なぜ“全国ぜんこく一いち人口じんこうが減へる村むら”に20代だいが移住いじゅう？マルチワークって何なに

「将来しょうらい、人口じんこうが5分ぶんの1に減へる可能かのう性せいがあります」

4年ねん前まえ、全国ぜんこくで最もっとも将来しょうらいの人口じんこうが減へると指摘してきされた奈良なら県けん川上かわかみ村むら。
今年ことし4月つき、20代だいの女性じょせいが移り住うつりすんできました。
その決断けつだんを後押あとおししたのは、村むらが始はじめたマルチワークと呼よばれる働はたらき方かたでした。

（奈良なら放送ほうそう局きょく 記者きしゃ 及川おいかわ佑子ゆうこ）

“全国ぜんこく一いち人口じんこうが減へる” 川上かわかみ村むら

奈良なら県けん川上かわかみ村むら。奈良ならでは「吉野よしの川がわ」、和歌山わかやまに入はいると「紀の川きのかわ」と呼よばれる川かわの源流げんりゅうにある山やまあいの村むらです。

人口じんこうは1100人にん余あまり。昭和しょうわ35年ねんには8000人にん以上いじょういましたが、吉野よしの杉すぎで知しられる林業りんぎょうの衰退すいたいで人口じんこうは大おおきく減へっています。

2018年ねんには、国立こくりつ社会しゃかい保障ほしょう・人口じんこう問題もんだい研究所けんきゅうじょが「2045年ねんまでの人口じんこうの減へり方かたが全国ぜんこくで最もっとも大おおきくなり、人口じんこうが5分ぶんの1にまで減へる可能かのう性せいがある」と指摘してき。

民間みんかんの有識者ゆうしきしゃらでつくる団体だんたい「日本にっぽん創成そうせい会議かいぎ」は2014年ねんに、将来しょうらい「消滅しょうめつ可能かのう性せい」がある自治体じちたいの一ひとつになっているという試算しさんを公表こうひょうしています。

20代だい女性じょせいが村むらにやってきた

この村むらに今年ことし4月つき、移住いじゅうしてきたのが、大阪おおさか府ふ出身しゅっしんの阪上さかうえ美咲みさきさん（27）です。
アートギャラリーを併設へいせつしたカフェで週しゅうに4日にちほど働はたらいています。

阪上さかうえ美咲みさきさん
「ひとりで来きたけどひとりじゃないみたいな感かんじで、人ひとの優やさしさ、自然しぜん、ごはんもおいしいし、すてきなところです」

スーパーや病院びょういんが徒歩とほ圏内けんないにある便利べんりな生活せいかつを手放てばなし、移住いじゅうを決意けついさせたものは何なにか。その一ひとつが村むらが取り組とりくむマルチワークという働はたらき方かたでした。

どんな働はたらき方かたなのか。取材しゅざいで密着みっちゃくしたのは火曜日かようびです。

阪上さかうえさんは午前ごぜん中ちゅうカフェで、開店かいてん前まえのホールの清掃せいそうや料理りょうりの仕込しこみをしていました。
ランチタイムの混こみ合あう時間じかん帯たいには、接客せっきゃくや配膳はいぜんなどで大忙おおいそがし。
そして、午後ごご2時じすぎ、カフェを後ごにした阪上さかうえさんが向むかったのは…

学童がくどう保育ほいく所しょでした。
保育ほいく士しの資格しかくを持もつ、阪上さかうえさんのもう一ひとつの職場しょくばです。

夕方ゆうがた、学校がっこうの授業じゅぎょうを終おえて元気げんきいっぱいやってきた子こどもたちを笑顔えがおで迎むかえ、おやつを食たべさせたり、宿題しゅくだいの面倒めんどうを見みたり。

二ふたつの仕事しごとを掛け持かけもつのは大変たいへんではないか尋たずねると…

阪上さかうえ美咲みさきさん
「楽たのしくやらせてもらっていますよ。カフェは地域ちいきの方々かたがたとよく話はなせたり、新あたらしいお客おきゃくさんから話はなしてもらえたりする。学童がくどう保育ほいく所しょは子こどもと関せきわれるからいいなって思おもいます」

