つらしくらし

昔むかし、大坂おおさかの呉服屋ごふくやの男おとこが、番頭ばんがしらの使つかい込こみでお店みせは破産はさんし家族かぞくも離散りさんしてしまった。

もう一度再出発いちどさいしゅっぱつをしようと、西にしへ向むかってあてもなく旅たびをしていたが、道みちですれ違ちがった男おとこから財布さいふを盗ぬすまれてしまった。本当ほんとうにすっからかんになってしまった男おとこの目めの前まえに、「西にしつらし、北きたくらし」と書かかれた道みちしるべがあった。

西にしへ行いっても辛からい、北きたに行いっても暗くらい。人生じんせいに絶望ぜつぼうした男おとこは、近ちかくのお寺てらの松まつの木きに縄なわをかけ首くびをつって自殺じさつしようとした。そこへ寺てらの和尚おしょうが止とめに入はいり、死しのうとした理由りゆうを聞きくと、笑わらって言いった。その道みちしるべは「西にしつらじま、北きたくらしき」と書かかれたもので、沢山たくさんの落おち葉ばが積つもって最後さいごの文字もじが見みえなくなっていただけだった。

そこへ、先さきほど立たち寄よっていた茶店ちゃみせの爺じいさんが走はしって追おいかけてきて、男おとこの財布さいふを届とどけてくれた。財布さいふは盗ぬすまれたものではなく茶店ちゃみせに落おとしていただけだった。男おとこは思おもいなおして、再起さいきを誓ちかって西にしへ旅立たびだっていった。

10年後ねんご、男おとこは商売しょうばいを成功せいこうさせた。男おとこは、寺てらに立派りっぱな釣鐘つりがねを納おさめ、茶店ちゃみせの爺じいさんには落おとした金かねとおなじ金額きんがくのお礼れいをした。そして、あの道みちしるべを見みて絶望ぜつぼうする人ひとがでないように、「西にし 連れんじま、北きた 倉くらしき」と漢字かんじで書かいた新あたらしい道みちしるべを作つくった。

ソース：NHK ニュース