日本の家庭「貯蓄」の比重 50%超
まず、日本の家庭では「貯蓄」と「投資」はどのくらいの割合となっているのでしょうか。
日銀が公表しているデータ(*1)です。
家計の金融資産のうち、
▽「現金・預金」の占める割合は54%余りと半分を超え
▽「保険・年金・定型保証」が27%余り
▽「株式等」は10%などとなっています。
これに対して、アメリカの「現金・預金」は13%余り、ユーロ圏は34%余りとなっています。
これをみると、日本の家庭において「貯蓄」の比重が高いことが分かります。
※日本銀行調査統計局(2021年8月公表)
30人に聞きました
私たちが6月上旬に街頭インタビューを行ったのは東京・新宿。
幅広い年代の人たちが行き交うこの場所で30人を目標に「貯蓄」と「投資」について話を聞くことにしました。
伺った質問は次のとおりです。
Q1.投資をしていますか?していませんか?
Q2.貯蓄額を教えてください。
Q3.(Q1についての)理由を教えてください。
「投資は難しい」
まず「投資をしない」と答えた人たちの多くが挙げた理由。
それは「投資は難しいのでは」「よく分からない」「リスクがこわい」というものでした。
(投資していない・10代女性 大学生)
「ちょっとまだ難しいかな。株価とか自分でもまだよく分かっていないので」
(投資していない・30代男性 会社員)
「お金がいっぱいあるなら投資したいと思うかも。でも面倒かな。身近でもないし」
(投資していない・20代男性 フリーランス)
「いきなり投資してくださいと言われても、お金を出しづらいです。リスクやマイナスの方が大きすぎる感じがしています」
(投資していない・10代女性 大学生)
「投資はしていません。よく分からないまま始めるのはこわいものかなというイメージがあって」
日本で投資への理解が進まない理由の1つとして、学校の中で金融教育があまり行われてこなかったことが挙げられます。
これについては、今年度から改訂された高校の学習指導要領により、家庭科のなかで「お金の管理や運用の仕方」を教えることが義務化されました。
「投資はね…ゆとりができたら」
投資できない切実な理由を口にした人たちもいました。
(投資していない・70代男性 無職)
「食べていくのに精いっぱいなんです。投資はね…ゆとりができたらやってみたいなとは思うんですけど」
(投資していない・20代女性 専門学校生)
「アルバイトの(収入の)中だけで、投資をするのはちょっとリスクが高い。まだ手をつけられるところではないのかな」
投資している人は…
一方「投資している」と答えた人たち。
取材の前に予想していたより多くいました。
長年、株式投資をしているという70代の男性。
これまでの投資額は3000万円近くに上るといいます。
さらに、金=ゴールドも所有し、金庫に預けているそうです。
「金持ちはもっと持っていますよ」と謙遜する男性に投資で得た利益は何に使うのか尋ねると、航空会社の株主優待券を示し、こう言いました。
「老後の生活資金。あと、旅行とかレジャーかな」
暗号資産も
また、これは投機的な側面が強いかもしれませんが、かつては仮想通貨と言われた暗号資産を取り引きしているという人たちも。
(投資していない・20代男性 大学生)
「先輩の紹介で始めました。20万円くらい入れてみて、30万円くらいまで増やせた時にもうやめました。僕の方はわりとうまくいったんですが、ほどほどにしないといけないなと。あくまで経験としてやってみたという感じですかね」
(投資している・30代男性 会社員)
「一時期は(仮想通貨が)はやったとき、つられてやったんですけど、あんまり分からない分野に投資してしまい結局50万円ほど損してしまった」
最近始めた人が多い? 背景にNISA
「投資をしている」と答えた人の多くは、ここ数年で始めたという人たちでした。
背景には2014年に始まった「NISA」(=年間120万・最長5年間)、2018年に始まった「積立NISA」(=年間40万円・最長20年間)の普及があるようです。
(投資している・30代女性 会社員)
「投資信託をやっています。銀行の窓口で勧められて。積立NISAというんですかね」
(投資している・20代男性 会社員)
「ことしからNISAを始めました。貯金でなく、簡単なものから始めてみようかと。同期の中にかなり投資を考えている人がいて、あやかったわけじゃないですけど、一緒にやってみようかと」
NISAとは
このうち「NISA」は年間120万円を限度に株式などに投資でき、5年間、利益や配当が非課税になる制度です。
2023年末に投資期限を迎えますが、仕組みを変えたうえで5年間延長することが決まっています。
2024年以降は年間で最大122万円。
5年間で最大610万円の投資が非課税になりますが、政府はこの制度をさらに改革することにしています。
「今」投資をする理由、それは…
それにしてもなぜ今、投資なのか。
その動機として多く聞かれたのが今の超低金利、さらに将来への不安でした。
(投資している・40代男性 会社員)
「貯金してもお金は増えないと思ったので、それなら投資しようと。投資額は月に3万円ぐらいですね」
(投資している・40代女性 会社員)
「iDeCo(=個人の確定拠出年金:掛金や運用益が非課税)と積立NISAをしています。ちょっと老後とか考えますよね。年金もどのくらいもらえるかどうか、分からないので」
(投資している・50代男性 教員)
「今まで興味なかったんですけど、ことしから妻と相談してやり始めました。老後2000万円問題に備えるためです。今は元気なので働いていればいいですが、70、80代になった時、どうなるか分からないので」
(投資している・30代男性 会社員)
「銀行に預けるよりはちょっと増やせたらいいかなという気持ちです。このまますぐ使うお金ではないので、増やしていって老後とかに使えるようになったらいいかなというぐらいです。国とか信用できないので、個人で、自分で用意しておかないと」
街頭インタビューの結果は
新宿で2日間にわたり、30人に取材した内訳です。
もちろん、統計学的に有意なものではないですが、伺った貯蓄額別に、投資している人、投資していない人にまとめました。
貯蓄額は1000万円以上ある人たちから、100万円以下までさまざまでした。
今回聞いた中では、貯蓄額が少ないと、投資しないと答えた人たちが多い傾向にありました。
専門家の見解は
今回のインタビューで集まった声をもとに、2人の専門家に聞きました。
家計の動向などに詳しい日本総合研究所の小方尚子主任研究員は「NISAなどは少額から始められることに加えて、SNSなどで情報も増えているので、貯蓄額にかかわらず、すそ野は広がっている」と分析。
一方で「投資にはリスクが伴うことは認識しておくべきだ。メリットとデメリットをしっかり自分で調べて理解したうえで、始めるべきだ」とも指摘しました。
経済政策に詳しい関東学院大学の島澤諭教授は「多くの国民にとっては、給料は増えず、コロナで切り詰める生活が続き投資に回す余裕がないというのが実感だと思う。投資そのものを否定するものではないが、所得の底上げを実現することがまずは重要だ」と話していました。
みなさんの意見を教えてください
政府が力を入れる「貯蓄から投資」の流れは、どこまで進むのでしょうか。
みなさんの考えや意見をぜひお寄せください。
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(おはよう日本 ディレクター 長野匠 記者 小國博史)