近大きんだいの研究けんきゅう用よう原子げんし炉ろ運転うんてん再開さいかい 新しん規制きせい基準きじゅん下かで全国ぜんこく初はつ

東京とうきょう電力でんりょくの福島ふくしま第だい一いち原子力げんしりょく発電はつでん所しょの事故じこを踏ふまえた新あたらしい規制きせい基準きじゅんへの対応たいおうのため、運転うんてんを停止ていししていた近畿きんき大学だいがくの研究けんきゅう用よう原子げんし炉ろが１いち２に日にち、３さん年ねんぶりに運転うんてんを再開さいかいしました。新あたらしい規制きせい基準きじゅんのもとで、研究けんきゅう用ようの原子げんし炉ろが運転うんてんを再開さいかいするのは全国ぜんこくで初はじめてです。

運転うんてんを再開さいかいしたのは大阪おおさか・東大阪ひがしおおさか市しの近畿きんき大学だいがく原子力げんしりょく研究所けんきゅうじょにある研究けんきゅう用よう原子げんし炉ろで、出力しゅつりょくが１いちワットと国内こくない最小さいしょうです。

原発げんぱつ事故じこを踏ふまえてできた国くにの新あたらしい規制きせい基準きじゅんで、研究けんきゅう用ようの原子げんし炉ろも、より厳きびしい安全あんぜん対策たいさくが義務ぎむづけられたことから、３さん年ねん前まえに定期ていき検査けんさに入はいったあと、規制きせいに対応たいおうするため運転うんてんを再開さいかいできずにいました。

１いち２に日にちは、制御せいぎょ室しつに８はち人にんの学生がくせいが集あつまり、このうちの１いち人にんがレバーを操作そうさして核かく分裂ぶんれつ反応はんのうを抑おさえる制御せいぎょ棒ぼうを炉心ろしんから引き抜ひきぬくと、「１いち４よん時じ４よん６ろく分ふん、原子げんし炉ろを起動きどう」と宣言せんげんしました。そして、およそ２に５ご分ふん後ごの午後ごご３さん時じ８はち分ふん、核かく分裂ぶんれつが連続れんぞくする臨界りんかいと呼よばれる状態じょうたいに到達とうたつしました。
全国ぜんこくの研究けんきゅう用ようの原子げんし炉ろはいずれも運転うんてんを停止ていししていて、実際じっさいに運転うんてんを再開さいかいしたのは近畿きんき大学だいがくが初はじめてです。

参加さんかした大学だいがく院生いんせいの中嶋なかじま國弘くにひろさんは「緊張きんちょうしましたが、原子げんし炉ろを運転うんてんすることへの責任せきにん感かんがわきました。これからどんどん実習じっしゅうや実験じっけんを積み重つみかさねていきたいです」と話はなしていました。

また、近畿きんき大学だいがく原子力げんしりょく研究所けんきゅうじょの伊藤いとう哲夫てつお所長しょちょうは「この３さん年間ねんかん、教育きょういく面めんでは危機きき的てきな状況じょうきょうだったので感無量かんむりょうだ。今いまある原発げんぱつを安全あんぜんに維持いじするためだけでなく、特殊とくしゅな状況じょうきょうにある福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつの廃はい炉ろを進すすめるには、１いち人にんでも多おおくの優秀ゆうしゅうな人材じんざいが求もとめられている。ここからそうした人材じんざいを数多かずおおく送り出おくりだしていきたい」と話はなしていました。

大学だいがく院生いんせい「遅おくれを取り戻とりもどしたい」

近畿きんき大学だいがく原子力げんしりょく研究所けんきゅうじょでは、研究けんきゅう用よう原子げんし炉ろの停止ていしが続つづいたことで、一部いちぶの研究けんきゅうが中断ちゅうだんするなど研究けんきゅうや人材じんざいの育成いくせいに影響えいきょうが出でていました。

このうち、大学院だいがくいん１いち年生ねんせいの中嶋なかじま國弘くにひろさん（２に２に）は、原子げんし炉ろ物理ぶつりと呼よばれる分野ぶんやを学まなんでいます。
将来しょうらいは技術ぎじゅつ者しゃや研究けんきゅう者しゃとして、原子力げんしりょく関連かんれん企業きぎょうや研究けんきゅう機関きかんで働はたらきたいと考かんがえていますが、これまで実際じっさいの原子げんし炉ろに触ふれる機会きかいはほとんどありませんでした。研究けんきゅうはコンピューターで核分裂かくぶんれつ反応はんのうをシミュレーションすることで進すすめてきました。

しかし、中嶋なかじまさんは原発げんぱつの維持いじを担になう技術ぎじゅつや廃はい炉ろを安全あんぜんに進すすめる技術ぎじゅつを身みにつけるためには、実際じっさいの原子げんし炉ろで研究けんきゅうすることが欠かかせないと感かんじています。
中嶋なかじまさんは「基礎きそ的てきな実験じっけんや訓練くんれんなしで、研究けんきゅうに入はいってしまったことで、原子げんし炉ろを理解りかいするのに苦労くろうしています。原子げんし炉ろが再開さいかいしたら、遅おくれを取り戻とりもどせるように実験じっけんや実習じっしゅうに励はげみたい」と話はなしています。

