大手メディア以外の地元局やオンラインメディアにも積極的に出演しました。
「アメリカ第一主義」に基づく経済施策や移民政策などを訴える一方、国内を二分する人工妊娠中絶をめぐっては柔軟な対応も示すなど、無党派層を意識する姿勢もみせました。
ことし7月には選挙集会で演説中に銃撃される事件が起き、これをきっかけに共和党の結束が強まったとも指摘されています。
また、無所属で立候補を表明していたケネディ元大統領のおい、ロバート・ケネディ・ジュニア氏や前回は民主党を支持した実業家のイーロン・マスク氏も支持を表明するなど、党外から選挙活動に加わる動きもみられました。
さらに、ウクライナのゼレンスキー大統領やイスラエルのネタニヤフ首相などと自宅で会談を行うこともたびたびありました。
一方、トランプ氏は複数の刑事事件で起訴され、不倫の口止め料をめぐって業務記録を改ざんした罪に問われた裁判では有罪の評決が下されるなど、裁判を抱えながらの異例の選挙戦でもありました。
経歴を詳しく
カマラ・ハリス氏
カマラ・ハリス氏は60歳。父親はジャマイカ出身、母親はインド出身で、移民の2世として西部カリフォルニア州で生まれました。
カリフォルニア州で検察官としてキャリアを重ね、女性として初めて州の司法長官を務めたあと、2017年に上院議員となりました。
前回、2020年の大統領選挙では、議員1期目ながら民主党の候補者指名争いに挑戦し、支持が広がらず撤退しましたが、指名争いを勝ち抜いたバイデン氏から副大統領候補に選ばれました。
翌年、女性として、また黒人、さらにアジア系としても初めての副大統領に就任し、多様性を重視するバイデン政権の象徴となりました。
在任中は、連邦最高裁判所が人工妊娠中絶は憲法で認められた権利だとしたおよそ50年前の司法判断を覆したことをめぐり、全米各地で中絶の権利の擁護を訴えました。
一方、移民対策を任されましたが、共和党からは目立った実績はないとの厳しい評価もあります。
ハリス氏は、ことし7月、選挙戦から撤退したバイデン大統領が後継の大統領候補として支持すると表明したあと、民主党の代議員によるオンラインの投票を経て正式に大統領候補に指名されました。
女性がアメリカの主要な政党の大統領候補に指名されたのは8年前、2016年の民主党のクリントン元国務長官に次いで2人目で、当選すれば史上初めての女性大統領となります。
弁護士のダグラス・エムホフ氏と結婚し、エムホフ氏と前妻の間に生まれた2人の子どもの母親です。
副大統領候補 ウォルズ氏
民主党の副大統領候補のティム・ウォルズ氏は60歳。
中西部ネブラスカ州の出身で、2019年からミネソタ州知事を務めています。
州知事としては学校給食の無償化や労働者の有給休暇の拡大などに取り組んできました。
ウォルズ氏は州兵を24年間務めたほか、高校で社会科の教師になり、同じく教師の妻の故郷、ミネソタ州に引っ越し、高校のアメリカンフットボールのコーチも務めました。
いまも親しみやすさを打ち出すため「コーチ・ティム」の愛称を積極的に使っています。
自身のSNSには、銃を持って狩りをしている様子をとらえた写真や「私はハンターで、銃の所持者だ」というコメントを投稿する一方、銃規制の強化には賛成の立場を示しています。
大統領候補のハリス氏は女性、黒人、そしてアジア系であり、大都市の検察官としてキャリアを築いてきていて、ウォルズ氏はその経歴や親しみやすさから白人労働者層からの支持拡大を期待して指名されたものと見られています。
ドナルド・トランプ氏
ドナルド・トランプ氏はニューヨーク出身の78歳。
父親の不動産業を継いで実業家となり、ニューヨーク・マンハッタン中心部の高級ホテルの改修事業や、カジノ、ゴルフ場の運営などを手がけ「不動産王」と呼ばれました。
人気テレビ番組の司会も務め、「ユー・アー・ファイアード!=クビだ!」という決めぜりふで多くの国民に知られるようになりました。
2016年の大統領選挙では、「アメリカを再び偉大な国に」というスローガンを掲げて民主党のクリントン元国務長官に勝利し、翌年から、政治や軍事経験がない初めての大統領として4年間の任期を務めました。