休やすみの日ひや仕事しごとの合間あいまには、村内むらうちの滝たきをめぐるなど、大だい自然しぜんを満喫まんきつ。
2つの仕事しごとを掛け持かけもちして忙いそがしいながらも、充実じゅうじつした毎日まいにちを送おくっているといいます。

阪上さかうえ美咲みさきさん
「住すむところだけあっても、あるいは仕事しごとだけあっても、移住いじゅうするには大変たいへん。たまたま移住いじゅうを決きめる際さいに、両方りょうほうすっと見みつけられたからよかったです。これからも仕事しごとはしつつ、でものんびり村むらの生活せいかつを楽たのしみたい」

マルチワークって？

阪上さかうえさんのカフェと学童がくどう保育ほいく所しょのマルチワーク。

村むら内ないの限かぎられた「働はたらく場ば」を移住いじゅう者しゃに向むけて提供ていきょうできるよう、村むらが取り入とりいれた仕組しくみです。

国くにが2年ねん前まえ、全国ぜんこくの人口じんこう急減きゅうげん地域ちいき向むけに交付こうふ金きん制度せいどを立たち上あげました。

詳くわしく見みていきます。

村むら内ないにある複数ふくすうの事業じぎょう者しゃが協力きょうりょくし合あい、協同きょうどう組合くみあいを新あらたに設立せつりつ。
この組合くみあいが、いわば派遣はけん会社かいしゃのような役割やくわりを果はたし、村むらに住すみ仕事しごとを求もとめる人ひとと、雇用こよう関係かんけいを結むすびます。

組合くみあいは、働き手はたらきて・事業じぎょう者しゃ、双方そうほうのニーズを聞き取ききとったうえで、2か所かしょ以上いじょうの勤務きんむ先さきを選定せんていし、派遣はけん職員しょくいんとして送り出おくりだします。

複数ふくすうの職場しょくばを掛け持かけもちしても、勤務きんむ時間じかんは1日にち8時間じかん、週しゅう40時間じかんが基本きほんで、給与きゅうよは組合くみあいから一括いっかつで支払しはらわれます。

マルチワークは移住いじゅう者しゃに働はたらく場所ばしょを提供ていきょうするだけでなく、事業じぎょう者しゃ側がわにもメリットが大おおきいといいます。

例たとえば、繁忙はんぼう期きが夏場なつばに偏かたよっている観光かんこう業ぎょう。
大雨おおあめの時期じきには仕事しごとが減へる林業りんぎょう。
一ひとつ一ひとつの事業じぎょう者しゃでは年間ねんかんを通つうじた雇用こようが難むずかしくても、この仕組しくみを使つかえば、繁忙はんぼう期きだけ働はたらきに来きてもらうことが可能かのうになります。

地元じもとの事業じぎょう者しゃの後継こうけい者しゃの確保かくほにも、将来しょうらい的てきにはつながるのではないかと村むらは期待きたいしています。

川上かわかみ村むらくらし定住ていじゅう課か 大辻おおつじ孝則たかのりさん
「マルチワークは人口じんこう減少げんしょうに歯止はどめをかけるというのはもちろんですが、今いまある産業さんぎょうをいかに維持いじしていけるかということも必要ひつようになってくると思おもいます。暮くらしに欠かかせない仕事しごとをしている事業じぎょう所しょや、伝統でんとう産業さんぎょうを守まもるためには、どうしても人ひとが必要ひつようになる。そこをうまくマッチングできたら、理想りそうかなと思おもいます」

「村営そんえい住宅じゅうたくだけで人ひとが来くるわけない」

村むらはマルチワークにたどりつくまで、あの手この手あのてこのてで対策たいさくを考かんがえてきました。

きっかけは、10年ねん前まえの2012年ねん。
村営そんえい住宅じゅうたくの建設けんせつを県けんの担当たんとう者しゃに相談そうだんしたときに言いわれたひと言ひとことです。