人材じんざい育成いくせい担になう研究けんきゅう炉ろ 依然いぜん“遠とおい”再開さいかい

原発げんぱつを運転うんてんするにしても廃はい炉ろにするにしても、欠かかすことができないのが安全あんぜんを守まもる人材じんざいです。これまで、こうした人材じんざいの育成いくせいを担になってきたのが、大学だいがくや研究けんきゅう機関きかんなどが所有しょゆうする国内こくないの２に２に基きの研究けんきゅう用ようの原子げんし炉ろでした。

しかし、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつの事故じこのあと、研究けんきゅう炉ろにもより厳きびしい安全あんぜん対策たいさくが義務ぎむづけられ、運転うんてんできない状態じょうたいが続つづいていました。
さらに、運転うんてん再開さいかいを目指めざして原子力げんしりょく規制きせい委員いいん会かいに審査しんさを申請しんせいしたのは９きゅう基きだけで、このうち合格ごうかくしたのは近畿きんき大学だいがくの１いち基きと、京都大きょうとだい学がくの２に基きの、合あわせて３さん基きにとどまっています。

研究けんきゅう炉ろが直面ちょくめんする課題かだいの一ひとつが、対策たいさくにかかる費用ひようです。
たとえば京都きょうと大学だいがくの場合ばあい、耐震たいしん性せいの確保かくほや竜巻たつまき対策たいさくなど、規制きせいに対応たいおうするための工事こうじにすでに１いち億おく円えん余あまりが投とうじられ、さらに増ふえる可能かのう性せいもあるとされています。予算よさんが限かぎられる中なか、研究けんきゅう現場げんばからは、制度せいど面めんや財政ざいせい面めんでの支援しえんを求もとめる声こえも上あがっています。

もう一ひとつの課題かだいが、施設しせつの老朽ろうきゅう化かです。
研究けんきゅう炉ろの多おおくは、運転うんてん開始かいしから４よん０ぜろ年ねんを超こえています。例たとえば茨城いばらき県けん大洗おおあらい町まちにある日本にっぽん原子力げんしりょく研究けんきゅう開発かいはつ機構きこうのＪＭＴＲという研究けんきゅう炉ろは、いったんは運転うんてん再開さいかいを目指めざして審査しんさを申請しんせいしましたが、運転うんてん開始かいしから５ご０ぜろ年ねん近ちかく経たって老朽ろうきゅう化かが進すすみ、コストがかかりすぎるとして、廃はい炉ろにする方針ほうしんに転換てんかんしました。

全国ぜんこくにあった２に２に基きの研究けんきゅう炉ろのうち、事業じぎょう者しゃが廃はい炉ろにすることを決きめたり、検討けんとうしたりしているのは、事故じこ前まえに決きめたところも含ふくめると、半数はんすう以上いじょうの１いち３さん基きにのぼっています。さらに、研究けんきゅう炉ろはそれぞれ構造こうぞうが異ことなるため審査しんさに時間じかんがかかり、これまでに合格ごうかくした３さん基きは最短さいたんでも１いち年ねん半はん以上いじょうかかっています。

このため規制きせい委員いいん会かいは去年きょねん、研究けんきゅう炉ろの審査しんさを効率こうりつ化かすることを決きめましたが、たとえ審査しんさに合格ごうかくしても工事こうじや検査けんさなどが必要ひつようなため、近畿きんき大学だいがくは運転うんてん再開さいかいまでさらに１いち年ねん近ちかくかかったほか、京都大きょうとだい学がくは運転うんてん再開さいかいのめどさえ立たたない状態じょうたいで、人材じんざい育成いくせいを取り巻とりまく厳きびしい状況じょうきょうは依然いぜんとして続つづくことになります。

人材じんざい確保かくほにも厳きびしい現実げんじつ

文部もんぶ科学かがく省しょうによりますと、原子力げんしりょく関連かんれん企業きぎょうの就職しゅうしょく説明せつめい会かいに参加さんかした学生がくせいの数かずは、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこの前まえの平成へいせい２に２に年度ねんどには、およそ１いち９きゅう０ぜろ０ぜろ人にんいましたが、事故じこをきっかけに激減げきげんし、平成へいせい２に７なな年度ねんどにはおよそ３さん４よん０ぜろ人にんとなっていて、人材じんざいの確保かくほは差し迫さしせまった課題かだいとなっています。

また、原子力げんしりょく分野ぶんやが専門せんもんの大学だいがくの教員きょういんも減少げんしょう傾向けいこうにあり、平成へいせい１いち６ろく年度ねんどには全国ぜんこくで４よん４よん０ぜろ人にん近ちかくいたのが、原発げんぱつ事故じこ後ごの平成へいせい２に５ご年度ねんどには３さん５ご０ぜろ人にんを切きっていて、国くには、安全あんぜんを支ささえる人材じんざいをどう育そだて確保かくほするかについて、検討けんとうを重かさねています。

ソース：NHK ニュース