在任中は「アメリカ第一主義」を掲げて保護主義的な貿易政策や国際的な合意からの離脱などを推し進めるとともに、大手メディアの報道を「フェイクニュース」と激しく批判して、重要政策や人事の発表をみずからSNSに昼夜関係なく投稿する型破りな手法で政権を運営しました。
一方、野党・民主党と対立を深め、みずからの政治的利益のためにウクライナに圧力をかけたなどとする疑惑や、連邦議会に支持者らが乱入した事件で騒乱をあおったなどとして、歴代の大統領として初めて2度、弾劾訴追されました。
さらに、退任後は、不倫の口止め料をめぐって業務記録を改ざんした罪で有罪の評決を受けました。
ただ、共和党支持者の間で、「岩盤支持層」と呼ばれる熱狂的な支持者がいて、人気は健在です。
2回の離婚を経てメラニアさんと結婚していて、子どもはあわせて5人います。
ハンバーガーが大好物で、ゴルフが好きな一方、兄をアルコール依存症で亡くしたこともあり、酒は一切飲まず、たばこも吸いません。
副大統領候補 バンス氏
共和党の副大統領候補のJ・D・バンス氏は40歳。
中西部オハイオ州ミドルタウンで生まれました。
アメリカ・メディアによりますと、貧しい暮らしや両親の離婚などを乗り越えてきた自身の経験から、「家族の大切さ」を重視するようになり、カトリックに改宗し、保守的な価値観が重要だと考えるようになったということです。
高校卒業後、海兵隊に入隊し、イラクに派遣されるなどしたあと、イェール大学のロースクールを卒業しました。
その後、自らの経験をもとに製造業が衰退した地域に暮らす、白人労働者層の日常を描いた回顧録、「ヒルビリー・エレジー」が2016年に出版されてベストセラーになりました。
2022年の中間選挙で、トランプ氏の全面支援を受けてオハイオ州選出の上院議員に初当選し、政治家としての経験は2年弱ながら、トランプ氏から副大統領候補に指名されました。
アメリカの労働者を守るためとしてトランプ氏が掲げる「アメリカ第一主義」を強く推し進めていく存在として、特に白人労働者層からの支持をいっそう強固にする役割が期待されていました。
選挙の仕組みを詳しく
アメリカ大統領選挙は、どちらの候補者が、全米50州と首都ワシントンに割りふられた選挙人の過半数を獲得するかで勝敗が決まります。
選挙人の数はあわせて538人のため、大統領に選ばれるには、過半数の270人を獲得する必要があります。
ただ、選挙人の総数のちょうど半数にあたる269人をそれぞれの候補者が獲得し、同数となった場合は、勝負は連邦議会に持ち越されます。
来年1月に会期が始まる新しい議会で投票が行われ、大統領は下院、副大統領は上院がそれぞれ選出することになります。
下院で大統領を選出する場合、全米50州の各州に1票ずつ割りふられ、過半数の26票を獲得した候補者が大統領に選出されることになっています。
アメリカメディアによりますと、仮に同数となれば、1800年の大統領選挙以来、224年ぶりのことです。
連邦議会選挙の焦点は
今回の連邦議会の選挙では、新たな大統領の政党と上下両院の多数派の政党が同じになるのか、それとも政党が異なるいわゆる「ねじれ」の状態となるのかが焦点です。
アメリカの連邦議会は上院と下院で構成されていて、予算案や法案の成立には両院で可決されたうえで、大統領が署名する必要があります。
このため大統領が所属する政党と、上下両院、またはいずれかで多数派の政党が異なると、予算案や法案の調整が難航するなど、大統領は難しい政権運営を迫られることになります。
民主党のバイデン政権下では、2年前に行われた中間選挙の結果、上院で民主党が多数派となった一方、下院では共和党が多数派を奪還し、いわゆる「ねじれ」の状態となりました。
これにより、2024会計年度の政府予算案は民主党と共和党の対立で成立が大幅に遅れ、予算全体が固まるのにアメリカの会計年度が始まってからおよそ半年かかりました。
また、バイデン政権が承認するよう求めたウクライナ支援のための緊急予算案をめぐっては、共和党の一部から消極的な意見が強く出たため議会で可決されない状態が続き、一時、資金が枯渇して支援が滞りました。
連邦議会の構成は、新たな大統領が政権運営をスムーズに行えるのかそれとも難しい対応を迫られるのかに関わるだけに選挙結果が注目されています。