「村営そんえい住宅じゅうたくを作つくって、それだけで住すむ人ひとが来くるわけじゃないんじゃないですか？」

どうやったら村むらに来きてもらえるのか、もっと幅広はばひろく考かんがえないといけない。

役場やくばの20代だい30代だいの若手わかて職員しょくいんたち10人にんほどで勉強べんきょう会かいを立たち上あげました。

お金おかねだけじゃなく働はたらく場所ばしょも

そして村むらがターゲットに据すえたのは、若わかい子育こそだて世代せだいです。

結婚けっこんすれば祝い金いわいきん10万まん円えん。
子こどもが産うまれれば2歳さいの誕生たんじょう日びまで合計ごうけい30万まん円えんを給付きゅうふ。
18歳さいまでは医療いりょう費ひが実質じっしつ無料むりょう。
空き家あきやバンクも整ととのえ、住すまいの確保かくほも後押あとおししました。

これらの政策せいさくは、村むらの若年じゃくねん層そうの人口じんこうが増ふえるなど着実ちゃくじつな成果せいかをあげつつありました。

それでも2018年ねん、国立こくりつ社会しゃかい保障ほしょう・人口じんこう問題もんだい研究所けんきゅうじょは2045年ねんまでの人口じんこうの減へり方かたが、川上かわかみ村むらが全国ぜんこくで最もっとも大おおきい可能かのう性せいがあると指摘してきします。

村むらでも、移住いじゅうを希望きぼうする人ひとたちから「働はたらく場所ばしょが見みつかるかどうかという不安ふあんが、移住いじゅうに二の足にのあしを踏ふむ原因げんいんになっている」と聞きく機会きかいも多おおかったといいます。

川上かわかみ村むらくらし定住ていじゅう課か 大辻おおつじ孝則たかのりさん
「今いまの仕事しごとをそのままで村むらに移住いじゅうするのは、通勤つうきんを含ふくめてなかなか不便ふべんになってきます。そうすると移住いじゅう者しゃは職しょくを変かえるという人ひとがほとんど。住すむところはもちろんですが、働はたらく場所ばしょを作つくることがうちの村むらでは重要じゅうような要素ようそだと考かんがえました」

そんななか村むらが取り組とりくむことにしたのがマルチワークでした。
去年きょねんからスタートし、これまでに2人にんが村むらに移住いじゅう。
ことしはさらに3人にんほど増ふやすことができればと期待きたいしています。

変かわる働はたらき方かた 村むらの今後こんごは…

最近さいきんでは、テレワークなど柔軟じゅうなんな働はたらき方かたを基本きほんとする企業きぎょうも出でてくるなど、「働はたらく場所ばしょ」も徐々じょじょに姿すがたを変かえようとしています。

川上かわかみ村むらでは夏なつに移住いじゅう希望きぼう者しゃを対象たいしょうにツアーを企画きかくしていて、マルチワークの仕組しくみを紹介しょうかいしたり、子育こそだて中ちゅうの世帯せたいを念頭ねんとうに学校がっこうの見学けんがくや名所めいしょ巡めぐりも企画きかくすることにしています。

人口じんこう減少げんしょう対策たいさくは、一朝いっちょう一夕いっせきには進すすむものではありません。
“全国ぜんこくで一番いちばん人口じんこうが減へる”と指摘してきされた川上かわかみ村むら。

前まえを向むき村むらの未来みらいを真剣しんけんに考かんがえる人ひとたちと、村むらの豊ゆたかな自然しぜんや暮くらしを愛あいする移住いじゅう者しゃたちの思おもいが交まじわったとき、村むらの未来みらいにどのような変化へんかをもたらすのか。

村むらの今後こんごの行方ゆくえに注目ちゅうもくし続つづけたいと思おもいます。

ソース：NHK ニュース